度咲きの魔法少女勇者は闇に煌く その7


第七章 それが、わたしのチートスキル

「…………」
 その、肩まで伸ばした黒髪に黒い着物という、まるで日本人形の様な黒ずくめの幼い少女は、ルシリエの亡骸を葬るのに空いていた場所の入り口前で、吸い込まれそうな瞳を向けたままじっとわたしを見上げて立っていた。
「あなたは、もしかして……」
「トコヨ……!そんな、先に魔王の身体から抜け出していたなんて……」
 まるで自分達が来るのを見透かして待っていたかの様で、しかも小さい姿ながら魔王にも劣らぬ瘴気が凝縮された得体の知れない気配も漂わせていて、見覚えよりも気配ですぐにピンときたわたしに、スメラギが驚いた様子でその名を口にする。
「やっぱり、このコがトコヨ……?」
 確かに、イル・ヴェールの断末魔の時に見た女の子だと思うけれど、祓われたくないから先にルシリエから逃げ出していたのは分かるとして、どうして再び姿を見せたんだろう。
「ね、おねぇちゃん……わたしのこといらない?」
 と、足を止めて用心深く対峙していると、やがてトコヨはわたしに向けてか細い声で語りかけてきた。
「……悪いけど、わたしはもう後ろの白いコと契約した身なの」
「でも、わたしと組んだらねがいを叶えてあげられるよ……?」
 そこで、わたしは声を荒らげたりはせず即座につれない返答を短く告げると、トコヨは訴えかけるように食い下がってくる。
「願い、ねぇ……」
 どうもこのコは、心の奥底に抱える諦めかけた願いを察知する能力(スキル)持ちっぽいけれど。
「ナズナさん……」
「心配しなくても、取りあったりはしないわよ。……それより、この世界もそろそろ平穏な時代のターンになっていいはずだから、あなたには一旦消えてもらわないとね」
 なんて言うと、ちょっとこちらが悪役っぽくもあるけれど、たとえ相手が予想外に可愛らしい姿だったとしても躊躇いは感じていない。
「……そう。……だったら、ほかのひとにする……」
 すると、両手が塞がっているので即座に斬りかかれないとしても、視線に殺気を込めて見下ろすわたしに対して、トコヨは無表情のままあっさり諦めたかと思うと……。
「え……?」
「……はぁ、はぁ……マ、ママ……?!」
「……っっ、ロメリア……ちゃん……?!」
 不意に背後の方で土を慌しく踏みつける音が近付いて振り返るや、息を切らせたロメリアちゃんが愕然とした表情を浮かべて立ち尽くしていた。
「きた……」
「ウソ……!ママたちが殺しあってたって……ホントだったの……!?」
「…………っ」
 確かにロメリアちゃんは寝入っていたはず……というか、朝まで起きない様にルシリエが睡眠補助魔法もかけていたハズなのに。
(まさか、先に抜け出したトコヨが……?)
「ナズナさん……」
「ねぇ、ママはどうなったの?どうしてこんなトコに運んでるの!?これじゃまるで……」
 そして、返す言葉がすぐに見つからずにこちらも立ち尽くすわたしの元へロメリアちゃんは全力で駆け寄り、抱きかかえたままのルシリエの亡骸を強引に引っ手繰ると……。
「ママ、ママ……!ヒドいキズ……いま治してあげるから……返事してよ……ねぇっ!!」
 跪いて致命傷になった傷跡に手を沿え、必死でルシリエから教わったらしい治癒魔法を注ぎ込みながら、取り憑かれたように呼びかけ続ける。
「…………」
 その姿は、胸が痛んで居た堪れない以外の何ものでもないけれど……。
「……ロメリアちゃん。ルシリエの魂はもう召されて、本来いるべき場所へと還ったの」
 それでも、目を逸らせているわけにはいかないと、わたしは歩み寄る足こそ動かないとしても、言い聞かせるように告げてやった。
「…………っ」
「本来は、もっともっと前に行っていなくちゃならなかった天国へね。……だから、もう静かに眠らせてあげて」
 つらくとも、たとえ恨まれようとも、ロメリアちゃんに母の死をきちんと説明するのは、残されたわたしの責務だから。
「……っ、やっぱり、ルフィンママが殺しちゃったの……?」
 しかし、悲痛な想いで言葉を続けるわたしへ、やがて治癒魔法の手を止めたロメリアちゃんは背を向けたまま静かに核心を訊ねてきた後で……。
「…………」
「ねぇ、ママを殺したのかって聞いてるんだけどッッ?!」
 目を逸らせたまますぐには答えられなかったわたしの方へ立ち上がって振り向くと、大粒の涙を零しつつ眉を吊り上げ憤怒に満ちた目でもう一度鋭く問いかけてきた。
「それは……」
「どうして……ねぇどうしてッッ?!ママはあんなにルフィンのコト好きだったのに!」
「…………」
「ずっと、ずっとまた逢える日を待ってたんだよ?!だからアタシもママを取られそうで少しイヤだったけどガンバって連れてきたのに、どうして殺しちゃったの?!ねぇッッ!!」
「…………」
「ママが魔王だからなんて言わないよね!?ママなにも悪いコトしてないもん!!」
「……分かってる、分かってるよそんなの……ッッ!」
 やがて、口ごもってしまった後で感情を抑えられず泣き叫ぶロメリアちゃんから心に突き刺さる鋭利な叫びを浴びせ続けられ、わたしもとうとう感情的に言い返してしまう。
「ナズナさん、しっかりしてください!このままでは……」
「……許せない……ゆるさない……ゼッタイに……ッッ」
 そして、とうとうロメリアちゃんは明確な殺意が込められた憎しみの目をわたしへ向けるや、背中の翼を広げて両手に聖魔剣を抜き放ってきた。
「まって、ロメリアちゃん、まちなさい……!」
 今、負の感情に囚われてしまったら……。
「……だったら、わたしが仇討ちさせてあげる……」
 すると予感通り、トコヨはそれを見て待ってましたとばかりにロメリアちゃんの元へ吸い寄せられるように近付いていき……。
「ダメ……ッッ!!」
 もしもロメリアちゃんまでトコヨに取り込まれてしまえば、今度はあのコまで討たなきゃならなくなる……!
「あなたのママの願いはかなえたでしょう?今度はあなたの……」
「……うるさい……ッッ!!」
「…………っ?!」
 しかし、ロメリアちゃんは耳元まで近付いたトコヨを短い言葉で一喝するや、目にも留まらぬ速度で鋭く交叉させた双剣の一閃をもって跡形も残さず斬り祓ってしまった。
「アンタもママのカタキだ……!!どいつも、コイツも……ッッ」
「と、トコヨを……」
 正に、邪神とでも呼ぶに相応しい瘴気の集合体をわずか一振りで瞬殺、なんて。
「……あれこそ、神をも断つ剣の勇者が秘めるチカラです。が、次の矛先は貴女に向けられるみたいですね」
「…………っっ」
「さぁ次はアンタよ、ルフィン……!あの世でママに謝らせてやる……!!」
 それからスメラギの予告通り、続けて当代勇者の両手に握られた聖魔剣の切っ先がこちらへと向けられ……。
「ロメリアちゃん……」
「……さぁ、彼女を止めてくださいナズナさん。アンブロジアたる貴女の役目です」
「だから、いつも簡単に言ってくれるけど……でも、それしかないわよね……ッ!」
 対するわたしもアカシック・タクトをしっかりと握って白銀の刀身を具現化させると同時に、勇気の翼を力の限り広げて受けて立つ意志を示した。
「今度は、もう手加減なんてしないから……八つ裂きにしてやる……!」
「どうか恨まないで、なんてとても言えないけど、でもあなたを闇落ちさせたまま逝ったんじゃルシリエに申し訳が立たないから……さぁ、相手してあげるわ……!!」
 いちいち気に障るタイミングで命令(オーダー)されるのはムカつくものの、これでハッピーエンド、とはいかなくとも、絶対に避けたかったバッドエンド回避の道筋がハッキリと見えてきた。
 トコヨなんかに負けなかったロメリアちゃんの為にも、託して散って逝った最愛の仲間の為にも……後はここでわたしが勝つだけ……!!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!死ねぇぇぇぇぇッッ」
(……よし、この感覚……キタわね……っっ!)
「来なさい……ッッ!」
 それからココロが、全身に滾るようなチカラが湧き出るのを感じつつ、間合いを詰めるロメリアちゃんに対してこちらからも打って出てやり……。
「…………ッッ」
「…………っっ」
 二本の剣閃が交わるポイントを狙って振り下ろすと、聖魔剣の一撃をイメージ通りにしっかりと受け止めていた。
「受けトメた……ッッ!?」
「あいにく、わたしもまだまだ現役ですから……ッッ」
 だからトコヨを一刀のもとに切り伏せた一撃だろうが、わたしなら問題なく受けられる。
「ぐぐぐく……アタシにとってのアンタはもう勇者なんかじゃないし……ッッ」
「ロメリアちゃん……それでもわたしは……く……っ!?」
 そして、勇者同士の必殺の一撃の重なり合いは燦爛とした閃光と勁烈な斥力を生み、やがて互いに後方へ弾き飛ばされると、ひらりと宙返りして態勢を立て直してきたロメリアちゃんがすぐに距離を詰めてきて、今度は円の動きで二色の刃をコマの様に操りわたしを切り刻もうとしてくるものの……。
「今度こそズタズタに切り裂いてやるんだから……!!」
(…………っ、ん……?)
 しかし、前回と違って今回は妙にはっきりと相手の太刀筋が見えた気がするわたしは、少しずつ後退しながらも的確に受け止められていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁッッ!ママの……ママのカタキ……!!」
「…………っ」
 勇者たるもの、一度受けたワザは二度も食らったりしない?……いや違う。
 あの時のロメリアちゃんは戦いを愉しみつつも、あくまでルシリエママの為に冷静に立ち回っていたけれど、今は泣き叫びながらただただわたしを斬り刻もうと力任せに打ち付けてきているだけ。
(ゴメンね……それじゃダメなんだよ、ロメリアちゃん……!)
 それでも、他の相手なら聖魔剣の威力だけで押し切れたのかもしれないものの、同質のチカラを持つわたしには通用していない、というか。
「くっ、なんで……アタんないのよ……ッッ!!」
(……でもそっか……そういうコトか……)
 そんなロメリアちゃんを見て、わたしは今さらながら悟った気になっていた。
 気負えば気負う程に弱くなってしまうという、そのイミが。
「……そこ……ッッ」
「ぐ……ッッ」
 とはいえ、勇者の子孫でライラから天才的な身体能力とも称されたロメリアちゃん相手に、このまま見切った気になって近接戦を続けてもいずれ不利になるのは分かっているので、わたしは次第に見えてきた僅かの隙を突いて片方の剣を弾き返すと、反撃の一撃ではなく再び星空へ向けて翔け上がってゆく。
(さて、なんとか勝機を作らなきゃいけないんだけど……)
「あ、待て……ッッ」
「……ほら、次はこっちで仲良く踊りましょうか?」
「誰がアンタなんかと……ッッ!ああもうっ、勝手に一人で消しトんじゃえばいいんだ!」
 それから、少し遅れて跳躍しつつ追いかけてきたロメリアちゃんへ挑発じみた言葉をかけると、案の定に反発した相手は途中で足を止め、合わせた剣の先に巨大な無属性エレメントを集めた魔力のカタマリを形成してぶん投げてきた。
(来たわね……!)
 ……けれど、それこそこちらの目論見通り。
「えやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
 わたしは怯むことなく、火の玉ストレートの勢いで向かって来たその球に対し、杖の先に具現化させていた刀身を何倍にも膨らませるや、フルスィングで相手に向けて打ち返してやると……。
「な……ッ?!く……こんなモノ……うわぁッッ?!」
 そっくりそのままお返しされて驚きながら、ロメリアちゃんは咄嗟に聖魔剣で真っ二つにしたものの、同時に発生した激しい爆風に巻き込まれて文字通りに自爆してしまった。
(好機……ッ!)
 すかさず、今度は杖を剣から魔弓アルテミスに切り替えると、さっきの戦いでルシリエに使った無限の矢を雨あられに放ち注いでやるわたし。
「く……ナメるなぁ……わぁぁぁぁぁッッ?!」
 それを見て、相手もすぐに反応はしてくるけれど、こちらの狙い通りになまじ技量が高い分、防ぐよりも武器で振り払う方を選んだロメリアちゃんは矢を弾いた瞬間に再び連爆の中心に巻き込まれてしまった。
 ……とまぁ、作戦が見事にハマり続けるのはいいとして、騙し討ちな戦法を続けて心も痛んではくるけれど、この隙を逃すわけにはいかない。
(ごめん……けど……!)
 わたしはここで手を緩めることなく再び杖の先を刀身に変えると、二度の爆風を直撃されてボロボロになりながらよろめくロメリアちゃんめがけて急降下攻撃を仕掛け……。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
「…………ッッ」
 慌てて目の前で交差させて防ごうとした聖魔剣ごしに乾坤一擲の一撃を叩き込んでやると、そのまま突き落とされる様に墜落して直下の地面に大きな土埃を舞わせていった。
(ロメリアちゃん……!)
 ……ただ、無意識下で常時エレメントに護られているロメリアちゃんなら、この程度で死んだりはしない、はず。
「…………っ」
「……つっ、強……今までとゼンゼちが……ごほっ、なんでよッ?!アタシはママのカタキをうたなきゃいけないのに……ッ」
「違う。……わたしが強いんじゃなくて、あなたの方が弱くなっているのよ」
 それから、用心深く高度を下げて近付いてゆくうち、立ち込める土埃に嘔吐きながら小さな身体をフラフラと起こしてきたのに安堵しつつ、悔しそうに表情を歪めるロメリアちゃんへ向けて、努めて冷静な口ぶりで諭してやるわたし。
「アタシが……?どーしてッッ?!」
「勇者のチカラの源はね、怒りや憎しみじゃなくて“希望”なのよ……ロメリアちゃん」
 と、言える立場じゃないのは自覚しているとして、それでも伝えなければならない。
 ロメリアちゃんが自らの手でトコヨを祓って見せたからこそ、彼女だけは闇落ちなんてさせてはいけない。……いや、このわたしが絶対にさせない。
「希望……キボウって……!!」
「……でね、それに気付かせてくれたのは、他でもないロメ……うおッッ?!」
 しかし、続けた言葉を言い終える前に、手負いのはずのロメリアちゃんは獣の様な素早さでわたしの懐へ飛び掛かって来るや、破れかぶれに聖魔剣を叩きつけてくる。
「アンタがそんな言葉を口にすんな……ッッ!ママのカタキのくせに……ッ」
「ぐ……っっ」
 それは、説得に入る頃合いだったとはいえ、不用意に近づいたのを後悔してしまう苛烈さで、瞬く間に防戦一方に追い込まれてしまうわたし。
「たとえ魔王になったって優しくてゴハンも作ってくれるママはアタシの全てだった!ママの為ならナンだってやれるし、次に死ぬ時はゼッタイ一緒ってキメてたのに……!!」
「…………」
「それで、アンタはママを殺してナンの希望を掴んだとゆーの?!」
「……うぐ……ッッ?!」
 それから、感情が昂ぶるたびに威力が増してゆく中で、悲痛な叫びと共に繰り出された力任せの一撃を受けきれなくなったわたしは、いつしか大きく中空へ弾き飛ばされてしまい……。
「ほらぁ、早く言ってみなさいよ……ッッ!?」
「ちょっ……ぐぁッッ……!?」
 更に、追い討ちでロメリアちゃんが一つに合わせた聖魔剣の先から発生させた、巨人でも寸断出来そうな高出力の刀身の直撃を脳天から叩き込まれ、さっきのお返しとばかりに地面に叩きつけられるや、全身がバラバラになりそうな衝撃とここまでの戦いで蓄積された傷口から気を失いそうな痛みがわたしの体内に駆け巡った。
「あつつ……っ、……ぐ……ツッ……!やば……っ」
 ……とはいえ、食らったのはおそらく聖魔剣に秘められていた必殺技で、同じく無属性エレメントの加護を持つわたしだから真っ二つにされずに済んだって話だろうけど。
「はぁ……はぁ……ねぇ、なんのキボウかって聞いてるんだけど……?!」
「うぐ……っ、ちゃんと、教えてあげるからちょっと待ちなさい……よ……っ」
 とはいえ、全然ハナシを聞いてくれようとしない今は何を言っても逆効果なのかもしれないけれど、でも気持ちは痛いくらいに分かる。
 ……だからこそ、わたしが為すべきは。
「ウウン、もう言わなくていい……どうせ、コワしちゃうんだし……!!」
 そして、形勢を逆転され逆に意識が朦朧としてきたわたしへ向けて、ロメリアちゃんは自分から問答を拒否してしまうと、トドメとばかりに合体させた巨大聖魔剣へ残ったチカラを注ぎ込んでゆく。
「はァァァァァァァァァァ……!!」
 ……さすがに、あれ以上な一撃の直撃をもう一度喰らってしまえば、わたしも全身の骨ごと砕け散ってしまいそうな予感は漂ってくるものの……。
「壊れたりしないわよ……わたしは……無敵の魔法少女勇者……なんだから……っ」
 図らずも、二度も大切な人の仇となってしまったわたしは、いつしかロメリアちゃんの手で討たれるフラグが立ってしまったのかもしれないけど、でもその前にまだルフィンママとしてルシリエに代わって教えなきゃならないことが山ほどあるから。
 ……だから、カクゴして。
「で、他にナニか言い残すはコトある……?」
「はぁ、はぁ……ふふ……ロメリアちゃん、愛してるよ♪、かな?」
「……ッッ、アタシは、だいっっキライ……ッッ!!」
 それから遺言を尋ねられ、息を整えながら笑みを浮かべて答えてやったわたしに、激昂したロメリアちゃんはその場から高く飛び上がると、小さな身体を生かして激しい回転を付けつつ、今度こそ必殺の一撃を喰らわせようとこちらへ急降下してきた。
「今度こそ……逝っちゃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ」
 ……なるほど、いよいよ全身全霊でわたしを砕け散らせるつもりらしい。
(……でもね、壊せないんだよ。壊れないんだよ……わたしが、絶望していない限りはね)
 ……だって、それがわたしのチートスキルなのだから。
「…………」
 そこでわたしは受けて立つべく敢えて留まり、アカシック・タクトを握る右手と左手も刀身に添え、同じくありったけのチカラを注ぎ込みつつ勝利のイメージを固め……。
「ッッ、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
 相手の切っ先が頭上に届こうとした刹那を狙い、わたしは全力で跳躍して一意専心の対空の一閃で迎え撃った。
「……んぁ……ッッ!?」
 果たして静寂の夜闇に刃同士が衝突して閃光が迸り、こちらの手元から刀身が砕け散る感触が伝わったのと引き換えに、短い悲鳴をあげたロメリアちゃんの両手からは聖魔剣が弾かれ、そのまま小さな身体はきりもみさせつつ墜落してゆく。
「さぁ、幕を引くわよ……!」
 対して、わたしの方は腕を振り切った後に小さく宙を舞って素早く態勢を立て直すと、間伐入れずに再び具現化させた剣を構えて仰向けに倒れたロメリアちゃんへ向け急降下し、呆然と転がる顔のすぐそばの地面へと聖霊の剣を突き立てた。
「…………ッッ」
「はぁ、はぁ……っ、これでわたしの勝ち……でいいわよね……?」
「……く……っ、さぁ、コロしなさいよ……!」
 その後、乱れた息を整えつつ目と鼻の先まで覆いかぶさり勝利宣言したわたしに、聖魔剣を失い精根尽きた様子のロメリアちゃんはこれ以上の抵抗は諦め、泣き出しそうな表情でトドメを促してきた。
「…………」
「……もう、勝ち負けもウラミもどーだっていい。けど、今ならママのところへ追いつけるかもしれないから、ねぇ早く送ってよ……」
「……ロメリアちゃん……」
 まさか初めてのくっころ体験が、こんな不本意な形になってしまうなんて思いもよらなかったけれど……。
「…………」
「……殺しなんてしないわよ。わたしの希望を自分で壊すなんて」
 しかし、わたしはお約束のセリフ込みでつれなく断ると、突き立てていた刀身を消し去り先に上半身を起こした。
「っ、わたしの希望、って……?」
「……最愛の盟友はああいう形でしか解放してあげられなかったけど、それでもわたし達の大切な宝物はなんとか元に戻せそうってコト」
 それもこれも、ロメリアちゃん自身が掴み取ってくれたものでもあるだけに、それを絶対に無駄にしたくなかったわたしの原動力になったのはいささか皮肉なハナシかもしれないけれど。
「…………」
「……ね、ホントはロメリアちゃんも分かっていたんでしょ?ルシリエママの望みを」
 おそらく、学校に通えないロメリアちゃんに自習という形での学習を課していたのも、いつかは一人の身になることを予感していたからだろうし。
「……っ、ひぐ……っ、ママ……っ」
 そして、星空を見上げつつわたしがもう一押しすると、背中越しにルシリエを想うロメリアちゃんの嗚咽が責めるように耳元へ響いてきた。
「…………っ」
 つらいだろうが、これは乗り越えなければならない痛み。
 ……だから、今はそっとしておくしかないのかもしれないけど、それじゃあまりにも忍びない、か。
「けど、それだけで納得しろってのはムリだろうから、次の機会をあげようじゃないの」
 そこで、わたしは少しだけ思案を巡らせた後で、そう言って可愛い顔を泥だらけにして泣きじゃくる愛娘の方へ振り返った。
「え……?」
「今は具体的にいつ、とは言えないけどまた会いにくるから、その時に二人で再戦したいというのならまた相手してあげる」
「…………」
「痛みの乗り越え方は人それぞれだし、いつかルシリエママの仇を討つという目標がロメリアちゃんの拠り所になるのなら、わたしも責任をもって応えなきゃならないでしょ」
 少なくとも、このコに関してだけはね。
「……で、別にいいのよねスメラギ?」
「まぁ、出来ればそういう後腐れを抱え込んで欲しくはないですけど、お仕事が片付いた暁にはちゃんと休暇を上げてますので、その間ならご自由に」
「どーも。……んじゃ、今夜のところは後片付けして戻ろっか。立てる?」
 それから、渋々ながらもボスの了承を得て、いよいよルシリエの器を埋葬して新たな一歩を踏み出そうと先に立ち上がったわたしは、ロメリアちゃんに手を差し伸べたものの……。
(あ、あれ……?)
 しかし、立てる?と聞いておいて自分の足がガクガクと震えていたりして。
 ついでに……何やら目もグルグルと回ってきた様な……?
「……うん……ところで、さっき言ってたのはホント?」
 ともあれ、ようやく落ち着いた面持ちになったロメリアちゃんも静かに頷いてわたしの手を取ると、絡んだ小さな指に力を込めてゆっくりと立ち上がりながら上目遣いで訊ねてくる。
「ん、なにが?」
「……アタシを、愛してるって言ってたの」
「うんまぁ、なんだろうねぇ、ロメリアちゃんの前だとなんかそういう気になるのよね……」
 どうやら、このわたしにも母性というものがあったらしいのは驚きだけど。
 ……きっと、脳天にあんな強烈な一撃を喰らいながら決着がつくまで立っていられたのも、そんな愛情が支えていたのかもしれない……。
「そっか……」
「うん、でも……」
「でも?」
「……ごめ、やっぱりちょっと……休ませて……」
 ただ、やっぱり器の方はとうに限界を超えていたらしく、せっかくロメリアちゃんを立ち上がらせたというのに、今度はわたしの方が繋いだ手をするりと離して背中から倒れ込んでしまった。
「ルフィンママ……!?」
「……やれやれ、まだ道は遠いですねぇ」
 それから、沈む様に気を失ってゆく直前に聞こえたのは、愛娘が心配そうにわたしの名を呼ぶ声と、見届けていた上司からの厳しい言葉だった。

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