トリコロDOMARA:台風の昼下がり


(八重の部屋で、ごうごうと暴風の音が聞こえている)

八重:うわー、吹いてきましたねぇ…。
にわ:そうね…ガラスとか割れなきゃいいけどねぇ。(窓の方を心配そうに見る)
多汰美:まぁ、そのお陰で今日は休校になったんじゃけど。
八重:休校になる位だから、やっぱり今回の台風は強いんですよね?
真紀子:さっきテレビでゆうとったが、なんでも今回は最大風速60メートルくらい行くらしいで?
にわ:ろ、ろくじゅうメートルっっ?!
多汰美:最大風速60メートル言うと…人なんて紙の様にひゅーんと飛んで行くんじゃろーねー?
真紀子:せやな。多分、車も吹き飛ばされるんちゃうか?
多汰美:それじゃ、タイガー戦車もゴロゴロと飛ばされて行くんじゃろか?
にわ:そんなワケないじゃないっっ!!
真紀子:…なんでタイガー戦車やねん。
八重:多分、戦闘機もジェットエンジンが壊れても飛んでいきますよ?
多汰美:おおーっ、それじゃステルスも…。
真紀子:だから、無理やって…。

ぶつっっ(電気が切れる)

八重:あ……。
真紀子:予想はしとったが、とうとう切れてもうたか…。
八重:ま、まぁ。でもまだ明るい昼間でよかったですよ。
多汰美:これが夜じゃったら、真っ暗で何も見えなかったろうけえね。
にわ:ホント、良かったわ…。(はぁぁぁと溜息をつきながら)
真紀子:…そこ、素で残念がるな。
八重:あ、あはは…。

(ごうごう、ガタガタと窓が軋む)

にわ:んー、でもこれで当分帰れなくなったわねぇ…。
真紀子:台風じゃ無くても、帰る気ないくせに。
にわ:なんか言った??
真紀子:いーや。なんにも。
八重:しかし、これでテレビも点かなくて退屈になりましたねぇ?
多汰美:せっかくみんなで桃鉄やろうと思っとったのに…。
真紀子:貧乏神マスターのあんたとは、停電でなくてもあまりやりたくはないけどな。
にわ:でも、あたしはこうしてるだけで全然幸せだけど♪(隣にいる八重にすりすりと)
八重:いや、あの…(汗)。
真紀子:全く…幸せなやっちゃな。んじゃ、また電力のかからない将棋でもやるか?
多汰美:それより、せっかく4人揃っとるんじゃし、こっちにせん?(そう言って、何処からともなく取り出す)
八重:…麻雀卓??
真紀子:なんで麻雀やねん…。
多汰美:いや、4人で一緒に遊ぶって言うたらこれかなって。
八重:でも、みんな麻雀のルール知ってるんですか?
真紀子:にわが知っとったら大丈夫やろ。(ちらっと挑発する様な目で見る)
にわ:し、知ってるわよっっ、負けたら服を脱ぐアレでしょ?!
真紀子:いや、誰も脱衣麻雀とは言ってへんし…。
多汰美:あれ、脱がんのん…?
真紀子:…だから、どうしてそこでさも常識みたいな顔をするかいな?
八重:じ、実は私も麻雀の存在を知ったのはゲーセンの奴だったりするんですが…。
真紀子:おいおい、八重ちゃんもかいな…。
多汰美:そんじゃ、箱を一個被るごとに1枚脱ぐという事で。(びしっっ)
真紀子:やらへんっちゅーにっっ!!
にわ:まぁ、あんたの場合、水着の時は腹を隠す為のパレオが必須だしねぇ。
真紀子:…魂胆が見え見えなんや、あんたの場合…っっ!!(ギリギリギリと頬を引っ張る)
にわ:ひ、ひたい、ひたい、ひたい…っっ。
八重:ま、まぁまぁ…。でも、確かに何も無しっていうのも味気ないですよ。
真紀子:んー、だったら、トップの者が好きな相手に何でも命令できるっていうのはどうや?
多汰美:おおっ、王様ゲームじゃね。
にわ:な、何でもいいの…っっ?!(目を輝かせて)
真紀子:…まぁ、一応常識の範囲内でな。
にわ:常識って、何処までが常識なのよ…?
多汰美:例えば、私が勝った時に、マキちーに結婚しろって言うのは範囲内なん?
八重:そ、それは聞くまでも無いんじゃ…(苦笑)。
真紀子:それ以前に、私と結婚したいんか、あんたは?
多汰美:…いや、出来れば料理のマトモに出来る人がええなぁ。
真紀子:ああ、それはうちもそう思う…。
にわ:んなっ、七瀬は渡さないわよっっ?!(がっしりと抱きしめて)
八重:あのー(汗)。
真紀子:ああ、そう言えば手近におったな。今まで近すぎて気付かへんかったけど。
多汰美:うんうん。お約束のフレーズも出たし、これで四角関係じゃねー。
八重:…いいから、そろそろ結婚から離れましょうよ…。

…ともあれ東入り。起家が真紀子。

真紀子:…ほな、リーチ。(静かに河に置いてクイっと曲げる)
多汰美:おおっ、早いっっ?!
八重:こ、困りましたねぇ…。
真紀子:ふふ…っ、ほれ、7順目の親リーチ…読んでみぃや?
八重:え、えーっと…。
多汰美:捨配も綺麗に迷彩張っとるしなぁ…。一色系じゃなさそうじゃけど…。
真紀子:ほれほれ、どうした?
にわ:ふっ、麻雀に弱気は禁物…てやあっ!!(だんっと勢い良く捨牌を河に叩きつける)
真紀子:あ、それ当たりや。リーチ一発、タンピンのドラ3。ハネ満やな。
にわ:ああああーっっ。
八重:にわちゃん…。いくら強気でも親のリーチでドラを振るのはどうかと思うけど…。
にわ:だ、だってもうちょっとで清一色が…。(ほれほれと見せる)
多汰美:猪武者じゃねぇ…。
真紀子:ふふふ。嫌いやないで、そういうの(きらーんと眼鏡が光る)。
多汰美:あ、マキちーの目が狩人に変わってる…。
真紀子:ふ…っ、私がトップを取った時は多汰美、覚悟しときや。
多汰美:んなっ、やっぱり私の体が目当てなんっ?!(顔を赤らめながら)
真紀子:違う…っ!!お小遣いを貰ったばかりやろ。たっぷりおごってもらうからな(ニヤリとした目で)。
多汰美:む…っ、んじゃ、私が勝ったらマキちーの全て(全財産と言う意味らしい)をもらうけんねっっ!!(びしっっ)。
真紀子:…多汰美、あんたやっぱうちの事が好きやろ?
にわ:だうー、七瀬ぇ…。
八重:よしよし、次頑張りましょうね?
にわ:うん、頑張って七瀬をあたしの…ゴホン。さて、張り切って次にいこっか♪
八重:……。(苦笑)

その後、しばらく東局が続いて…。

真紀子:(よし、また張った…純チャン3色…牌勢はうちにあるみたいやな)
真紀子:……。(ちらっと他の3人を見る)
八重:うーん、困りましたねぇ…。
多汰美:ぱんぱぱんぱぱんぱぱーん、ぱんぱぱんぱぱ〜んっ♪(楽しそうに)
にわ:ううっ、今度こそ…。
真紀子:(今回は単騎待ちやし、ここはダマで様子を見てみるか…)
多汰美:…うーん、そろそろマキちーが張った頃じゃねぇ…。
真紀子:(ぎくっっ…カンがええな、こいつは)
真紀子:…と言うか…。
多汰美:(ぴょこっと耳が出ているのを確認して)あ、これ危険牌か…。こっちじゃね?
真紀子:は…ハイエナ禁止っっ!!(びしっっ)
多汰美:え、えええっっ?!
にわ:本能で分かるってのも反則よねぇ…。
八重:あ、でもデメリットもあるみたいですよ?
真紀子:んー?
多汰美:よっ、それじゃこれでリーチ。あはは、大丈夫じゃよ。マキちーと違って私のは安いけんねぇ。(尻尾を嬉しそうにぱたぱたと振りながら)
八重&真紀子&にわ:……。
真紀子:…これは相当大きな手みたいやな。
八重:そうですねぇ…。倍満はかたそうですねぇ…。
多汰美:ええっっ?!なんでバレとるん??
にわ:…見りゃ分かるわよ。完全に。えいっっ。
多汰美:あ、それロン〜♪三暗刻トイトイでドラ3っっ。
にわ:うあああああ…っっ!!
真紀子:…だから、分かっとるなら振るなって。
にわ:だ、だって私、混一色のイーシャンテンだったし…。(ほれほれと見せ付ける)
八重:にわちゃん…。
多汰美:はいはい、これでにわちゃん一枚脱ぎ♪
八重:まだ生きてたんですか、そのルール…??
にわ:…ちっ、仕方がないわね…。(するりとネクタイを外す)
真紀子:なんや、ネクタイかいな?セコいやっちゃな。
にわ:ふ、ふん、何とでも言いなさいよ。
多汰美:ほらほら、こういう時の台詞はそうじゃ無いじゃろ?
にわ:え、えっと…いやん、もう負けないからぁっ☆(くねくねとポーズを付けながら)
真紀子&多汰美&八重:……。
にわ:な、何よーっっ、そっちがやれって言ったんじゃないーーっっ!!
真紀子:なぁ多汰美、私らが負けても言わなあかんのか?
多汰美:当然じゃろ?
真紀子:…脱ぐより、むしろそっちの方が問題やな。
八重:で、ですねぇ…あはは…。
にわ:くうーっ、もうこれ以上は負けないんだからっっ。
多汰美:ほらほら、もっと色っぽい仕草をつけて、媚びた口調で言わんと。
にわ:あ、あんたね…ってそう言えば、点を戻せば着てもいいの?
多汰美:んー、そういうの面倒くさいし、D/Sの設定で”着ない”にしてるから無理。
真紀子:なんや、ディープスイッチって??

…そして、南入り突入直後。
トップ:真紀子(48000) 2位:多汰美(42000) 3位:八重(14000) 4位:にわ(−8000)

真紀子:(さて、南入りか…とりあえず、順当に行けば私と多汰美のトップ争いって事になるんやろうけど…流石にすんなりとは行かないやろな…)
多汰美:そろそろ本気で食い付いていかないと、届かないかもしれんねぇ。
八重:多汰美さんはまだいいですけど、私なんて…。
にわ:ま、まだまだこれから…っっ。
多汰美:…八重ちゃんはともかく、にわちゃんはちょっと苦しいかもなぁ。
真紀子:ほい、あんたらが無駄話しとる間にリーチや。
八重:えええええ、またですかぁ??
にわ:あんた、イカサマしてんじゃないのっっ?!
真紀子:にわと違うて、私は配牌に素直やからな。どーせ無理に一色系とか狙っとるんやろ?
にわ:そ、そんなコトないわよっっ!!(あせあせ)
八重:にわちゃん…。
多汰美:…ポーカーフェイスも苦手みたいじゃね。
真紀子:……。
真紀子:(しかし、何だかんだ言っても、みんな性格が打ち筋に出てるもんやな…)
多汰美:んーっと…これは安全じゃねぇ。(耳が生えてくる辺りを弄りながら)
にわ:たりゃ…っ!コレ通ったらリーチっっ!!
八重:相変わらず強いですねぇ、にわちゃん。
にわ:ふふん、プロ雀士顔負けでしょ?
八重:あ、あはは…。
真紀子:…八重ちゃんの強いってのは、打牌の事やっちゅーに。
にわ:あう…(汗)。
真紀子:(多汰美は何だかんだいって直感が強いし、にわは引く事を知らへんし…)
八重:えーっと…あれ??
真紀子:(となると、後は八重ちゃんやな…。八重ちゃんと言えば…)
真紀子:……。
真紀子:(ん…っ、ちょい待ち。確か八重ちゃんはまだ無和了やったよな?)
八重:うーんっと、うーんっと…。
にわ:あれ、どうしたの、七瀬?
八重:何だか手がバラバラなんですよねぇ。
多汰美:そう言えば、今回八重ちゃんだけまだアガって無かったっけ?
八重:あはは、そうみたいですねー。
にわ:ふーん、不調なんだ。(ニヤリとした視線で)
真紀子:本当かいな…。(字牌を引く)
真紀子:……。
真紀子:(…う…っ、不要配やけど、こいつは切れないって私の直感が言うとる…)こっちやな。(タンヤオを捨てて八重の現物を切る)
にわ:ふふ…それじゃ、今のうちにトドメを刺してあげるわっっ!!(だんっっと勢い良く南を捨牌する)
八重:あ、それ…ロンです。
にわ:…へ…??
多汰美:バラバラでロンって…。
八重:えっと…確かこれでアガってもいいんですよね??(そう言って、字牌だらけの自分の手を見せる)
にわ:あううーーーーーっっ、それ国士無双ーーーーーっっ!!
真紀子:うわ、やっぱりそう来たか…(汗)。しかも十三面待ちやし。
多汰美:さっきから八重ちゃんが大人しいのが気になっとったんじゃけど、やっぱりそう来たか…(汗)。
にわ:うう…っっ、これであたしはマイナス40000点…。
真紀子:これで、またにわの脱ぎやな。
にわ:はうう…七瀬を脱がせるつもりだったのに…。(しぶしぶとブラウスを脱ぐ)
多汰美:お、青と白のしましまー。
にわ:うるさいわね…っっ。(真っ赤になって隠しながら)
多汰美:もしかして、下とお揃い??
にわ:こらっ、スカートめくらないでっっ!!
多汰美:…そうじゃないじゃろ?こういう時は。
にわ:……。
にわ:ん、もう、エッチなんだからぁっ☆(くねくね)
八重&真紀子&多汰美:……。
にわ:な、なによなによなによーーーーっっ!!
真紀子:…これ、こっそり録音しておいたら一生強請(ゆす)れるかいな?(ひそひそ)
多汰美:何か、にわちゃんを見とると、意地でも負けたくないって気がして来るよね??(ひそひそ)
にわ:はぅぅぅ…七瀬ぇ…。
八重:ま、まぁまぁ…次がありますから…。(よしよしと)
真紀子:ほれ。次は八重ちゃんが親やで。
八重:あ、はい…。
にわ:く…っ、今度こそ…っっ。
多汰美:にわちゃんも下着姿じゃし、そろそろ「ここから18歳未満お断り」のテロップがいるかな…?
にわ:じ、冗談じゃないわよ…っっ!!
真紀子:自分が勝ったら、そういう展開に持ち込むつもりやったくせに。
にわ:う…っっ、ま…まぁ否定はしないけど。
真紀子&多汰美:…否定しろっての…。
八重:あ、あはははは…(苦笑い)。
真紀子:八重ちゃん笑ってる場合やないで…。もしにわに負けたら、後でこのエロガッパに○×△☆なコトとか、あまつさえ□Ω*´Д`なコトとかされるねんで??
多汰美:あー、マキちー、イメージ的にあんまり露骨な表現はまずいから。
にわ:あんたの方がエロガッパじゃない…っ!!
真紀子:とは言っても、この展開じゃにわの逆転トップの可能性はゼロやろうけど…。
にわ:ま、まだ分からないわよ…っっ。
八重:まぁまぁ…みんな仲良くやりましょうよ…ほえ…?(配牌を並べながらきょとんとした顔を見せる)
真紀子:今度はなんや?
八重:いえ、なんか最初から全部揃っちゃってますけど…?
3人:うああああああああ…。

そして…。

八重:え…?私、勝っちゃったんですか??(下着姿でぐったりと麻雀卓に倒れ込む3人を目の前に)
真紀子:…勝っちゃったも何も、338000点で八重ちゃんの独り勝ちや。
多汰美:…まさか、あれから8連荘されるとは思わんかった…。
にわ:ううーっ、まさにお尻の毛までむしられた気分…。
多汰美:ん、にわちゃんお尻に毛が生えとるん?どれどれ…。
にわ:生えてないわよっっ!!さわるな…っっ。(ぺしっと手を伸ばしてきた多汰美の手を叩く)
八重:あやー、真紀子さん強かったのに…。
真紀子:はぁ…少々の戦術も、奇跡の強運という圧倒的な暴力の前では無力って事を身をもって思い知らされてしもうたな…。
多汰美:あはは…もう待ちを読んで防ぐとか、そういうレベルじゃなかったけぇね。
真紀子:まぁ、天和を合計3回も食ろうたらなー…。もう抵抗する気力も失せてまうわ。
八重:えーと、それで私が勝ったという事は、誰かに何でも命令していいんですか?
真紀子:ああ…うちら全員、完膚無きままやからな。もう何でもゆうたって…。
多汰美:正に、むこうぶちじゃねぇ…。
にわ:うう…七瀬…。
八重:……。
八重:それじゃ、私に付き合ってもらえますか、にわちゃん?(にっこりと仏様の様な笑みで)
にわ:んな…七瀬…っ?!
真紀子&多汰美:や、八重ちゃん…っ?!
八重:実は…今、家に食べ物が無いので買ってこないといけないんですよ。
にわ:はい…??
八重:でも、この風の中を1人で行くのは不安ですから、にわちゃん一緒に来てもらえますか?
にわ:……。
にわ:…やっぱり、そんなオチなのね。
真紀子:まぁ、順当な線ちゃう…?
多汰美:世の中、そんなに甘くは無いけんね。
にわ:まぁ、そういう事なら地の果てまでも付き合ってあげるわよ。
八重:そんな遠くまでは行きませんよぉ。近くのコンビニに行くだけですから。
にわ:へいへい、んじゃ行きましょうか。(溜息混じりに立ち上がる)
真紀子:…その前に服着て行き、服。
にわ:うああ…っ、うっかりしてたっっ!!
八重:このまま表に出たら、都市伝説の一つでも出来そうですねー(汗)。

(その後、部屋を立ち去っていく八重とにわ)

真紀子:行ってもうたな…どーでもええけど大丈夫かいな??(バタンとドアか止まる音が響いた後で)
多汰美:それって、どういう意味で?
真紀子:まぁ、色々あるけど、総じて言えば八重ちゃんの身の安全が。
多汰美:…でも、前から思うんじゃけど、八重ちゃんってにわちゃんの気持ちを知ってるくせに、避けたり離れようとしないよね?
真紀子:現に1回襲われかけとるというのに、相変わらず自分の部屋に泊めて一緒に寝とるみたいやしなぁ。
多汰美:もしかして、八重ちゃん自身、にわちゃんの事は満更でもないんじゃろか…??
真紀子:んー、満更でも無いのはあるのかもしれへんけど、そのニュアンスはちょっと違うって感じかな…?
多汰美:じゃ、なんなん…?
真紀子:つまり…にわは八重ちゃんの夢だったって所やな。
多汰美:八重ちゃんの夢…??
真紀子:…そうや。それを叶えてやれるのは、この中じゃ多分にわだけやねん。
多汰美:私やマキちーじゃ無理なん?
真紀子:まぁ…私らは既にギブアップしとることやしな。(苦笑い)
多汰美:なんかそれも悔しい話じゃね…。
真紀子:そうは言っても、にわの奴は自覚しとらんやろうけどな。
多汰美:……。
多汰美:…あれ、そういえば…マキちー?
真紀子:ん、何や…?
多汰美:私らも、いい加減服を着ん??
真紀子:あ……。

そして…。

にわ:(玄関のドアを開けて)ううわっ、すごい風…っっ。
八重:ほ、ホントに、風で飛ばされてしまいそうですねぇ…。
にわ:ねぇ、ホントに行くの??
八重:大丈夫です。こうしたら2人分の重量ですから…っ!!(そう言って、にわの手を引いて走り始める)
にわ:わ、わわわ…っっ?!
八重:今はそんなに雨も強くないですし、今のうちに何とか行って来ないと…。
にわ:た、確かに…この風じゃ、傘は意味ないし…ぶわ…っっ!!(ビニール袋が顔面に飛んでくる)
八重:大丈夫…?ご、ゴメンね、こんなに風が強いのに付き合わせて…。
にわ:(片手で乱暴にビニールを振り払って)ええい…だったら、尚更七瀬を1人でなんて行かせられないわよ…っ!!
八重:にわちゃん…。
にわ:…あれ、そう言えば今気付いたけどおばさんは?
八重:お母さんは昨日から1人で温泉旅行に行ってて、うちにいないんですよ。
にわ:なるほど、だから脱衣麻雀みたいな事言い出したのね。
八重:それは分かりませんけど…もしあんな光景をお母さんが見たら…。
にわ:あはは、流石にまずいわよねぇ…。
八重:ええ…きっとお母さんは嬉々として参加してくると思いますから…。(ズキズキと頭痛がするとばかりに顔をしかめながら)
にわ:…それは確かに一大事ね…あつ…っっ?!(ここで足を絡めてコケてしまう)
八重:だ、大丈夫…?!
にわ:あたたた…へ、平気平気…。それより、七瀬も巻き込まないで良かった…。
八重:ゴメンね…私が強引に、にわちゃんの手を引いてたから…。
にわ:あはは…慣れた頃に油断したって感じで、ちょっと情けないわね。
八重:あ……。そう言えば、にわちゃんが私の前を歩く事って殆ど無いよね…?
にわ:ん…?そ、そうだったかしら…?
八重:それって、私に歩幅を合わせてくれてるからですよね…?
にわ:べ、別にそんなんじゃないけど…。
八重:え…?
にわ:……(顔を赤らめる)。いいの。私がやりたいからしてるだけだから。(視線を泳がせながらぼそりと)
八重:???
にわ:もう…そういう恥ずかしい事を言わせないの。ほら、行くわよ?(そう言って強引に手を引いていく)
八重:あ、ちょっ…にわちゃん…??
にわ:……。

そして、買い物後…。
(後ろから店員の「ありがとうございましたー」の声に見送られながら、コンビニの自動ドアを開ける)

にわ:…うわわっ、更に風が強くなってる…。(ビュウビュウという音が鳴り響く周囲を見回しながら)
八重:困りましたねぇ…。
にわ:もしかしたら、今が一番強い時なのかもね…。
八重:ええ…っ?!それじゃ、今が戦車とかがゴロゴロ転がっていく風速なんですか?!
にわ:…んなワケないでしょうが。アメリカのハリケーンじゃあるまいし。
八重:そ…そうですよねぇ…。
にわ:でもまぁ、この風でスカートが裏返ったりはするかもね。あはは。
八重:…もう、笑い事じゃないですよぉ。
にわ:そんな事になったら、スカートの中が丸見えだもんねぇ。流石にそれは恥ずかしすぎ…。
にわ:……。
八重:…にわちゃん、どうしてそこで慌てて自分の携帯を取り出してるんですか??
にわ:あ、いや…ちょっと調子はどうかなーと思って…。
八重:もう…こんな中で携帯なんて使ってたら、飛ばされて壊れちゃいますよ?ほら、早く帰りましょうよ…?
にわ:…ちっ、残念…。
八重:だから、何が残念なんですか…??(汗)

(その後、手を繋ぎながら家路を歩いていく)

にわ:あうう…っっ、向かい風…っっ。
八重:お、追い風は追い風で怖いですけどねー。
にわ:そうね…今なら100メートル走の世界記録が更新できるかも…うわわ…っっ。
八重:て、手を離さないでね、にわちゃん…。
にわ:大丈夫。死んだって離さないから…っっ。
八重:あはは…頼りになるけど、ちょっと大袈裟かも。
にわ:私はおおマジよ…っっ!…色んなイミで。
八重:…色んなイミ??
にわ:う〜っ、その鈍感さが時々イラつく様な、助かっている様な…。
八重:あ、でも…こうして手を繋いでお買い物していると、まるで…。
にわ:え…??(どきっっ)
八重:まるで…仲のいい姉妹みたいですね?
にわ:そ、そう…?
八重:じ、実は私、こういうのに憧れてましたか…ふわわ…っっ?!(突風で髪が強く煽られる)
にわ:……。
にわ:そう言えば七瀬…。どうして買い物の相手に私を選んだの?
八重:え…??
にわ:いや、べ、別に深い意味は無いんだけど、なんとなく…。
八重:……。えっと…秘密です。(少しだけ赤らめながら)
にわ:七瀬…??
八重:あ、あまり気にしないで下さいね。大した理由じゃ無いですから。
にわ:き、気にするなって、気にしない方が無理…。
八重:それじゃ、にわちゃんもさっきの理由、教えてくれます…?
にわ:そ、それは…。
八重:……。
にわ:……。

(ここで強い突風が吹く)

八重:わわ…っ?!(吹き飛ばされかける)
にわ:な、七瀬…っ!!(慌てて腕を引き寄せて抱きかかえる)
八重:…うあ…にわちゃん…。
にわ:あ、危なかったぁ…っっ。もう少しで飛ばれる所だったわよ。
八重:うう…私、昔鳥さんになりたかった事もあったんですけど…。
にわ:下手したら、別の世界へ羽ばたいて行っちゃうってば…。
八重:う…うん…。ゴメンね…。
にわ:なんのなんの。まぁ無事で良かったわ。(にわの心の中:はぁうっ、しあわせ〜っ♪)

がいんっっ(しかしそこへ、飛ばされてきた看板がにわの後頭部に当たる)

にわ:つ…う…っっ。
八重:に、にわちゃん…今凄い音が…。
にわ:あ、あはは、このくらい平気、平気〜♪ こんなチャンスなんて滅多に無いんだし。(痛みで口元を引きつらせながら)
八重:で、でもすごいたんこぶが…。
にわ:そんなの、七瀬の感触に比べたら痛みのうちに入らないから〜。
八重:え、えっと…うわ…っっ!!(再び突風が吹いてくる)
にわ:く…っっ、こりゃ、動きたくても動けなくなって来たわね…。(八重の全身をかばう様にして抱きしめながら)
八重:うう…雨も強くなってきたみたいですし…。
にわ:もう…服がびしょびしょで透けてきてるじゃない…。まぁ、こんな時に誰も通りかからない…(そこでピタっと止まる)
八重:……?
にわ:ううっ、このまま抱きしめてたら七瀬の透けた姿が見られない〜っっ。
八重:…もう…真面目にやってくださいってば…。
にわ:いや、わたしは常に大真面目なんだけど。
八重:あ。あはは…。確かに、にわちゃんの目が笑ってない…。
にわ:ま…まぁともかく、七瀬はちゃんと私が守るから。
八重:……。
八重:…に、にわちゃん…手を離して…。
にわ:え…あ…ゴメン、痛かった?
八重:ううん、そんなんじゃないけど…。
にわ:で、でも…いま手を離したら、飛ばされるわよ?
八重:大丈夫。…代わりに、こうしてるから。(そう言って、にわの体を抱きしめる八重)
にわ:な、七瀬…??(どきんっと胸が高鳴る)
八重:今度は、私が飛ばされない様に…んっ、にわちゃんを守ってあげますね…?
にわ:…七瀬…。
八重:だって…こんな事言えるの、にわちゃんだけだから。
にわ:え、七瀬…?
にわ:……。
にわ:(あ…そっか…そういう事なんだ…)
八重:うう…っ、風が強いです…っっ。
にわ:……。(つまり、七瀬にとっての私は…)
八重:……。
八重:…迷惑…かな…?
にわ:え…?あ、ううん…そんな…。(…じゃあ、私にとっての七瀬って…?)
にわ:……。(そう言えば、あまり考えたコト無かったかも…)
八重:…わちゃん…?
にわ:……。(私は、ただ七瀬と一緒にいられればいいって…)
八重:にわちゃん…あの、頭をがっしりと掴まれると痛いんですけど…。
にわ:(そういう意味だと、七瀬も同じ気持ちのはずなのに…何故かそれを受け止めたくない私がいる…)
八重:あたたた…に、にわちゃん…っっ。
にわ:七瀬…。(それはきっと…私は七瀬のコト…)
八重:は…はい…?(真剣な目で見据えるにわに、幾分動揺の目を向けながら)
にわ:七瀬…私…あてっっ。
真紀子:こら、この嵐ん中で何をやっとるんや?
多汰美:別の意味での心配が的中したみたいじゃねー。
八重:あ…真紀子さん、多汰美さん?
にわ:あんたたち…どうして…?
真紀子:どうしても何も、こんなに風が強うなっとるのにいつまでも帰って来いひんかったら、心配くらいするで。
多汰美:あはは、ダイエットに失敗したマキちーのおかげで、飛ばされる事もなかったし。
真紀子:…多汰美、後ろからチョークスイーパーを食らいたいんか?
にわ:…と言うか、抱きついてきてるのは七瀬の方なんだけど…?(ほれほれと指差す)
真紀子:んな、八重ちゃん…?!
多汰美:も、もしかして、にわちゃんが「ほらほら、しっかり抱きついてないと飛ばされるわよ?!」とか言って脅かしたん?
にわ:そんなコトしないわよっっ!!(うあ、その手もあったか…っっ)
真紀子:…その割には、しまったって顔しとるで?
にわ:あうう…。
八重:…やっぱり、そう見えちゃいますよね…?
真紀子:え…?
八重:…いえ、何でもないです。(ふふっと自虐的に笑いながら、にわを抱きしめていた手を解く)
多汰美:……???
真紀子:…あ…。(そういうコトか…)
八重:それじゃ、みんなで帰りましょうか…きゃあっ?!(再び突風で飛ばされそうになる)
にわ:わ、七瀬…っ?!
多汰美:八重ちゃん…っ?!(慌てて真紀子と多汰美の2人同時に腕を引っ張って戻す)
八重:あわわわ…っっ。
真紀子:もう、相変わらず風が強いんやから、気をつけなあかんで?
八重:ご、ゴメンなさい…やっぱり、私は手のかかる妹ですね…。(しゅんとしながら)
にわ:……。
にわ:きゃあ…っ!!飛ばされる〜っっ?!
真紀子:……。
多汰美:……。
八重:……。
にわ:ちょっと、どうして私の時は無反応なのよーーーっっ!!
真紀子:…いや、一体何がやりたかったんか分からんかったし。
多汰美:それに、にわちゃんなら飛ばされる事もないじゃろうしね。
にわ:悪かったわね…っっ。まったく…せめて七瀬は反応してくれると思ったんだけど…。
八重:…あ……。
真紀子:…せやな。手のかかる妹はここにもおったか。
多汰美:かけんでもええ手間をかけさせてくれる所が、八重ちゃんと違う所じゃけどね?
にわ:別に、あんたらの妹になった覚えはないわよ…っっ。
真紀子:そんな事ゆーて、本当は構ってもらえないと寂しいんやろ?(ニヤリとした目で)
にわ:う、うるさいわね…っっ。
多汰美:あはは、でも、にわちゃんは私らにとっては、どっちかというとペッ…(頭の中で猫の姿を想像している)
真紀子:…多汰美、そーういう表現はあらぬ誤解を招くからやめとき。
にわ:と、とにかく…飛ばされると困るから、ちゃんと引っ張っていってよね、七瀬…っ。
八重:う、うん…ありがとう、にわちゃん。
にわ:……。(今はまだ、大きな妹のままでいいけど…いつか…)
真紀子:……。ふふ…っ。(なんや、ちゃんと自覚しとるみたいやな)
多汰美:それはええんじゃけど…。八重ちゃん、にわちゃん、買い物の袋は何処へ行った??
八重:はい…?
にわ:あ、そう言えば…飛ばされようとした七瀬を抱き寄せた時に…。

(そこで八重とにわが2人同時に買い物袋があったらしき場所に目を向けるが、その視線の遥か彼方で2つのビニール袋が暴風で舞い上がっていた

にわ:あー、既にあんな所に…(汗)。
真紀子:ばかにわーーーーーっっ!!(両手で思いっきりにわの口を裂く)
にわ:ひ、ひたひ、ひたひ…っっ。
八重:あ、あはは…すっかり忘れてましたねぇ。
多汰美:さすがに、あれじゃ回収は無理みたいじゃねぇ…。
真紀子:しゃあないなー…。もういっぺん買いに行くしかないか。
多汰美:そうじゃね。今度は、みんなで行こうな?
八重&にわ:め、面目しだいもございません…。(並んで後ろ頭を掻く2人)
真紀子:その前に、一度着替えに戻った後になりそうやけど…。(自分の雨で透けたブラウスを確認しながら)
にわ:…えっと、つまり、今までは無駄骨だったってコト…??
真紀子:ああ…誰かさんのお陰でな?(意地悪な目でじろっと見る)
にわ:うう…っ、トゲのある台詞…っっ。
八重:そ、そんなコトないですよ。半分は私の責任ですから…。
にわ:だうー、七瀬ぇ…。
八重:よしよし、にわちゃん。(甘えてくるにわの頭を撫でる)
多汰美:……。
多汰美:…なぁ、マキちー。さっき、にわは八重ちゃんの夢って言っとった事って…。
真紀子:ん…?ああ…。
多汰美:…今考えると、やっぱり恥ずかしい言い回しじゃったね…?
真紀子:……。まぁ、そういう気分やったんや。(顔を赤らめながら)
八重:ほえ?何の話ですか…?
真紀子:ああ、何でもあらへん。そんじゃ、みんなで手を繋いで戻るとするか。
多汰美:みんな、飛ばされそうになったら、マキちーにしがみ付くんよ?
真紀子:…多汰美、やっぱり後で関節技な。
八重:あははは、それじゃ行きましょうね?
にわ:うん、七瀬はちゃんと私が支えてあげるからね♪(後ろからすりすりと)
八重:いえ…その…ちょっとだけ重いんですけど…(汗)。
多汰美:…にわちゃん、それじゃおんぶお化けじゃから。
にわ:いーのいーの。おんぶお化けでも、七瀬にくっついていられるなら私は幸せだし。
真紀子:あほう。あんたは良くても八重ちゃんが迷惑しとるんや。(ぺしっとにわの後ろ頭を叩く)
八重:わ、私は別に…。
にわ:そうそう、私達は姉妹みたいな仲だもんね。…ねっ、八重おねえちゃん??
八重:……。
真紀子:……。
多汰美:……。
にわ:…ゴメン。今自分で言って鳥肌が立った(汗)。
真紀子:…やっぱ、自然体が一番って事やな。
八重:いえっ、私慣れる様に練習します…っ!!
多汰美:いや、練習はいいんじゃけど…。
八重:…はい??
真紀子&多汰美:八重ちゃんが慣れる前に、私らが恥ずかしくて死んでしまいそう。(ゾクゾクと体を震わせながら)
八重:あ、あはは…。
にわ:悪かったわねーーっっ!!

***********終わり***********


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