度咲きの魔法少女勇者は闇に煌く その9


終章 永遠の中二病少女と隠された使命

「……しかし、復活した魔王の正体がルシリエだったとはなぁ。それでロメリアの寝返りも合点がいったが、昔の討ち漏らしが原因とはあたしらもまだまだ甘かったってコトか」
「まぁねぇ……。ただ、お陰でほんの短い間だけどまた話が出来て元気にやってる姿も見せてあげられたと思えば、あながち嫌な事件だったってばかりでもないんだけど」
 やがて、決戦(デート)の夜から三日後、傷心のロメリアちゃんにママの埋葬を押し付けてしまったサイテーな失態も犯しつつ、後片付けを済ませてライラの屋敷まで報告に戻ったわたし達は、準備してくれていた盛大な祝勝の宴を丁重に断り、ささやかな食事会の後で向かった大浴場の洗い場で腰を下ろして汗を流しながら、ライラと複雑な胸中を共にしていた。
「えっと……ゴメンなさい……」
「勇者が魔王に与するなんざ、本来なら謝って許されるコトじゃない。が、今回はルフィンが許すならまぁいいんじゃないか?」
「いや許すも許さないも、わたしゃロメリアちゃんにそんな感情持ったことなかったし」
 むしろ、急にそんなハナシを振られてびっくりしてるというか。
「…………っ」
「はは、だろーな。とにかくあいつのコトを思えばあたしだけがオマエと再会出来たのは胸が痛む心地だったから、まぁこれで良かったんだろうよ。……ああ、あたしはもういいぞロメリア」
「……ま、そんだけデカいとさぞかし痛みも大きかったでしょーね?」
 そもそも、普段は鎧に覆われている癖に一番おっぱいがデカいのはどういう了見だと。
「デカい奴にはデカい奴にしか分からねぇ悩みもあんだよ……。ルシリエもよく肩が凝るってぼやいてたろ?」
「くっ、弄ってやるつもりがまさかの巨乳マウント取られるとは……!」
 そういや、それで肩を揉んでくれと頼まれてムカついたから原因の方を直接ほぐしてやんよ!とセクハラ返しをしてやったら喜ばせてしまった挙句に、不公平だから自分にも揉ませろと逆に襲われて歴史的大敗を喫してしまった苦い経験も思い出した。
「……オマエさ、やっぱルシリエと同類だよな。ロメリアもそう思うだろ?」
「ん〜、えっちなトコはけっこー似てるかも?ここへ戻る前に、アタシのカラダがどうなってるのか確認させてって脱がされてジロジロ見られたし……」
 すると、納得はしていないけれど前々からよく言われている同類説をまた持ち出され、ライラに続いて今度はわたしの背中をごしごと流してくれ始めたロメリアちゃんへ水が向けられると、何やらひと聞きの悪すぎるセリフが返ってくる。
「ちょっ、ルフィンオマエ……!?」
「いやいやいや、別にやましいイミじゃなくってねっ?!ロメリアちゃんの成長が遅れてそうなのがずっと気になってたからっっ」
 異世界召還された自分と違って本来の形での剣の勇者になる過程は知らないし、もしかしたらわたしと同じなのかと気になっただけで。
「……ホントかよ。んで、収穫は?」
「思った通りのツルツルすべすべで鼻血出た……もとい、元々ロリ……もとい小柄な方ではあったとしても、やっぱり勇者になった時から身体的な成長が止まってる感じかな?」
 生年月日が不明ではあるものの、見た目の推測でロメリアちゃんが置き手紙を残して家を出たのはおそらく十一〜十二歳ころで、今のカラダつきはその頃のままっぽい。
「そうですよ?聖霊の代行者たる剣の勇者に選ばれた者は、能力を保つ為に老いからは外れた存在となるんです。ただし、それは特別な加護によるものなので、引退した後はまた普通のヒトに戻るんですけど、でもそんなの私に聞けばすぐ分かるコトでしたのに」
 すると、名誉回復とばかり調査結果を披露するわたしに、魂だけで入浴は出来ないものの律儀に裸の幽霊状態で一緒に入ってきているスメラギが冷たい目線で答え合わせ込みのツッコミを入れてくると……。
「……うん、アタシも最初に聖霊サマに言われて承知の上だったし」
「大体、ずっと見てきたあたしに聞いた方が早ぇだろ?そんなの」
「……い、いやまぁ、わたしだっていつも聡明で的確ってわけでもないし……」
 そこから、ライラとロメリアちゃんからも攻め立てられてプチ炎上状態に。
「ふーん、つまりルフィンママって、アタシみたいなちっちゃい女の子がスキなんだ〜?」
 しかも、ロメリアちゃんは何かを悟ったらしく、ぴったりと密着しながら耳元でイヤらしく囁いてくる始末。
「いや、そ、それは……」
 はい。確かに魔法少女アニメ好きだったのもあって、ロメリアちゃんみたいなちっちゃくて可愛いコは大好物です……というのは事実なので間違っても口には出せませんが。
「んふふ〜、ルフィンママっておっぱいおっきくないのにちっちゃなコがいいのぉ……?」
「胸はカンケイないでしょムネはぁ……っっ」
 そして、口ごもるわたしの後ろから胸を鷲づかみにしつつ、ヘンタイ聖女サマ譲りに遠慮なく指先で攻めてくるロメリアちゃん。
「けど、ちっちゃいけどとってもビンカンってママ言ってたけど……」
「んひっ!?こ、こら……ダメぇ……っ」
「んふふ〜ホントだ、よわよわ〜♪」
「…………っっ」
 ……というか、ドコでこういうの覚えたのかは知らないけれど、攻めっけが強いのが困るというか性癖に悪いというか。
「ったく、ずいぶんと仲いいなオマエら?だったらいっそのコト、今度はオマエが連れていってやったらどうだ、ルフィン?いやナズナだったか」
「……まぁ、そうしたい気持ちも無くはないんだけどさ、わたしゃもうこの世界の住人じゃないのは前にも言ったでしょ?……って、こ、こらドコ触ってぇ……あうっっ」
 ヌルヌルになった指でそんなトコ詰まんじゃ……っっ。
「ですねぇ、なかなかの逸材とは思いますけど、うちに来るべき人材ではないですし」
「そうか……んじゃこれからどうしたいんだロメリア?家に帰って暫く静かに暮らすか?」
「……ん、考えたけどママの墓参りしたらまた少し旅に出てみるつもり」
 それから、娘に弄ばれ続けるわたしのコトはお構いナシにライラママが今後の希望を優しげに問うと、ロメリアちゃんはまさぐる手を止めないままそう告げてくる。
「旅って……もしかしてルシリエみたいに?……って、あっ、ちょっ……っっ」
 いや、真面目な会話をしているんだからヘンな声出すなと言われそうだけど、でもロメリアちゃんの右手がお腹から太股の方へ下っていってるんですけど……っっ。
「もう魔王になっちゃってた後だけど、また会えたルシリエママから治癒魔法を教わったし、他にやることもないから少しマネゴトしてみようかな、って」
 そしてそう言うと、今度は浮いてるスメラギの方へチラりと視線を上げるロメリアちゃん。
「……いいんじゃないですか?それもまた、当代勇者らしいと思いますし」
「うん、わたしもすごくイイと思う。いやでも、そっちはらめぇ……っっ」
 今となっては知る由も無いけれど、きっとそれもルシリエが託した希望なのだろう。
「ん〜、ホントにダメなのかなぁ?ママのカラダはそうは言ってないよ〜?」
「うぐ……っ、え、えっとまぁ、可愛いムスメに背中流してもらってイヤな気分になるわけないし……ぃ?!」
 いやでも、この刺激は気分とかそういう言葉なんかで表現できるものではなく……。
「……あは。んじゃねぇ、あとでルフィンママも洗ってくれる?」
「…………っっ」
 ……ただ、ロメリアちゃんがこんな小悪魔みたいなコに育ったのはヘンタイ聖女様の教育の賜物なのか、元々こういう性格だったのかは気になるかもしれないとして。
「ま、そう言われてしまえばあたしも止める理由なんざないが、いささか残念でもあるな。今度こそ白百合騎士団に入れてやろうと思ってたのによ」
「あはは、もしかしたらそれがイヤで旅を選んだのかもよ?……んひぃっ」
「そーいうワケじゃないけど……まぁでもライラママのもとにずっとはちょっと……」
「あー分かる……気が休まらなさそうよね……?って、も、もう、いいかげんにぃ……っ」
 正直、わたしも最初に鍛えて貰っていた時の感想が同じだったし。
「オマエらなぁ……一応、少しくらいは考える様になったつもりなんだが、やっぱあたしは若い連中に堅苦しすぎたりするのか?うーん……」
「……いやまぁ、アンタはそれでいいとも思うけど……そういや許す許さないの話をするなら、聖霊様はオコじゃないの?」
「もちろん、何とも思ってないコトは無いですが、一度選んでしまった相手は本人が死を迎えるか引退を願い出るまでは一方的に資格を解除することはないんですよ。というか、出来ないと言った方がいいかもですが」
 すると、冗談半分のつもりが真面目に悩み始めてしまったライラに苦笑いを返したあとで、ふと頭の片隅にこびり付いていた心配事を思い出してスメラギへ水を向けてみると、退屈そうにふわふわと目の前を浮きつつ肩を竦めて素っ気なく代弁してきた。
「ふーん?つまり、ロメリアちゃんはお咎めなしと。それはよか……んぁっ」
 ……ただ、うちのロリ上司も実体はないけど姿は素っ裸なので、そんな風に無防備に飛び回られると眼福……いや目のやり場に困るんですが。
「実は無かったワケでもないですけど、結果的にトコヨを自らの手で祓いましたし、今後も心の赴くまま活動してもらえればいいかと。次の魔王の器になるのだけは困りますが」
「ん〜その時は、アタシのコトもルフィンママが止めてくれる……?」
「わたしはもう……んっ、ゴメンだから……!そんな時が来たら、今度こそガチ……闇落ちもんっ……だしっっ」
 それから、本気じゃないのは分かっているつもりでも、敏感な部分を小さな指先で擦りつつ尋ねてくるロメリアちゃんに、わたしは喘がされつつも大真面目に答えてやった。
「うん……」
「……そんじゃ、明日からはまた別々の道か。まぁ二人とも気が向いたらいつでも遊びに来いよ?どんなに立場が変わろうが、あたしらはずっと家族であり親友なんだからな」
「ありがと……。たまにはロメリアちゃんに会いに来る約束もしたし、またご馳走でもタカりに寄るわ……って、もうっ、いつまでやって……ぁっ」
「ええ、私も宴での一杯をすごく楽しみにしてましたのに、ナズナさんの為にこんなカラダになってしまって飲めませんでしたし……はぁ」
 そして、寂しそうながらも温かい笑みで送ってくれたライラにわたしもグータッチで応えると、ついでの呑兵衛上司が心底残念そうに溜息を落としてそう続けてきた。
「アンタもまたついてくる気満々ですか……く……っ、ロメリアちゃんもう……!」
「もう、なぁにカナ……?」
「だ……ここで耳たぶ噛んじゃ……にゃぁぁぁぁ……っっ」
 ……いずれにせよ、何だかんだでこの世界との縁はこれからも続きそうである。

                    *

「……なるほど。何はともあれ復活した魔王討伐、ご苦労様でした」
 翌日、朝早くみんなでルシリエの墓参りをした後にいよいよ一旦の別れを告げ、ライラに謁見へ向かう為の普段着と一緒に用意してもらった馬車の中で忘れていたお化粧直しを慌てて施しつつお昼過ぎに王城へ出向き、早速通された謁見の間で結果は結果として過程を少しばかり改変し簡便に報告すると、リンドウ王は安堵した様子で労いの言葉をかけてきた。
 ちなみに、いっそテレシア・ルフィンの恰好でサプライズしようかなとも少し考えたものの、そういう緩みがまた悲劇を生みかねませんよと上司に怒られてしまったりして。
「しかし、貴女がたが出立してから一週も経たぬうちに魔王の気配が消失したとの報告を受けた時は驚きましたが、新しい剣の勇者の助力があったのですね。……それも、一緒に消息不明となっていた聖女ルシリエの忘れ形見とは」
「ええ、本来の魔王討伐はロメリアちゃんの役目だったのでしょうが、まぁわたしが一旦引き請けたお仕事ですし、あのコも任命されたばかりの身でしたので、今回は予定通りにこちらが主導で当たらせてもらいました」
「ありがとうございます。……それで、新たな剣の勇者ロメリアにも是非労いの言葉をかけたいのですが、その後の行方は分からないのですか?」
「ええまぁ、新米勇者らしく見聞を広めながら亡き母の意志を継ぎたいとのコトですので。一応、折を見て挨拶に行っておいた方がいい、とは言っておきましたけど」
「助かります。先代王の所業を思えば僕が言う資格があるのかは分かりませんが、アステリア王家は勇者の力添えとなる義務がありますから」
「…………」
 伏せた魔王の正体を考えればロメリアちゃんも少しばかり不本意かもしれないけれど、とりあえずこれでイイ具合に話を纏められたかな、と。
「……それにしても、生ける者達の負の感情が蓄積されて瘴気の集合体を生み、それを根源にして魔王が誕生していたとは、まかり間違えば我が父がなっていたかもしれませんね」
「それはまぁ……誰しも心の弱さはあるものですし」
 ともあれ、それから話の矛先をトコヨの存在へ向け自虐気味に肩を竦めてぼやくリンドウ王に、苦笑い交じりで図らずも怨敵のフォローを入れるわたし。
 ……というか、ルシリエに負けず余程わたしが処刑されたのを恨んでいるみたいで、むしろ王子のメンタルの奥底に潜んでいそうなモノの方が心配にはなるものの……。
「しかも、お話を聞く限りでは将来に再び魔王が復活するのも止められなさそうですね?」
「まぁ、逆に言えば誰にも止めようが無いので、お気に病まれない方が……」
「いえ、それでも根絶には至らずとも、王として僕に出来ることはあると思います」
「……そうですね。わたしには応援するコトしか出来ませんけど」
 それでもこのリンドウ王子、王なら自分の代では復活しない程度には遅らせるコトが出来るかもしれないし、そうでもないかもしれないけれど、それは最早関わりの外だろう。
「では、これにてお仕事は完了ということで。お疲れさまでしたナズナさん♪」
「はいはい、どーも。……それじゃ、おカネを受け取って帰りましょうか」
 というコトで、これにて一件落着となってうちのボスから改めて労いの言葉をかけられ、いよいよ報酬を受け取る段階となったものの……。
「ええ、謝礼は用意していましたのでお受け取り下さい」
「……って、えええええ……」
 それから、リンドウ王が数人がかりで運んで来させた移動式の大きなテーブルの上にどっさりと盛られた山吹色の小判ならぬコインの山を見て軽く引いてしまうわたし。
「お支払いは金貨がいいと言われたので急ぎ集めましたけど……持てます?」
「ちょっ、どんだけ請求したのよ、スメラギ……!」
「だって、たっぷり吹っ掛けろと言ったのはあなたですよ、ナズナさん?」
「いや、確かに言ったけどさぁ……」
 それでも、ものには限度があるだろうというか、ライラの聞いた評判通りに法外なのは否定できないみたいだった。
「確かに、世界の命運の対価と考えれば高いと言ってはいけないのでしょうね。……ただ、今後はなるべくお願いせずに済むよう頑張ってみますが」
「……まぁ、そーしてください」
 とはいえ、これでいくらかは溜飲が下りた気分にはなれたけど、ね。
「……それで、戻って来られたら催す予定だった宴は本当に辞退されるのですか?」
「ええ、お仕事が終わればさっさと立ち去るのが基本方針(モットー)みたいなので」
 それから、併せて用意された分厚くて大きな袋に金貨を詰め込んでもらったのはいいとして、どうやって一人で運ぼうかと思案していたところで、残念そうに念を押してくるリンドウ王へ素っ気なくお断りを入れるわたし。
 ライラのうちでも断った通り、本人の望みとはいえ大切な仲間を手にかけての祝杯なんてとても気分じゃないし、ましてやこの王宮での宴と聞くだけで背筋がぞわっとする抵抗感を覚えてしまった辺り、まだまだ心の傷も深いみたいである。
「分かりました……。では報酬とは違うのですが、最後にこれも受け取っておいてください」
 すると、リンドウ王は名残惜しそうに頷いた後でそう続けると、後ろで控えていた側近からハンガーに掛けられたブレザーにブラウス、スカートにネクタイと一式が纏められた一着の衣装セットを受け取り、自らこちらへ差し出してきた。
「え……!?それは……」
 もちろん、見覚えがあるというか忘れるわけがない。
 確か、最後は王宮内のわたしの部屋のクローゼットに仕舞ったままになっていた、この世界へ飛ばされてきた時に着ていた学校の制服である。
「これはテレシア・ルフィンの遺品で、彼女が処刑された後に前王は王宮や王都から彼女に関する物を集めては燃やしていたのですが、いくつかは僕が回収しておいたんです」
「でも、どうしてこれを……?」
「何となくですけれど、これは貴女に渡しておいた方がいいと思いまして」
 それでも、あまりのサプライズな計らいに目を見開くわたしへ、別人メイク中で素顔が見えないはずのリンドウ王は思わせぶりにそう告げてきた。
「…………っ」
 えっと、リンドウ王子、もしかして……?
「それと……これは戯言ですけど、ナズナさん。僕の妃となって一緒にこの国を守り続けてくれるつもりはないですか?」
「……っっ、あの、えっと……」
 そして更に畳みかけられた予想外の求婚に、わたしも言葉に詰まってしまったものの……。
「では、そろそろ御暇しましょうか、ナズナさん?」
「……了解。それじゃ御好意に甘えて制服も回収させてもらいますね?ごきげんよう」
 すぐにスメラギからぽんと肩を叩かれて我に返ると、ハンガーごと服を受け取り深々と一礼した後で、あとは振り返ることなく金貨が詰まった大袋に縁日で売られている風船のイメージで重量軽減と重力反転の魔法をかけて宙に浮かせつつ持ち帰っていった。

「ふ〜〜っ……」
「……もしかして、ちょっと惜しかったかなとか思ってます?」
 それから、両手一杯の荷物を抱えて正門へ向かう途中、無意識に溜息が漏れてしまったのに反応して、隣のスメラギが珍しく不安げにこちらを覗き込みつつ訊ねてくるものの……。
「王妃様になり損ねたのは別に、なんだけど……ただこれで魔法少女勇者テレシア・ルフィンの伝説もホントに一区切りと思えば、まぁちょっとね」
 ……そして、わたしの心に高らかに鳴るは新たなる始まりの鐘、ってか。
 ただ、その前に聞いておかなきゃならない事も山ほどあるんだけど。

                    *

(……そういえば、あの日もちょうどこんな感じだったっけ?)
 やがて、アステリア世界から別れを告げ、久々って程でもないはずだけど随分と久しぶりに感じる拠点世界の自宅へと戻った後で、夕暮れ前のオレンジ色に染まった自室でせっかくなので返却してもらった制服に袖を通してベッドに背中を投げ出していると、奇しくも再現されてしまったあの日が思い出されて懐かしさが込み上げてくる。
「…………」
 あれは、十八の誕生日も近づき一つの肩の荷が下りたさる秋の日、新たに選ばれた生徒会長が就任しておそらく惜しまれつつも石頭会長の任期を全うした後で、達成感と疲労、そしてどこか虚しさも抱えつつ帰宅するや、何となく気が抜けてしまい制服も脱がないままこんな感じでベッドに身を投げ出したわたしは、ぼんやりとこれで良かったのかな?と振り返り始めていた。
 元々、生徒会長は自分からやりたいと思ったわけでもなく、立候補するのは地方議員ながら政治家の家系たる石蕗家に生まれた子女の暗黙の義務となっていて、それでも選挙に落選してしまえば済む話だったのだけど、たまたま高校二年の学園祭の時に、よく知る間柄ではなかったもののクラスメートのコが他校の生徒に囲まれて言い寄られていたのを見過ごせず割って入って助けてあげたことがきっかけで、何やら女子生徒達によるわたしを猛烈に担ぎ上げる流れが生まれて、あれよあれよという間にぶっちぎり当選してしまい、親や祖父の鼻を高くしたのと引き換えに、それから石の仮面を被りみんなの為に奔走する一年が始まったのだった。
(……まぁ、それでも頼りにされるのはイヤじゃなかったんだけど……)
 ただ、そんな性格も災いして求められるがまま積極的に校内環境の改善を訴えたり、まぁ自分で言うのもなんだけどそれなりに強気な性格なのもあって交渉活動自体は苦じゃ無かったものの、そちらの方に時間を取られて好きな作品を鑑賞するヒマが激減し、一番つらかったのは始めかけていた創作活動も一旦断念しなければならなかったコトである。
(でも思えば、それがわたしを魔法少女勇者にしてしまったのかもね……)
 そんなこんなで、学業との板挟みもあり纏めて書き留める暇が取れないまま頭の中では自分の世界がどんどん肥大化し続け、いつしか空いた時間があれば幻想世界への妄想に没頭する様になり、やがて任期を終えて解放されたと思えば今度は受験勉強の追い込みが待っていたという、別に後悔はしていないとしても、やっぱりなんだかなぁ……と手足を伸ばして溜息を吐いていたところへ、急に目の前に時空の裂け目が現れてきて……。
(そうそう、こんな感じで……ん……?)
 すると、絶妙のタイミングであの時に見た時空の裂け目が再びまた目の前に広がって来ているのに気付き、慌てて上半身を起こすわたし。
「……え、ま、まさか……!?」
 そして、あの時以来な心臓の昂ぶりに、胸を押さえながら注視していると……。
「ナズナさ〜ん、ごはん出来ましたけど寝入ったりしてませんか?」
 しかし、その向こうから上半身を飛び出させてきたのは、お玉を手に持ったエプロン姿のうちのボスだった。
「あんたね……呼びに来るなら普通にドアをノックして入ってきなさいよ」
 さっきまでの昂ぶりを返せというか、そもそもこっちへ戻るとすぐにスペアの器に入っていって実体を取り戻していた癖に、また幽体離脱してるし。
「いえ、こっちの方がお台所から直接呼べるので便利なんですよ」
「次元の裂け目をインターホン代わりにってさぁ……」
 スマホが無い世界といっても、それは反則でしょと言わざるを得ないけど。
「とにかく、今夜は初任務の達成お祝いでご馳走ですよ〜?祝杯もありますし」
「……だから、祝杯とかそんな気分じゃないってずっと言ってるのに……」
 ご飯を作ってくれるのは有難いとしても、暫くはそっとしておいて欲しいんですが。
「おっと、もしかしてこれが反抗期ってやつですか?なかなか難しいですね……」
 しかし、ボスの方は察してくれるどころか、解釈違いがすぎる反応を返してきたりして。
「いつからわたしがアナタの娘になったのよ……まぁいーわ、すぐ行くから」
 ……まったく、勝手に母親ぶってるなら、次にロメリアちゃんと会った時にスメラギお婆ちゃん呼ばわりさせるわよ?ってなものである。

「……んじゃ、晴れて初仕事も終わったトコで色々と聞かせてもらうわよ?って……」
「ふぇ?なにをれすかぁ……?」
「肝心なハナシに入る前に早くも酔っ払ってんじゃねーわよ、このダメ上司……っ」
 ともあれ、それから制服を着たままキッチンまで下りて、トコロ狭しと素朴な家庭料理が並べられていたテーブルを二人で囲み、ライラから手土産に渡されていた葡萄酒での乾杯に渋々ながらも付き合いつつ、まずはお腹を落ち着かせた後でいよいよ本題に入ろうとしたものの、いつの間にやら既に一本目を空にして頬を上気させている、ほろ酔いレベルは既に通り越してしまったスメラギにわたしは全力でツッコミを入れていた。
 以前に酔っぱらう姿を見せるのはわたしと一緒の時だけとか特別感を煽っていたけど、それって結局はただの開き直り……だよねぇ?
「んぃ?けろ聞きたいことって、なんかありまひたっけ?……まさか、今さら私が何者か教えろとかいいませんよねぇ?聖霊の断片(セグメント)たるわらひにぃ……」
「それは何となく察していたというか、酔った勢いでバラしてるじゃないの……。えっとまず聞きたいのはさ、うちは単なる勇者代行サービスなんかじゃないんでしょ?ってコト」
 ともあれ、スメラギの方は今さら何をという態度で尋ね返してくるのに対して、細かい疑問はそれこそ山ほどあれど、それらを集約して一つに纏めるのならこうなる、という質問をぶつけるわたし。
「なるほろぉ。……つまり、アステリア王家からの依頼で魔王を祓いつつも、我々の真なるターゲットはロメリアさんの方だったのに気付いてくれたというコトれすね?いっく」
「戦いの前にやくめでしょ、って言われたのはハッキリ覚えてるから。……あとさ、テレシア・ルフィンをやっていた時はわたしが剣の勇者と呼ばれていたけど、でもルシリエと同じくトコヨに魂を囚われていたイル・ヴェールが剣の勇者のままで、その次に娘のロメリアちゃんが聖霊サマから選ばれたのなら、んじゃ結局自分は何だったのか?って話」
 そもそも、わたしはあのメダリオンも聖魔剣も持たせてもらったことが無いワケで。
「何だったのかって、あるイミ最もらいじな役割を担う存在なんですよぉ?……えっとれすね、少しおさらいから入りますけど、実体の無いトコヨはヒトの心の弱みに付け込み依り代を探しては魔王に仕立て上げているんですがぁ、その対象はその当時に最も強いチカラを秘めている人が都合いいのですぅ。となればぁ、一番うってつけの相手はろなただと思いまふ?」
「うってつけって……えっともしかして、天敵である剣の勇者が理想、ってコト……?」
 自分で言ってそりゃないだろう、って感じだけど、ただトコヨは誰にでも無節操に話しかけていたみたいだし。
「まぁ、そうなっちゃうんれすよねぇ……。剣の勇者の決め手となる魂の輝きと精神の強さ弱さは必ずしも一致しないものれしてぇ、任命後に負ってしまった心の傷口からトコヨに取り込まれてしまうのはありうる可能性ですし、また人間性に関しても同じことが言えまふ……ひっく」
「……つまり、闇落ち無しでもチカラを悪用する困った勇者も出てくることがあると」
 この場合、ルシリエやイル・ヴェールが前者でロメリアちゃんが後者になるのかな?
「ひかしぃ、剣の勇者は一度任命してしまえばその世界にいる限りは後で聖霊側から取り消せないんですよぉ。それはメダリオンを受け取った時からエレメントを無制限に行使できる特権を得られた勇者は聖霊をも従えているチカラ関係になるからなんれすけどぉ」
「…………」
 それはまた、聖霊様も思い切ったことをしてるもん、だけど。
「……そこでぇ、取り消せない代わりに対抗手段を用意することにしたワケれすねぇ。それが使い手の“念”によって無属性エレメントを自由自在に行使できるどころか増幅まで可能にした、剣の勇者すら狩り得る唯一の反則(チート)武器、具現化(メタリラ)の杖になりまぁす♪」
「…………っ、あの杖が……」
 そういえば、以前にスメラギがどの世界にも一本あると言っていたけれど、つまり勇者が闇落ちしや暴走してしまったら、あれを使って止めろというコトだったのか。
「ただしれすねぇ、具現化(メタリラ)の杖を扱うには強靭な念力、たとえば生死が常に横たわる修羅場の中でさえも常に出力を明確にし続けられるコトが条件になるんれすがぁ、そんなのマトモな精神力の人には到底ムリな要求れすよねぇ。つまりぃ、ナズナしゃんみたいな……」
「……はいはい、わたしみたいなヒマさえあれば夢と現実の区別が曖昧になるぐらい魔法少女になって戦う妄想をしていた、恐れ知らずな末期の厨二病患者ですね?分かります」
 これでまた色々と合点がいったけど、マトモじゃない扱いは……いや反論不能か。
「そんなワケれしてぇ、どんな敵と対峙しようが自己中心に立ち向かえる心の強さだけでなく、剣の勇者にも匹敵する魂の輝きを持つ人間なんて、ナズナしゃんみたく他の世界から呼び寄せるのも視野に入れて探さないとそう出てくるものじゃありませんよねえ?……そこれ、ひとの姿に具現化した聖霊のわらひが具現化(メタリラ)の杖を扱える人材を探し集め、必要とされている世界へ派遣しようと創設した組織が異世界遊撃勇者団(アンブロジア)になりますぅ、むにゃ……」
「こら、まだ寝るんじゃない!ってコトは、やっぱスメラギは聖霊サマの擬人化で、他のメンバー達もみんなわたしと同じ様なチートスキル持ちってコト?……マジですか」
「ええ、そぉれすよぉ?ここまで集めた他のメンバーさんはロメリアさんより若い女の子からあなたの父親世代の方まで様々れすけど、皆さんそれぞれナズナしゃんと同じく具現化の杖にユニークな名前を付けてるんですよね〜。なんなら順番に読み上げましょうかぁ?」
「いや、後生だからそれだけはやめたげて……」
 それは、顔を合わすのが楽しみな様な怖いような……っていうか、父親世代て。
「わっかりましたぁ……ってコトでぇ、ナズナさんの真の肩書きは“最後の切り札な勇者さん”ってことになりまふかねぇ、あはは♪」
「うーん、それは喜ぶべきなのかどうなのか……」
 今まで王道派の魔法少女勇者のつもりが、実はジョーカーポジションだった件?
「でもまぁ、私のナズナしゃんなら、そんな立場もきっと楽しんでくれると期待しておりまふのれぇ、これからなにとぞよろひくお願いしますねぇ?……すぅ……っっ」
「ちっ……言いたいコトだけ言って潰れやがったわね……」
 ……けど、この掴みどころのないボスには全てお見通しですか。
「……それとぉ、ナズナさんの願いもいずれ私が叶えてあげますからぁ……むにゅ……」
「はいはい……けど、そっちはまだ当分いいわ」
 それよりもまずは、新しいキメ台詞でも考えないと、ね。

おわり

前のページへ 戻る