度咲きの魔法少女勇者は闇に煌く その5


第五章 二度咲きの仇花は愛を謳う

「おいケーコ、こいつは……!?」
「今わたしゃナズナだっての。……スメラギ、このコが王都で襲われた相手よ」
「……ええ、分かってます。あの時は寝たふりをしてましたから」
「はぁ?!」
 どの道、再び対峙する羽目になる予感はしていたものの、まさかこんなトコでなんて。
 ……しかも、酔っ払い上司も狸寝入りしていやがったという衝撃の事実まで。
「もう、ゴチャゴチャうっさいなぁ。っていうか、アタシ言ったよね?魔王サマが待ってるから寄り道してないでサッサと来てってさぁ」
「こっちにだって準備や段取りってもんがあんのよ。というか、これから向かうつもりだったんから大人しく待ってなさいっての」
 ともあれ、魔族(?)の少女は苛立った様子で文句を向けてくるのに対して、いつでも攻撃してきそうな気配に警戒しつつ言い返すわたし。
 どうやら、今の魔王は思っていた以上にせっかちなタチらしい。
「んー、イマイチ信用できないしなぁ。やっぱムリヤリ連れてっちゃお☆」
 そして案の定というべきか、小さな身体に鳥肌が止まらない程の殺気を纏わせる少女の左手の先から禍々しい魔力が凝縮されていき……。
(いや……)
 違う……!このチカラは……。
「ほら、さっさとこっちキてよ……!」
「スメラギ……!」
「……分かりました」
 こちらへ向けてその半透明に輝く魔力の塊をブン投げられ、スメラギが家の周囲をすっぽり覆う結界で防ぐと同時に、勇気の翼を広げて愛杖を抜きつつ距離を詰めてゆくわたし。
「ちこう寄れなら言葉で分かるわよ!わざわざ周りを巻き込もうとするんじゃない……!」
「えーでも、これくらいアタリマエに防ぐと思ったし?でなきゃアタシも困るんだケド」
 そして、そう何度も無差別攻撃を続けさせるわけにはいかないと、杖の先に剣を具現化させて斬りかかるも、小さな魔王の尖兵はひょいひょいと避けつつさらりと言い放った。
「……まずは、うちのボスを足止めってこと?心配しなくてもこっちだって二人がかりのつもりはねぇわよ」
 ただ、サシで楽に勝てる相手じゃないのだけは分かっているんだけど……。
「んっふっふー、今日は少しアソんでもらうつもりだから、特にジャマだったんだよねぇ」
「随分と待たせちゃったみたいだから、まぁ少しくらいなら付き合ったげるけど……それよりも、さっきのチカラはなに……?!って、くそ……っ」
 とにかく見過ごせないのは、さっきこのコが使ったチカラは無属性魔法ってこと。
 ……しかも、喋りながらもかなり本気で当てに行っているのに掠りもしない……!
「ん〜、“コレ”が使えるのってジブン一人だけと思ってた?」
 だけど、そんなわたしに魔族であるはずの少女は小馬鹿にした笑みを浮かべて再び掌の上に無属性エレメントのチカラを集めて見せる。
「いや、そこまでは思ってないけど……っっ、あーもう何なんのよ……っ」
 確かに、スメラギの話だとわたしの様な先天的な無属性の使い手はレアだけど他にもいるはずだし、精霊様の加護を受けたライラとルシリエなんかも該当者になる。
 ……だけど、それが魔王の側にいるというのはインパクトがでかすぎというか。
(ん……?)
 そして、更にわたしの目を引いたのが彼女の胸元で揺れる銀色のメダリオン。
 六芒星の形をしたアレは、確か魔王がずっと身に着けていた……。
「も〜、アタシのムネばかりじろじろ見てエッチなんだからぁ♪」
「ち、ちが……ってうわぁ……ッッ!?」
 しかし、目を奪われて動きを止めてしまった隙に、魔族の少女は照れた反応を見せながら素早く懐へと踏み込んでくるや、いつの間にやら作っていた手のひらサイズの魔力の塊をぽんと胸元へ置いてくると、そのまま眩く強烈な爆発の衝撃が発生してわたしの身体は派手に吹き飛ばされてしまった。
「ちょっ、だからってわたしのおっぱい吹き飛す気……っ!?」
 ライラ達と違って吹き飛ばす程にあるのかは別として……!
「ま、ルフィンママになら見せてあげてもいーんだけど、ミタい〜?」
「くっ、誰がママよ……!わたしは母親になんてなった覚えは……」
(え……!?)
 しかし、ツッコミ終える前にわたしの脳へ撃ち抜かれたような衝撃が走り……。
「あはは、それじゃそろそろ一緒にオドろっか〜?」
 更に追い討ちをかけられる様に、目の前の魔族少女は無邪気に笑いつつ、腰からそれぞれ純白と漆黒の刀身の双剣を抜いて構えたのを見て、二度驚かされてしまう。
「ちょっ、ナニよそれ……?!」
 黒の方が魔剣なのは分かり易いけど、純白の刀身の方は聖剣のシンボルのはず。
「これがアタシのエモノ、聖魔剣エクスプレシア。ふふ〜ん、サマになってるっしょ?」
「せっ、聖魔剣……っ?!え、ちょっ、ええええ……!?」
 と、目が点になってしまった眼前で軽く円を描く様に演舞しつつ、肉体の前に心へぶっ刺さった衝撃的な武器名もドヤ顔で聞かされ、追い討ちで電撃が走ってゆく。
 眠っていた(?)厨二ゴコロがきゅんきゅん呼び覚まされるというか、それはまるで……。
「ナニって、すぐに教えてア・ゲ・ル。スゴいんだよこれ……?」
(やば……っ!)
 とにもかくにも、今まで戦ってきた敵とは何もかもがまるで違う……!
 わたしはそれこそ、ここで初めて狩られる側に回ったホンキの危機を覚え、攻勢に転じて来た相手に対してバックステップで下がり切っ先の動きを見極めようとしてゆく。
「エーもう逃げないでよ〜。オドろって言ってんのにぃ」
「生憎っっ、ルフィンママはダンスがニガテ……っ、だから……ッッ」
 しかし、機動力はあちらの方が上みたいですぐに間合いを詰められてしまい、繰り出される疾風の如き太刀回りに初手から防戦一方となってしまう。
「それでも、ナンだかんだでウケられてるじゃん?必死なルフィンママもかわい〜☆」
「いちおーこれでも一度は魔王を斃してマスから……ッッ!」
 ……違う、ホントはまだ相手がホンキで攻めて来ていないだけ。
 わたしとしては、接近戦に持ち込もうとした時点で死亡フラグを立ててしまったと言ってもいいくらい、武器性能以前に技量が違っていた。
「うんうん、ルフィンママはツヨツヨだけどぉ、ちょっとまほーに頼り過ぎなんだよねぇ?」
「う……くう……っ?!」
 そして、それを示すかの様に場を支配し始めた少女の動きが少しずつ速まり、次第にわたしは受けきれずに急所以外の腕や腿が切られ、裂かれた衣装の切れ端が舞い始めてゆく。
「あはは〜、このままハダカんぼにしちゃおっか?ルフィンママ?」
「……ちょっ、シュミ悪いわね……ッッ」
 このままでは、ホントに丸裸にされてしまいかねない状況だけど、しかしちょっと調子に乗りすぎというか、手癖の悪いメスガキはワカらせてやらないわけには……。
「……ほぉらほら、色んなトコがガラ空きになってきちゃって……」
「だったら、何よ……ッッ!!」
「わ……!?」
 なにより、勇者サマに諦めという文字はないし、どんな不利な状況をも覆すコトこそが矜持なのだから……と、わたしはジリジリと押されていた中で不意を突いて体当たりすると、よろけた一瞬のスキで肩を掴めた相手をそのまま押し倒す様にして急降下していった。
(このっ、油断しすぎなのよ……ッッ!)
「ん〜〜……」
「え、ちょっ……っ!?」
 ……ものの、相手の方はそこで慌てるどころか、逆に自分から密着してわたしの背中に手を回してきたりして。
「あは、抱きしめさせてくれたのは嬉しいケド、ルフィンママだけオチてくれる?」
 それから、背中をぽんぽんと二度叩いた後にそう告げるや、びっくりする様な怪力であっさりと態勢をひっくり返されて後方へと引き剥がされ……。
「え……うおッッ?!」
 次の瞬間、鋭く踏み込んできた相手の白と黒の剣閃が眼前で眩く交叉し、光と闇の反発が生んだ強烈な衝撃波を喰らって突き落とされると、派手な音と共に落下した衝撃で土の地面に大きな窪みを作ってしまった。
「…………っっ」
「……お、おい、ケーコ……」
「くッッ……二度咲きの勇者がこんな程度じゃ死なねーわよ!あとその名を呼ぶな!っていうか、どーいうコトなのよ、スメラギ……!!」
「どうって、まだ分かりませんか?彼女は“当代”の勇者ですよ」
 それでも、心配そうに覗き込んできたライラへ八つ当たり気味にツッコミつつすぐに起き上がったわたしは、同じく近くで結界を維持したまま見下ろしてきていたスメラギを問い詰めると、何を今さらといわんばかりの素っ気無い回答が返ってくる。
「当代の……勇者ですってぇ……?」
「彼女の胸元のメダリオンは聖霊の代行者であるエレメンタルマスターの証ですし、両手に持っている聖霊が自ら鍛えチカラを注ぎ込んだあの聖魔剣エクスプレシアこそ、この世界で剣の勇者となる者に授けられる、神をも屠る神器ですから」
「かっ、神をもほふ……いや、だったら何でその剣の勇者が魔王に付いてんのよ?!しかも、あのコって……」
 というか、そんなステキすぎな剣が与えられるのならわたしもそっちの方がよかったというか、いやそれ以前に……。
「ロメリア……!やっぱりロメリアかオマエ……!?」
 しかし、わたしが最後まで言い終える前に、さっきの攻防でフードが外れて顔が露になっていた、紫の髪を腰まで伸ばした大きなツリ目の少女へ向けてライラが村中まで響く様な叫びを上げていた。
「……あーもう、相変わらずライラママはうっさい……」
「いきなりママ呼ばわりされてまさかとは思ったけど、やっぱロメリアちゃんなんだ……」
 そして、わたしの付けた名を呼ばれて否定もせず、指で耳を押さえながら同じくライラにもママ付けでぼやいているってコトは、もう確定したも同じ。
 ……色々とツッコミどころは多過ぎとしても、確かによく見ればわたしが知っている頃の面影もちゃんと残っているし。
「も〜、せっかくルフィンママが気付いてくれそうだったのに、先バラさないでよね〜?」
「ロメリア、四年も便りすら寄越さないと思えば、これは一体どういうコトなんだ?!」
「……ねぇ、ルシリエママは癒しの勇者に選ばれた後でどうしたかは知ってる?」
 ともあれ、本人と分かるや更に声を張り上げるライラに、成長したというべきなのか変わり果てたというべきなのか、少なくとも恐ろしいまでの強さを手に入れていたわたし達の娘は冷淡に質問で返した後で……。
「なに……?」
「今のアタシは、あるイミあの時のママと同じってコト。だから……」
 それだけ言うと、対になっている聖魔剣を柄同士で合体させるや、高速回転を付けてブーメランの様にわたしの方へ投げ付けてきた。
「ちょっ、わたしにぃ……っ?!」
「だって、他のヒトは巻き込むなって言ったっしょ?エラい?」
「っ、……素直でいいコね、頭撫でてあげたいくらい……ってぇ……ッッ!?」
 ともかく、即座に再び全力で飛び上がって回避するものの、空中へ逃げたわたしを待ってましたとばかりに、ロメリアちゃんが目の前に作った空間の裂け目から呼び出した紫色のおびただしい数の鋳薔薇がこちらへ向けて一斉に襲い掛かってくる。
「あーもう……ッッ」
 それに対し咄嗟に浮かんだ対処は剣での斬り払いながら、背後からは向きを変えた円月輪と化した双剣が追いかけて来ているワケで、速度を落とせない今はただ逃げるしかない。
「あはは、がんばれがんばれ〜☆」
「この、ナメんじゃないわよ……ッッ!!」
 そこで、横方向へ急回転を付けたターンで軸をずらせ、すぐには止まれない様子の円月輪の動きに目を配りつつ、逃げるのと同時に勇気の翼から攻撃能力のある羽根をバラまいて鋳薔薇の束を迎撃しようとしてゆく。
「くっ……あう……ッッ?!」
 しかし、鋳薔薇の束は羽根爆弾でも止めきれなかったみたいで、やがて突破してきた一本がわたしの足を掴んでしまうと、そこから枝葉の様に派生して更に伸びて来た大量の触手が一斉に手足を伝って全身に絡みつき……。
「ルフィン……ッッ!!」
「ちょっ、やめ……!いやああああああああッッ!!」
 ついに、前世では戦闘中に一度も無かったはずの悲鳴まで上げさせられつつ、全身を雁字搦めにされてしまった。
(くぅ……っ、なんなのよ……ッッ)
 一応、わたしも油断はせず斬りかかってゆく前に無属性エレメントでの防護膜で全身をコーティングしていたというのに、さすがは当代の剣の勇者ともいうべきか、メイクもあっさりと見破ってしまったこのコの攻撃は全て素通りしてしまうみたいである。
「あは♪ルフィンママのブザマな悲鳴いただきました〜。なんかゾクゾクしちゃうぅ」
「ううう……」
 ともあれ、拘束された手足を広げられて恥ずかしいポーズにされるだけでなく、追い討ちで娘から無様とも言われて泣きそうな程の忸怩たる思いに項垂れてしまうわたし。
「けど、いーの?そのままだと真っ二つだけどぉ?」
「ひ……ッッ?!」
 そして、更にそこから高速回転を続ける聖魔剣がわたしの中心部を目がけて一直線に迫ってきて……。
(う……そっ、こんな……トコで……ッッ!?)
「…………」
「…………」
「……って、ホントにするワケないじゃ〜ん。ビックリした?」
「…………ッッ」
 いよいよ諦めが支配しかけたところで刃はわたしの首元でピタリと止まり、ロメリアちゃんが見せたニヤニヤした笑みの前で、わたしは改めてがっくりと脱力してゆく。
 ……まさに、歴史的大敗だった。
「……んじゃ、あとはオトナしくついてキてね〜?」
 それから、ロメリアちゃんは鋳薔薇を周囲へ張り巡らせて簡易な檻を作り、拘束を解いたわたしをすっぽりと閉じ込めた後でそのままお持ち帰りしようと高度を上げてゆくものの、こちらは既に抵抗する気力も残っておらず。
(完敗……か……負けイベあるなんて聞いてねぇわよ……)
 まさか、強くてニューゲームな状態で始めたはずの続編シナリオで、こうまで一方的に叩かれる相手に巡り合うなんて……。
 しかも、昔に助けてあげたわたしをママと呼ぶ小さなコに……。
「…………」
 ついでに、鋳薔薇には微弱な毒でも仕込まれていたのか、痛みこそないけれど全身が痺れた様に動けなくなってきているし。
<……ナズナさん、まだ意識はありますか?>
 と、視界も脳みそもだんだんと朦朧としてきた中で、わたしの脳内へ地上にいるボスの声が響いてくる。
「スメラギ……?!おっと……」
<傷は浅いけど、動けないしチカラも出ない。ちょっと助けて……!>
<いえ、せっかくですのでそのまま魔王城へ運んでもらってはどうでしょう。魔王もすぐにあなたをどうにかするつもりはないみたいですし>
 そこで、一瞬だけ我に返って声を出しかけたのを慌てて抑え、モノローグの要領で改めて助けを求めるも、返ってきたのは無慈悲な指示だった。
<んな、御無体な……>
 確かにロメリアちゃんには生かして連れて帰れと言われているみたいだけど、それってつまり自分の手で恨みを晴らす為なのではと。
<……とにかく、ここからがお仕事の始まりです。気を付けてくださいね、“今”の魔王は以前より遥かに手強いと思いますから>
<なに……というか、まだ何か隠してるコトがあんの?>
 確かに、言われなくてもそんな予感はするとしても、まるでここまでの流れが予定通りとでも言いたげなのがムカつくんですけど。
<別に隠しているわけじゃないですよぉ。ただ、そんな状況を踏まえた上でも、ナズナさんなら勝てると判断したからこそお願いしているというのを忘れないで欲しくて>
<そ?まぁ気休めにはさせてもらうわ、ありがと……>
<気休めではありません。二度は言いませんが大事なことです>
<……では、ヘンに気負ったりせずに頑張ってくださいね?うちの将来のエースたる貴女にとって、このお仕事は第一歩に過ぎないのですから>
 そして、言うだけ言われた後でそれ以降は声が聞こえなくなってしまった。
(いや、気負わせたいのか気負わせたくないのかどっちよ……)
 ともかく、こうなった以上は……あとはなりゆきに任せるしかないのか……。
(……でも、やっぱり分からないんだけど……)
 どうしてロメリアちゃんが両親と故郷の仇のハズな魔王の味方なんかに……。
(……えっと、これってつまり……)
 それから、わたしの頭にとある言葉が浮かんだ頃、いよいよ意識が遠のいていった。
「…………」

                    *

「…………」
「…………」
「……ん……?」
 それから、早くも四周目人生の始まりを覚悟した後で次に目が覚めた時、わたしは見知らぬ客室のベッドの上に横たわっていた。
「お目覚めですか?ルフィン様」
「……ん、誰……?」
 さらに、見開いた視界には青と赤のカラフルな色違いのエプロンドレスを着た、どう見ても双子なメイドさん二人組がそれぞれベッドの両サイドから覗き込んでいて、意識が落ちる前までとのギャップが大きすぎて今はちゃんと現実に戻っているのか、まだ夢の続きなのかも分からなくなってしまう。
「これは申し遅れました。私はアトリーと申します」
「わたくしは妹のシトリーです♪魔王陛下より貴女様のお世話を申し付けられておりますので、よろしくお願いしますね?」
「それは、ご丁寧にどうも……っていうか魔王、より?お世話……??」
 そこで、起き上がる前に何者かを尋ねると、それぞれが順番に頭を下げて淡々と自己紹介はしてもらえたものの、わたしの頭はますます混乱するばかりだった。
「…………」
 よく見ると二人の背中には小さな翼が生えていて、お尻の方からは猫っぽい尻尾も伸びているのを見るに、それ以外は人間の女の子とクリソツでも魔の眷族なのは間違い無さそう。
「それで、ご気分はいかがですか?」
「よく分かんない……って……なにこれ……?」
 続けて、アトリーと名乗った瞳の色も衣装も青い方のメイドさんから今の気分を尋ねられて率直に答えつつ上半身を起こすと、またすぐに新しい異変に気付く。
「はい♪魔王陛下のご意向で、傷んだ衣服からそちらに着替えさせる様にと」
「着替えって……いやまぁ、ロメリアちゃんにビリビリにされちゃったけどさぁ」
 それで、別の衣装を着せられてるのはいいとして……よりによって、どうして昔に得意げに着こなしていたピンクと白のテレシア・ルフィンの魔法少女衣装なんですかと。

(ううう、久々に着るとこれはまた……)
 それから、立ち上がって客室にあった姿見に自分を映してみるや、これも魔王の意向なのか魔法のメイクも落とされ、さらに髪の色まで真ピンクに染められた在りし日の姿が再現されていて、何となく目を逸らせてしまうわたし。
 一応、スメラギに提供してもらった新しい身体は当時の年齢のままだから、外見的にうわキッツというコトは無いハズなんだけど、やっぱりメンタルはちゃんと加齢していているのか、無茶苦茶気恥ずかしい心地にさせられていた。
「ふふ、やはりよくお似合いですよ?」
「えっと、ありがと……」
 そして、紅い目のシトリーからは人懐っこい笑みを浮かべてお褒めの言葉をいただくものの、余計にくすぐったくなるだけだったりもして。
(はぁ……)
 まぁ、元々がギリギリと言えばギリだったのもさることながら、どうやらわたしも夢見る少女のままじゃいられないというコトなのかもだけど、わざわざ魔王がこんなモノを用意して着せてくるなんて、よほど五年前に時間を巻き戻したいのだろうか。
「さて、早速で申し訳ありませんが、貴女様がお目覚めになられましたらすぐお連れするようにと魔王陛下より申し付けられておりますので、よろしいでしょうか?」
「起き抜けに早速すぎる、けどまぁそうなるわよね。ちなみにわたしの杖は……あるし」
 ともあれ、寝起きから早々に魔王との謁見を求められ、まだ決戦のテンションには程遠いものの、今のわたしは囚われの身。
 呼ばれているのなら行くしか無いけれど、その前に武器はどうやって取り戻そうかと辺りを見回すと、具現化(メタリラ)の杖やポーチが客室のテーブルの上へ普通に置かれていたりして。
「手荷物はそこへ一纏めにしておきました。御入用ならどうぞお持ちくださいね♪」
「そ、そう……?」
 いやホントに一体どういうつもりなんだろう……?
 宿敵と正々堂々なリベンジマッチがしたいとでも言うつもりなのか、もしくは……。
(世界の半分をくれてやろう案件……?)
 まさか、ロメリアちゃんそれに乗ったんじゃないでしょーね……?

                    *

「……ねぇ、あなた達もいわゆる魔物、なのよね?」
「そうですね、はいとも言えますし少しばかり異なります、とも言えますが」
 それから、愛杖だけ回収して魔王のいる謁見の間まで案内される途中で、この二人にはどうにも見覚えが無いのと、今着ている魔王軍にとっては死神も同然だった魔法少女コスを褒めてくれたのに違和感を覚えていたわたしが遠慮がちに訊ねてみると、まずはアトリーから淡々と曖昧な回答を返され、
「実はわたくし達、この世界の魔王陛下に雇われた別世界の魔族なんですよ、ふふ」
 続けてシトリーが悪戯っぽい笑みでフォローを入れてくる。
「あー、それでガッテンだけど、魔族も異世界で出稼ぎしたりするのね……。んじゃ、グランノールで見張ってたのも?」
 わたし達が異世界へ出向く助っ人勇者集団なら、その魔物版だってあると。
「そうですよ?まぁ彼女はもう解雇されて先に元の世界へ帰されましたが」
「ターゲットにした相手が悪かったって感じで気の毒だけど、それで済んだだけマシなのかしらん?というか、そんなに人手不足なの?」
 自分達ではどうにも出来ない魔王を倒す為に違う世界から勇者を呼ぶというか呼ばれたのがわたしだけど、実は逆パターンもあるとは何やら世知辛さも感じてしまうというか。
「はい。特にこの世界の純魔族は数が少ないのもあり、五年前の戦いを経て現在は極端な戦力不足に陥っているとのことです」
「“純”、魔族?」
「わたくし達の様に、魔族の子孫として生まれた者達ですよ?われわれの故郷は“魔界”と呼ばれる世界で殆どが魔族の一種なんですけど、こちらは“人間界”とカテゴリされるだけに住人の殆どは人間で、純粋な魔族はこの魔王城がある山脈とごく一部の辺境にしか存在していないんですよね〜」
「で、わざわざ純と付けるってことはそうじゃない魔軍の兵もいると?」
「五年前の戦いでも、魔軍の純魔族はほぼ指揮官クラスか特務部隊に属するの者達だけだったと伺っております。後は溜まった瘴気に当てられ、魂を取り込まれて魔物化した者達になります」
「……いわゆる、“闇落ち”状態と言えば分かりやすいでしょうか?あとは、その瘴気の塊そのものが魔物化しているとも聞きましたけど」
「ああ……分かりやすいけど、えっ、そーだったんだ……!?」
「おろ、ご存じなかったのですか?」
「うん……定期的に魔王が生えてきて、そのたびに魔王を司令塔にした魔軍も復活して、それに対抗する為に聖霊様が勇者を送り出して討伐させているループってくらいしか」
 そこでシトリーから意外そうな顔で訊ね返され、手持ちの貧弱な知識を披露するわたし。
 ……というか、まぁアステリア国王が説明してくれなかったのは単に知らなかった説もあるけれど、絶対に知っていたはずのスメラギは教え忘れたのか、敢えて黙ってきたのか。
「そもそも、この世界に純然たる魔王が存在したことは無いはずです。皆……」
「え……?」
 そして、アトリーはそこから更に意味深な言葉を続けてきたものの……。
「ほら、着きましたよ。この扉には見覚えがおありですよね?」
 しかし、その前にシトリーが分厚い大きな扉の前で足を止めて到着を告げてくる。
「……うん……」
 そう、確かに此処は五年前に三人で最終決戦に挑んだ魔王城中枢への入り口。
 あの時は最終防衛ラインだったこの場所での激しい戦闘で扉の前は半壊状態になっていたけれど、今はすっかりと綺麗に修復されていて、守っていた暗黒騎士(ダークナイト)達もいない。
「……それでは、我々の役目はここまでですので失礼いたします」
「後は、お部屋でお待ちしておりますね?」
 おまけに、漂う空気は静寂そのもので、本当にこの先に魔王がいるのだろうか?と疑いたくなってきた上に、雇われメイド姉妹も一礼してさっさと戻って行ってしまった。
「あ、ちょっ……!なんなの、一体……?」
 何やらさっきから噛み合わないというか、あの二人はこれからわたしが魔王と殺し合うというのを全く想定していない、ワケはないはずなんだけど。
(……まぁ、同時に戦う敵が増えなかったというだけでもヨシとしときますか)
 とにかく、ここで前に進む以外の選択肢は存在しない。
(ふ〜〜〜〜っっ)
 わたしはここらで胸の動悸が昂ってきたのを深く深呼吸して抑えた後に、魔力を込めた指先で自分よりも遥かに背丈の高い黒金(くろがね)の扉の合わせ目に触れると、少しのラグを置いての重苦しい動作でゆっくりと左右に開かれていった。
 ……さぁ、この先で待つのは復活した魔王イル・ヴェールなのか、それとも……。
「…………」
「…………」
「……よくぞ、呼びかけに応じてここまで来てくれました、私の勇者よ」
「へ……っ?」
 しかし、一旦心を落ち着かせて足を踏み入れたというのに、それから靴音を響かせながら少し歩を進めたところで届いた耳障りのいい女性の声に、再び心臓が張り裂けそうなくらい脈打つ。
 ちなみに、別に魔王に呼ばれたから来たワケでもないんだけど、そんなツッコミすらどうでもよくて……。
「さぁ、もっと近付いて来て。テレシア・ルフィン……」
「……っ、まさか……いや……」
 そして、忘れるはずのない懐かしい声に導かれるがまま早足で奥へと進むうち、突き抜ける様に高い玉座の前に立つ黒ずくめの、吸い込まれそうに深くも禍々しい闇の魔力を纏う一人の姿が見えてくる。
 その気配、存在感は間違いなく魔王のものだと認識できるものの、しかしその姿は五年前に戦った魔王イル・ヴェールとは似ても似つかず。
「……っ、う、嘘……そんな……」
 だって……。
「ウソじゃない……嘘じゃないんだよ……ルフィンちゃ〜〜ん♪」
「る、ルシリエ……?!もが……っっ」
 期せずして、待ちきれないといった様子で綺麗なロングストレートを棚引かせてこちらへ全力で駆け出し抱きついてきたのは、死んだはずのヘンタイ聖女サマだったのだから。
「…………っっ」
 果たしてこれは現実(リアル)の光景なのか幻影の中なのか、またしても自信がなくなってくるものの、ただこの人懐っこくも澄んだ声と、手加減なしで頭を押し付けられたこの胸のふくよかな感触は紛れもないわたしの記憶の中のルシリエのもので……。
「……ね、だからはよこいって言ったでしょ〜?」
 ついでに、信じがたい事実ながら、玉座の横で親指を立てながらドヤ顔を見せるロメリアちゃんを見て、これで今までの疑問のいくつかがまとめて解決した気もした。
(けど、こんなのって……)
「ホントにまた逢えるとは思わなかった……お互い以前のままとはいかないとしてもね」
「ちょっ、一体どういうコトなの、これは……!」
 そりゃルシリエの姿形だけそっくりではなくて中身も本人なら嬉しくないワケはないんだけど、状況が状況だけにこちらもなかなか抱きしめ返す手が動かないわたし。
「私もね、つい最近に目覚めたばかりだから魔王になった実感はあんまり無いんだけど、死の間際に取引を持ちかけられたの」
「え……?」
「……生まれて初めて憎しみに囚われてしまった私が、最も残酷なやり方で癒しのチカラを生命の破壊に使ってルフィンちゃんの仇を討ってしまって、ロメリアちゃんには申し訳無いとしても、これ以上ヒーラーとして生きてゆく資格は無いと自らケジメを付けようとしたんだけど、家の近くの泉へ飛び込んだ直後に声が届いてね」
「声……?」
「うん。幼い女の子の声だったけど、もう一度好きなひとに逢わせてあげようか?って」
「…………っ?!ち、ちょっと……ごめん……!」
 そこで、急に何かが引っ掛かったわたしは一旦ルシリエを引き剥がして一歩下ると、改めてじっと蘇った仲間の姿を見やる。
「え、どうしたの……?私のカラダが見たいなら脱いだほうがいい?」
「いや、別にそこまではしなくていい……って、だから娘の前ではしたないから脱ぐなっつってんの……!」
 雰囲気こそ幾分の変化はあるとして、顔かたちは全く同じで、恰好は純白を好んだ聖女時代と違ってイル・ヴェールが身に着けていたものとイメージが近い、いかにも闇の王といった意匠のどす黒いローブに身を包んでいるけれど、改めて見れば経過した年月相当に熟成されていたライラと比べ、ルシリエは一緒に旅していた頃のままっぽい。
 そして、聖女の遺体はライラが確かに回収して望み通りに葬ってあげたとも聞いた。
(まさか、わたしと同じく……?いや、だとしてもその女の子って一体……?)
「ね、そろそろまた抱きしめてもいいかな?」
「……あとでハグタイムはあげるから、もうちょっと待ちさない」
 それから、すぐにウズウズした様子で両手を広げてくるヘンタイ聖女……いや魔王に、苦笑い交じりでステイをかけるわたし。
「はぁ〜い……んじゃ、ガマンしたらお尻もさわっていい?」
 ……というか、ホント中身だけは変わってないみたいだけど。
「あーもう、大サービスで好きにしてくれていいから……それで、話の続きだけど誰だか分からない相手との取引に応じたんだ?」
 もちろん、わたしも人のコトは全く言えないとしても。
「うん……。入水した後だったし、咄嗟に逢いたいと答えた後でそのまま意識を失って……次に気が付いたら、“ここ”に座っていたの」
「魔王の玉座に?」
「どうやら、あれから四年くらい経っていたみたいなんだけど、目の前に髪も瞳も着ていた服も黒ずくめの小さな女の子が目の前に現れてね、あなたの好きな人はまだ生きていて、このままここで待っていればいつかやって来るはずだからって」
「黒ずくめの、小さな女の子……」
 外見からではうちの上司ではなさそうだけど、でも酷似しているというべき話。
「それで、とにかく言われた通り待っているうちに、最初に現れたのが勇者となって魔王討伐にやって来たロメリアちゃんだったのは驚いたけどね?ふふ」
「アタシも、最初は魔王がママの姿に化けて惑わせてるとカンチガイしかけたけど、すぐにホンモノのルシリエママだと分かったから、あとは迷わず寝返っちゃった♪」
 そう言って、あざとらしく頭に手を当てつつてへぺろして見せるロメリアちゃん。
「寝返っちゃったんだ……」
 でも確かキミは聖霊サマに選ばれた……いや、でもそうなるよね、やっぱ。
「……それで、ルフィンちゃんの方は?」
「わたし?わたしは……」
 正直に言っていいものかは分からないけれど、ルシリエに包み隠さず教えてもらったからには、こっちも答えるのが礼儀……。
「ね〜、それはゴハン食べながらにしよ〜よ?アタシおなかすいたぁ……」
「ええ、そうしましょうか。ルフィンちゃんもお腹が空いてきているでしょう?」
 しかし、その前に娘が空腹を訴えたのを見るや、ルシリエは母親の笑みを浮かべて頷き、
「いや、わたしは別に……って、ありゃ……」
 続けて水を向けられるも、特に食欲は湧いていなかったので首を横に振ろうとしたところで、胃袋の方が先に応えてしまう。
「あは、ルフィンママも一緒だ〜」
「ふふ、身体は正直みたいよ?ルフィンちゃん?」
「あはは……そーだね……」
 そういえば、ロメリアちゃんに連れ去られた時は午前中だったと思うけど、目が覚めてここまで来る道中にはもう外が薄暗くなっていたっけ。

                    *

「……へぇ、ルフィンちゃんの元には白い女のコが出てきたんだ?」
「そ。わたしも毒入り葡萄酒を飲まされて火を点けられた後だったから、ロクに考えるヒマなしで助けてと言っちゃったんだけど……」
 ともあれ、愛娘を餓えさせるわけにはいかないと、新しい魔王さんに連れられて魔王城のがらんと広い食堂へ赴き、ライラの実家みたいな晩餐会でも始まるのかと思えば、そのまま隣の調理場まで移動してまさかの自炊を告げられ、やがてサラダ用の野菜を切り分けながらさっきの話の続きとしてわたしもあれからのコトを掻い摘んで話すと、エプロンを羽織ったルシリエが大きな鍋においしそうな匂いを漂わせているシチューを煮込みながら興味深そうに食いついてくる。
(しかし、魔王サマが自ら料理って……)
 元々料理上手だったとはいえ、今となっては奇妙な光景に見えるけど、さっきアトリーも言っていた通りに今の魔王城は深刻な人手不足らしくて、掃除や洗濯をしてくれる魔族メイドさんは臨時で雇っているものの、食事に関してだけはロメリアちゃんの食育も考えて自分で作ることにしているそうで、これまた庶民的な魔王陛下もいたものだった。
「しっかし、ルフィンママもヒドい目に遭わされてるよねぇ……むぐむぐ……」
 それから、わたしの好物でもありルシリエの得意料理なハンバーグのタネをボウルの中で捏ねつつ横から聞いていたロメリアちゃんも、ローストしてサラダに入れる予定のナッツを時々つまみ食いしながら同情してくれている様子で呟く。
「……ったく、恩着せるつもりはないけど、これでも一応は世界を救ってあげた勇者サマなのにねぇ?ところで、それってそのまま食べて美味しいの?」
「ん、食べてみるー?はい」
「ありがと……あ、確かにいいおやつだわコレ」
 そこで、ここぞとばかりに今まで言えなかったぼやきを遠慮なく発散させて貰った後でナッツの味が気になったわたしへ、ロメリアちゃんが一つ口の中へ放り込んでくれると、絶妙な食感と塩加減が程よく舌を刺激して、確かにサラダに混ぜても良いアクセントになりそうだし、そのまま食べても止まらなくなりそうだった。
「もう、つまみぐいはダメよ?二人とも。……でも、そこからこうして集まって一緒にご飯を作っているなんて、何だか不思議よね?」
「……うん……ってこらぁ……っっ」
 そして、隙あらば木のスプーンを持っていない方の手でお尻を触られたりして油断大敵ながら妙に安らいでくる心地にもなって、もしかしてこれって結果オーライなんじゃ?とか考えはじめてしまっているのは困るべきなのか困らないのか。
「だって、さっき大サービスで触っていいって……ふむ、復刻されたカラダの再現度は完璧みたいね。感度の方も……んふっ♪」
「ああも〜っっ、ったく、そういうトコだけ抜け目がないんだから……!」
 ……まぁ、この再会をどういった感情で迎え入れたらいいのかまだスッキリしていないものの、今日ばかりは許してあげますが。

「は〜〜ごちそうさま。まさかまたルシリエの手料理が食べられるなんて……」
「ふふ、おそまつさま。でもお客様なのに手伝わせてゴメンなさいね?」
 それから、三人がかりで完成させたキノコのシチューと合挽きハンバーグとサラダにパンという、素朴だけどシンプルに美味しかった夕食に舌鼓を打った後で、こちらはメイドさんに淹れてもらった食後のコーヒーを嗜みながら率直に呟くわたしへ、ルシリエは嬉しそうに微笑んで水くさいことを謝ってくる。
「いやいや、そんなのは元から思考の外だからお構いなく。はーコーヒーおいし」
 というか、もしかしてバリスタなメイドさんなのか、こっちは高級店なお味だった。
「んふっ、私ルフィンちゃんのそういうトコも好きよ?全然変わってないんだ」
「……逆に、嫌いって部分があったなら聞いてみたいくらいだけど、でも何だかんだであれから心境の変化は結構あるみたいなんだよね……」
 とりわけ、言葉遣いがワイルドになってきているのもだけど、一番大きいのはこの魔法少女衣装を着るのに抵抗感を覚えているというトコだろうか。
「ううん、当然だと思うから気に病まないで。……それだけの経験をしてきたんだし」
「ん、お互いにね……ホント、どこで狂っちゃったんだろうなぁ……」
 わたしの処刑イベントさえ回避できていたら、今頃は魔王城ではなくルシリエの自宅で何の心配事もなくこうやって過ごしていたのかもしれないのに。
「いくらルフィンちゃんでも、過去を巻き戻す能力(チカラ)までは持ち合わせていないのでしょう?だったら前を向いていないとね」
「勇者道は振り向かないものと見つけたり、だっけ。……でもさぁ、ルシリエはこれからどうするつもりなの?」
 それから、昔の様に落ち込みかけたらやんわりと諭してくれる元聖女さんにもっと委ねてみたい気持ちは芽生えつつ、頃合を見て言い出しにくかった質問を向けてみるわたし。
 とりあえず、魔王となってまで望んだわたしとの再会はこれで果たされたとして、もうヒーラーとは対極の存在になってしまったわけで。
「……そうね、とりあえずあの黒い女の子に何かしろとは言われてないから、このまま敢えて私が魔軍を管理するのはどうかなって。勿論ロメリアちゃんにも手伝ってもらってね」
 すると、ルシリエの方は特に悩む様子も見せずに前向きな思いを返しつつ、隣の席でいつの間にやらテーブルに伏せて眠ってしまっていた愛娘の頭を撫でてやり始める。
「あ〜、なるほど。そういう手が……」
 そっか。今の魔王ルシリエは魔王の器に聖女の魂が入っている状態だから、上手くいけば彼女が現役の間は人知れず平和な状態を保っていけるのかもしれない、けど……。
「でも、いいの……?そうなるとルシリエはこれからずっと人里離れたこの魔王城に居続けなきゃならなくなるかも」
 ある意味、それは自分が生贄になると言っているのも同義なのだから。
「確かに、それを思うと少し寂しいかもしれないけれど、ルフィンちゃんも一緒に居てくれたら耐えられそうかな?」
 そこで、とてもじゃないけど素敵な考えだと無責任に頷けないわたしへ、ルフィンへの愛を公言していたかつての仲間はそう言って、魔王なのに天使の様な笑みを見せてきた。
「…………っ」
 えっと、そうきましたか……。
「さすがにライラちゃんまでは誘えないとして……ね、これから三人で暮らさない?」
「…………」
「って、いきなり言われても困るわよね?」
「ま、まぁね……」
 ともあれ、要求としては真っ当とは理解しつつ、わたしもすぐには答えられなかった。
「ふふ、すぐに返事を頂戴なんて言わないから、しばらく滞在していかない?ご飯だけは一緒に作ってもらうけど、お世話してもらうメイドさんも雇っておいたんだし」
「うん……」
 すると、ルシリエも結論を急がせるつもりはないらしく、とりあえずのお誘いに躊躇いを残しつつ頷くわたし。
 まぁどのみち、自分も手ぶらじゃこの魔王城から出られないワケで。

                    *

「……おかえりなさいませ、ルフィン様」
「おかえりなさいませ〜。伺いましたよ、やはりしばらく滞在なさるそうですね?」
「あー、成り行きでそうなっちゃったから、まぁよろしく……」
 それから、みんなで仲良く片付けを済ませた後でルシリエ達と別れて客室まで戻るや、ベッドメイクして帰りを待ってくれていた双子の魔族メイドさん達に出迎えられて苦笑いを返す。
 アトリー達には予定通りなんだろうけれど、まったく妙なコトになってきたもので。
「既にベッドメイクは完了して着替えもご用意しておりますのでいつでもお休みいただけますが、先にご入浴なさいますか?」
「なんでしたら、わたくし達がお背中をお流しいたしますけど?ふふ」
「……いーえ、一人で入れるのでお構いなく」
 というか、そういえばあの元ヘンタイ聖女が久々というのに一緒にお風呂へ入りたがらなかったのが少し怪訝だけど、焦る必要もないって事なのか。
 そもそも、昔のルシリエだったら自らメイド服を着てでも自分が直接お世話してあげるとか言い出したろうに、やはり子持ち魔王となればそうもいかなくなるのかな。

「……ねぇ、勇者と魔王ってさ、共存共栄できるもんだと思う?」
「ご質問の意図は図りかねますが、共存というより元々共生関係なのでは?」
「まぁ、永遠のライバルであり、最も理解(ワカ)り合えるカンケイというのはあるあるですよね〜。ちなみに、われわれの故郷ですと魔王陛下と勇者さんが実はラブラブなカンケイなのは公然の秘密だったりします」
 それから、客室に備え付けられていたお風呂にゆっくりと浸からせてもらい、用意された新しい下着やパジャマに着替えている間にわたしが何となく尋ねてみると、どちらからも比較的好意的な回答が返ってくる。
「あ、ちなみに魔界での魔王陛下はこちらの世界での魔王様とは少し異なる存在ですけどね」
「んっと、その辺はよく知らないけどラブラブて……まぁその方が平和っちゃ平和なのか……よっと……」
 考えてみれば、何だかんだでどちらも孤独で孤高な存在だから、立場は対極でも似たもの同士で魅かれ合うこともあるって感じなのかな。
 ……わたしとルシリエが該当するのかは分からないけど。
「では、そろそろお休みになられますか?」
「……んー、そうしたいけど、今日はたっぷり昼寝しちゃってるから眠れるかなぁ」
 ともあれ、寝間着まできっちりと着込んだ後で改めてアトリーから尋ねられたものの、とりあえずベッドに腰掛けたままぼやくわたし。
 結論を急ぐ必要は無いとは言われたものの、難しい宿題も与えられてしまったわけで。
(うーん……)
 正直、今の立場ではここで一緒に暮らす提案を飲むのは難しいんだけど、ただルシリエの相変わらずだった献身も無碍にはしたくない。
(妥協案で、通いパパでもしちゃう?……言葉にするとアレだけど)
 それに、魔王討伐を請け負った身でリンドウ王にどう説明するのかという問題もある。
「…………」
 けど、今のルシリエを討てるのかと言われると……わたしは……。
「……では、よろしければわたくし達が安眠サポートいたしましょうか?」
 と、横になったのはいいもののさっそく考えゴトで目が冴えるばかりになってきたところで、シトリー達が遠慮がちに水を向けてくる。
 考えたら、この二人がいつまでも居座っているから落ち着けない説もあるような。
「へ……?そんなのできるの?」
「一応、私達の得意技ですので……」
 ともあれ、食いつき気味のわたしにアトリーは淡々とそう告げるや、二人で囲むようにして両サイドの枕元へ立つと、延ばした手でわたしの片手と重ね合わせた。
「え、なに……?」
「まぁ、一種の睡眠魔法ですよ〜。寝つきを良くさせるための」
 そして更にシトリーもそう続けると、もう片方の手をぎゅっと握ってくる。
「後は、このまま目を閉じていただければ、程なくして……」
「……あ、ホントだ……」
 確かに、繋いだ手を介して全身がふわふわで柔らかいものに包まれる様な感覚に囚われてくると、やがてわたしの意識はすっと沈んでゆく様に落ちていっていた。
「では、ごゆるりとお休みなさいませ」
(これは……たしかにキく……)
「…………」
 だったものの……。

「…………」
「…………」
「……きて……」
「……ね、ルフィンちゃん起きて……?」
「…………?」
 やがて、どれだけの時間が経ったかは知らないけれど、意識が綺麗に落ちていた中で不意に耳元から呼ばれる声が届いて、わたしは薄目を開く。
(んぇ、この声は……)
「ふふ、相変わらずの可愛らしい寝顔だから起こすのは忍びなかったんだけど……」
「……っ?!」
 すると、窓から月明かりだけが差し込む消灯後の室内には、いつの間にやらベッドにもぐりこんでいたヘンタイ聖女……いや、魔王ルシリエと……。
「……でもでもぉ、ルフィンママのもっと別のカオも見たいカナ〜って」
「…………ッッ!?」
 さらに、もう片側からはロメリアちゃんのイタズラっぽい笑みが、すぐ隣の枕元から現れてきたりして。
(ちょっ……っっ)
 部屋に戻る際に、「それじゃ、また明日ね?」と珍しく食い下がってこなかったので油断してたけど、やっぱり殺意ならぬ夜這いの裏返しだったのか……って、別に上手くもないコト言ってる場合じゃなくて、まさかの親子で攻めて来るなんて……!
「それに、せっかく来てくれたんだから、二人でしっかりおもてなしをしないと、ね?」
「あはっ、ルフィンママって案外こーいうのキラいじゃなさそうだしさ〜」
「い、いやそんなコトは……って、うお……っ?!」
 しかも、揃ってドスケベなスケスケベビードールを双子コーデでキメていて、これからナニをされようとしているのかは聞くまでもないといった様相である。
「あールフィンママ、今ノド鳴らしたぁ。えっち〜♪」
「お、驚いただけだから……って、ルシリエあんた娘になんてマネさせてんのよっ!?」
「べつに、私が強制したわけじゃないんだけど、ロメリアちゃんもやっぱりルフィンママのコトが大好きだからっていうから、ね。ふふ……」
「……だぁってぇ、イバラに捕まって悲鳴アゲてたルフィンママを見てムネキュンしちゃったんだもん〜」
 そして、ロメリアちゃんも小悪魔っぽい笑みを浮かべてそう告げるや、二人はそれぞれわたしの頬へ口付けしてくる。
(な、なにコレ……?)
 タチの悪い夢?
 ……でも、しっかり唇の感触はあるし……。
「もう、天下無敵のテレシア・ルフィンがそんなコトじゃダメでしょう?少しオシオキも必要かしら?」
 それから、元ヘンタイ聖女は勝手にそう告げると、わたしの胸元をまさぐりはじめ……。
「あっ、こらダメ……って……えええ!?」
 危機感を覚えたわたしは慌てて抵抗しようとしたものの、いつの間にやら両手首が頭の上で縛られているのに気付く。
(う、うそ……)
「テーコーなんてムダだから。ほら、足にもチカラ入んないでしょ?」
「え、ちょっ?!どうなって……」
 しかも、手が縛られているなら足でと踏ん張っているつもりが思う様に動かず、あろうことかパジャマの下をスルスルと脱がされてしまうわたし。
「ロメリアちゃん、やめ……あぅぅ……っっ」
「……それじゃ、私はこっちね?」
「や、ダメ……だってば……!」
 そして更に、ルシリエには抵抗できないのをいいことに上着のボタンを上から順に手際よく外されてしまうと、あっという間に桃色のお揃い下着が露にされてしまった。
「あは、ルフィンママのパンツ丸見え〜。ねぇ足ナメてもいい?って返事は聞いてないケド」
「え……そんな……まって……」
「だぁ〜め」
 それから、ロメリアちゃんは一方的にそう告げるや、こちらの制止もきかずに右の足を両手で掴むと、あろうことか指先に口付けした後で小さな舌を這わせてくる。
「…………っ?!あぅ……っ、ダメだって……そんなトコ……!」
 瞬間、ゾワゾワと何ともいえない刺激が足の先から背筋を走り、戸惑いと罪悪感も合わさって全身を震わせるわたし。
「ん……っ、らいひょーぶ……きもひいい……?」
「………ッッ」
 元々慣れていない刺激というのもあるけど、ロメリアちゃんみたいな年頃の、しかも自分にとっても娘みたいな存在のコに足の指を舐めさせているなんて、イケないコトをしまくっている背徳感がヤバすぎて……。
「ちょっ、ルシリエ……ホントどういう教育して……あひっっ」
「こういうのはね、誰かに教わるんじゃなくて自らの心の赴くままに動くものよ。……だから、ルフィンちゃんも受け止めてあげて?」
 そこで、こんなコトさせていいのかと親を咎めようとするも、お腹を撫でられながらあっさり諭され返すと、魔王ルシリエはわたしの首筋に顔を埋めてキスマークを付けつつ、脇腹から下着越しに胸の先端へと向けて擽るようにして繊細な指先を這わせてくる。
「あぅ……っっ」
 受け止めてあげてって、もしかして貞操のキケンが相当アブないやつでは……?!
「んん……っ、ルフィンママ……」
 そんなロメリアちゃんの献身的な口元は足の甲から足首を通ってふくらはぎへと上がってきているし、このままいくと……。
(ああ、うう……っ)
「……もう、ロメリアちゃんばっかりじゃなくて、私の方もちゃんと見て欲しいなぁ?」
 しかし、意識がロメリアちゃんの舌先に集中しかけたところで、ルシリエも両手の指先で生地の薄いブラ越しにそれぞれの乳頭近くを絶妙な力加減でなぞり回してくる。
「あぅ……っ、ちょっ、そこは……だめ……!」
「さーて、ルフィンちゃんの乳首はどこだったかなぁ……?」
 ……それから、どこかなと言いつつも明らかに分かっている様子で、まだぎこちなさか残るロメリアちゃんと違って、セクハラを繰り返して手馴れたルシリエの指先は敢えて肝心な部分を避ける様に焦らしてきたあとで……。
「…………っっ?!」
 不意に、その指先が一番ビンカンな部分を押し潰してくると、びくんと電流が流れた様な刺激が走って背中が反り返ってしまった。
「ふふふ、もうこんなに硬くして……」
「あは、やっぱルフィンママやらしいんだぁ?ん……っ」
「いぐ……っ、こんなの……もうやめ……んひっっ?!」
 そして、散々焦らされた後で今度は執拗に先端だけをこねくり回され、強烈な刺激に頭の中が真っ白になりそうになる。
「あら、やめていいのかしらん?ホントは恥ずかしいだけで気持ちいいんでしょう……?」
「そ、そんなコト……って、だから、だめぇ……っっ」
「ね……ルフィンママのココもしっとりしてきてるし……?」
 しかし、言葉では強がりつつも、太腿の裏へ舌を這わせていたロメリアちゃんの小さな指先が下着の一番恥ずかしいトコロを包んでいる部分に触れてくると、何やら嬉しそうに一番指摘されたくなかった“証拠”を囁きかけてきたりして。
「い、言わないで……くぁ……っっ」
 それでも制止を聞いてくれるハズもなく、乳頭を挟み潰す様に愛撫してくるルシリエに合わせて、ロメリアちゃんの指先もぐいぐいと押し付けて更に快感を引き出そうとしてくる。
「ね、これからここに居てくれるなら、私達がいつでも気持ちよくしてあげるから……」
「…………っ!」
 それは、まさしく悪魔の囁きだったものの、抵抗できない中で……それも魔王ルシリエの言う通り、決して不快ではない愛撫がわたしのカラダを熱くさせ、だんだんと火が点いてしまいそうになってきていて……。
「ああぅ……っ、だ、だめそこぐりぐりしちゃ……ぁ……っ!」
「ダメじゃないでしょー?ほら、ルフィンママのココ、じわじわおもらししてる〜」
「い、言わない……でぇ……っ」
 気付けばすっかり全身がアツくなってきているものの、これって羞恥なのか、それとも……。
「ね、だから……ルフィンちゃんもここで一緒に暮らそ……?」
「……くぅ……っ」
 そして、そんなダメ押しの口説き文句の後でとうとうわたしのブラが剥ぎ取られ、
「アタシたち、ずぅっと待ってたんだし……ルフィンママのタメなら、こーいうコトだってデキちゃうんだから……!」
 続けてロメリアちゃんもわたしのショーツの端に指をかけ、そのままゆっくりと膝上まで下ろされて、いよいよどうにもならなくなってしまう予感がしてくるものの……。
(そ、そんなコトまで……するの……?)
 でも、抵抗なんてムリなんだし、なにより二人がしてくれているのは愛情表現、だよね?
「ルフィンちゃん、綺麗よ……」
「あは、ルフィンママもつるつるだ〜」
「…………っ」
 と、痛いほどに胸が高鳴る中、やがてわたしの中で観念してもいいかという気持ちが芽生え始めてゆく。
「ふふ、それじゃもっと気持ちよくしてあげるから……」
「あ、あぅ……」
「アタシたちと一緒に……」
<あなたも、“こっち”に来よう……?>
(……え……?!)
「……もう、いい加減に目を覚ましてください、ナズナさん……!」
 それから、か細くもしっかりした幼い女の子の声が頭の中に不意うちで響いた直後、今度はしっかり聞き覚えのある別の少女から頬を引っ叩かれる様に強く呼びかけられ……。
「スメラギ……っ?!って、あれ……?」
 引き戻される感覚と共に上半身を起こして我に返った時、わたしは薄暗い客室のベッドで一人になっていて、眠る前は両隣から手を繋いでもらっていた双子のメイドさんの代わりにうちの上司がおかんむりな様子で枕元に立っていた。
「まったく、なに無防備に夢魔達を隣に置いて寝入ってるんですか!?あやうくトコヨに取り入られるところでしたよ!」
「トコヨ……?それに夢魔って……」
 それから、一体何がどうなっているのか分からずぼんやりするしかないわたしへ、今まで見たこともない剣幕で捲し立ててくるスメラギ。
 何やら、相当ピンチな目に遭っていた……のはまぁ間違いないとして。
「あなたを寝かしつけていた双子のメイドは、元々淫らな夢を見させて精気を吸い取る魔族だったんですが、彼女達は夢の内容を自在に操ることが出来るんですよ……たとえば、魔王があなたに見せたい夢などを」
「……いわゆるサキュバスの仲間ってこと?で、あの二人は?」
「殺してまではいませんよ。ただ、邪魔なので元の世界へ戻ってもらいましたが……とにかく危ないトコロでしたけど、魔者を相手にするというのは正面きって戦うだけじゃないというのは当然の知識として……」
「なら、最初から教えといてよ!そのトコヨとかいうのだって言わなかったじゃないのさ」
 ともあれ、助けてもらったのは感謝としても一方的に怒鳴られ続け、むかっ腹が立ってきたのもあってお礼を述べる前に睨み返すわたし。
「それは……あなたに余計な迷いを与えると思ったからです。けど……」
 すると、スメラギも多少なりの後ろめたさを感じていた素振りは見せつつも、すぐにわたしの目をじっと見つめてくると……。
「けど、なによ?」
「今一度ナズナさんに命じます。貴女のその手で、魔王を討ち取ってください……!」
 両手でパジャマごしに胸倉を掴み、断固とした声でわたしに再オーダーを下した。
「…………っ」

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