使が生まれる街で夢を紡ぐ その6


第六章 天使の末裔

「…………っ」
(う〜〜っ……)
 久々に最愛の姉と同衾して見た今年の初夢は、あまりにも微妙なものだった。
 ……期待通りにおねぇちゃんが出てきたのはよかったものの、よりによって一生で何度もなかった姉妹喧嘩の夢を見てしまうとは。
 しかも、なんでケンカしたのか、その理由も思い出せないという。
(は〜〜っ、もう一度見直せないかな……)
 しかし、既に室内のカーテンの隙間からは陽光が差しているし、ベッドの横にある目覚まし時計を見ると、無常にも既に一月二日の午前八時過ぎで、これじゃ二度寝も無理っぽい。
「……んー、おはよう……」
 やがて、そうこうしているうちに、隣で寝息を立てていたおねぇちゃんも目を覚まし、まだ寝ぼけた様子でわたしの身体をぺたぺたと触り始めてくる。
 ……そんな中で、お尻をイヤらしい手つきで撫で回してくるのは、懐かしいながらもツッコミの入れどころなんだけど、でもそれより……。
「おはよ。……ね、お姉ちゃんどんな夢見た?」
 とりあえず、くすぐったいけど嫌な感じはしないセクハラを放置したまま、気になった問いかけを真っ先に向けるわたし。
 一緒の夢は見たかったけけれど、これはこれでホントに同じだったらフクザツかもしれない。
「ん〜。やっぱり、夢の中でも愛奈ちゃんといちゃいちゃしてた、かな?」
「そ、そう……?」
 まぁ、いちゃいちゃとケンカは紙一重ともいうから、大体あってる……んだろうか。
「さて。それじゃ、お尻の感触は名残惜しいけど、そろそろ起きて朝食の準備をしましょうか」
「あ、わたしも手伝うから」
 ともあれ、それから優奈お姉ちゃんが両腕を大きく伸ばしつつ起き上がってゆくのを見て、わたしも慌てて上半身を起こした。
「でも、愛奈ちゃんはお客さんだし……」
「いいの。というか、やらせて?」
「……それじゃ、久々に一緒に作りましょうか?」
「うん!今朝は三人分だしね」
 どうせ食べたらすぐに帰らなきゃいけないんだし、面倒くさい家事だろうが、今は少しでも一緒にいたいから。

                    *

「……それじゃ、お世話になりました、おねぇちゃん。ホントありがとね?」
「ううん、私も昨晩は久々に愛奈ちゃんと水入らずで過ごせて、嬉しかったから」
 やがて、お仕事でお疲れのだわさちゃんも交えての朝食も終わり、いよいよ帰る時間になったわたしが改めてお礼を述べると、玄関の外まで送ってくれた優奈お姉ちゃんも、嬉しかったと言いつつどこか儚さも含めた笑みを返してくれた。
「あと、だわさちゃんにもよろしく言っておいてね?」
「ええ、ひと眠りから起きたら伝えておくから……」
「…………」
 ……本当は、まだまだ名残りは尽きないんだけど、親に心配かけるわけにもいかない。
「……家までは送ってあげられないけど、気をつけて帰ってね?」
「うん……あの、また遊びに来てもいい?」
「そうね。いつでも……とはいかないかもしれないけど、いい機会があれば……」
「あはは、何か理由を考えなきゃだけど……んじゃ、またね?ばいばい、おねぇちゃん……」
「ばいばい、愛奈ちゃん」
 そうして、帰り道の途中で何度も振り返るわたしへ、おねぇちゃんは見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。
(つらいなぁ……)
 ……でも、また今日から厳しい戦いが待ってるんだから、そろそろ切り替えないと。

                    *

「ただいまー……」
「あら、おかえりなさい。お婆ちゃんの家へ行く前に、残ったおせち食べてく?」
 それから、本日の予定に合わせて約束どおりのお昼前に帰宅したわたしが、ちょっと後ろめたさを感じながらリビングへ顔を見せると、ソファーへ座って新聞を読んでいたお母さんが、淡々とした様子でこちらを見上げて尋ねてくる。
「あ、うん、たべるー」
 とりあえず、いきなり昨日のコトを根掘り葉掘り聞かれなかったのに安堵しつつ、小腹が空いていたわたしは素直に頷いたものの……。
「……あれ、まだこんなに残ってたの?」
 そのままお母さんに伴われてキッチンへ移動すると、テーブルの上にはまだ沢山のお正月料理が手付かずのままになっていたりして。
 昨晩は自分がいなかったとしても、昨日の昼に食べた時よりまだ半分も減ってないような。
「ええ。結局、昨日はお客が来なかったから。……さ、一緒に頑張って平らげましょう?」
「あー、そうだったんだ……りょーかい」
 ……どうやら、この調子だと明日までおせち期間は続きそうだった。
 まぁ、こんなに残っているなら、いっそ詰めてお姉ちゃんちへ差し入れしたい気もするけど。
「…………」
「…………」
「……ね、愛奈ちゃん?」
 ともあれ、それからしばらくは二人でテーブルを囲んで、黙々とおせちの残りを片付けていたものの……。
「ん?」
「……昨日の話なんだけど、優奈の所へ行ってたんでしょう?」
「…………っ!」
 いきなり、お母さんから不意打ちをくらい、箸を動かす手がぴたりと止まってしまう。
「え、えっと……」
「別に、隠さなくてもいいのよ?……そもそも、昨日呼んでいた来客は優奈だったんだから」
「え、えええ……?!」
「三十日に買い出しへ行った時に、たまたま見かけちゃってね?割といい具合で変装はしてたけど、すぐに分かっちゃった」
「なるほど、そうなんだ……」
 ……ごめんお姉ちゃん、愛奈プロデュースなんて、所詮はこんなもんでした。
「でも、結局は来てくれなかったわねー。……まぁ、おそらくそうだろうとは思ってたけど」
「今はもう、立場が違うみたいだしね……。でもそれじゃ、事情はもう聞いてるの?」
「ええ、天使みたいな子だったけど、本当に天使になっちゃったってくらいはね」
「あはは、妙にしっくりくるよね?違和感なさすぎ」
 しかも、エルやだわさちゃんからの情報をまとめると、なんか結構お偉い立場っぽいし。
「…………」
「…………」
「…………」
「……それで、愛奈ちゃん……聞きたい?」
「な、なにを……?」
 それから、また少しだけ沈黙が続いた後で、視線を取り皿へ向けたままぽつりと呟くように水を向けてくるお母さんに、何だか胸騒ぎを覚えつつ尋ね返すわたし。
「代々に伝わる、ちょっとした裏事情よ。……本当は愛奈ちゃんが大人になって結婚が決まる頃にでも語るつもりだったんだけど、今がその時になってしまったかしらね?」
「……それって、お姉ちゃんのコト?」
「優奈だけじゃなくて、私達の血筋のお話。……実はね、うちの遠いご先祖様は天使だったのよ」
 そして、お母さんは少しだけもったいぶった後で、聞きたいのかどうかの返事を待たずしてさらりと夢物語みたいな告白をしてくる。
「ん……?」
「まぁ、天使は天使でもいわゆる“堕天使”なんだけどね。罪を犯したさる天使が天界から追放されることになったんだけど、普通は魔界へ墜とされるはずが、手違いか何かで人間界の、しかもこの街へと飛ばされちゃったらしいの」
「らしいのって……」
「それで仕方がなく、その堕天使は翼を隠してこの街で暮らしていかざるを得なくなったんだけど、その際に行くアテも無かった自分を助けてくれた御柱家の女性といつしか恋に落ちて、後に何人かの子宝にも恵まれたんだって」
「……えっと、つまりその落ちてきた天使様と結婚したのが、母方の御先祖様ってこと……?」
 まぁ、今だからわたしも割と素直に乗ったけど、もし天使になったお姉ちゃんが現れたり、セラフィム・クエストの開催中でなければ、間違いなくお母さんの正気を疑ってたとは思うお話である。
「ざっくり言えばそういうコト。その元天使は自分の子に孫が出来た頃に姿を消してしまい、何年か後に山奥で独り亡くなったのが確認されたみたいだけど、本人の生前に書き残した手記が遺産として残されていてね。それが代々子孫に受け継がれてきて、今はお母さんが持っているってワケ」
「…………」
「ま、だからといってその元天使がこの街で普通に暮らすにはなんの変わったコトも不都合も無かったみたいだけど、今更になって天界に目を付けられてしまったみたいね?」
 それでも、突然にそんな御先祖のお話を聞かされてもどうしたものかと反応に困っていたところで、お母さんは肩をすくめつつそう続けてくる。
「んじゃ、それとお姉ちゃんが天使になったのには何か関係が?」
「さて、直接の関係があるかは知らないけど、ただご先祖様の手記に残されていた“聖魔”のチカラがお目当てだろうなというのは察しがつくかしら」
「聖魔……?」
 そういえば、その呼び名は今までもちょくちょく聞いた覚えはある。
 ……というか、確かY&Iの正式名称が“聖魔銃”だし。
「少しばかりおとぎ話をしてしまうけど、世界には地・水・火・風・光・闇・無の七種の元素が存在していて、無以外のそれぞれの属性は地と風、火と水、光と闇でそれぞれ対になっていて、うち最初の二つは打ち消し合う関係になっているの。……ここまでは何となく付いてこられる?」
「うん、まぁ……」
 一応、エルとの約束だから言わないけど、わたしの精霊砲ことびっくり砲がその七種の属性攻撃持ちだし、バトルでも属性攻撃を駆使してくる相手は珍しくないから、そのくらいは把握しているつもりだけど。
「しかし、光と闇だけは激しく反発し合う特性を持っていて、同等のチカラを衝突させた場合は、いかなる障壁でも防げない、甚大で制御不能な暴走が生じるらしいわ。まずは、これが聖魔属性のチカラの正体ね」
「ええええ……」
 ちょっと待て、エルの奴はそんな物騒なブキをわたしに持たせてると?
「ただ、制御不能とはいっても、それは天界や魔界の住人だと光と闇のそれぞれの因子に偏り過ぎている所為なんだけど、どちらでもない別の世界には光と闇の双方の加護を生まれながらに宿し、聖魔のチカラを無意識に使いこなせる種族もいるんだそうよ?……と言えば、後は大体想像はつくかしら」
「……えっと……まぁ……。けど、それは別にうちの血筋とは関係ないような?」
 それでも、わたしの頭に何か引っかかりを感じる情報には違いないとしても。
「ところがね、ご先祖様の手記によると、その無意識に使いこなせる種族さんも光と闇のバランスには大きな個人差があって、しかも悲しい事に光が弱い者が大半なんだそうよ」
 そして、「まぁだからこそ性善説みたいな考えが浸透したんでしょうけど」と、何やらこの世の理を説くような言い草で付け加えるお母さん。
「…………」
「となれば、人間界の住人でありながら天使の血を継ぐ者達が特別な存在になってくるわけね。代が進むたびに薄れてゆくとはいえ、そう遠くない過去に光がほぼ100パーセントのご先祖様がいたのだから、遺伝で光の因子の強い子孫が生まれやすいってワケ」
「それで、おねぇちゃんが繋がるの……?」
 ただ、優奈おねぇちゃんのあの人柄が遺伝のせいだったかもというのは、天使様がご先祖だろうがわたしにはイマイチ面白くない話なんだけど。
「……まぁね。だから文字通り天使の様な人間に育った優奈の魂が目を付けられたんだとはお母さん思うわ。悪い意味じゃなくて優奈も人間である以上は闇の因子も一定の割合は占められていたハズだから、聖魔のチカラを試すにはこれ以上無い素材だったのかも」
「……うーん、おねぇちゃんに闇の因子か……」
「あら、誰だって自分の”欲”はあるものでしょう?そういうのが闇の因子になるの」
「あー、確かにそう言われれば……」
 となれば、もしかしてちょくちょく見せていたわたしへの独占欲とか嫉妬とかがそうなのかな?
 ……だったら、一気にイメージ逆転なんですが。
 何なら寧ろそっち全開で堕天使になってもらっても……というのは置いといて。
「でもまぁ、何にしたって天使軍にとって本来は忌むべき罪人の血筋でしょうに、余程逼迫した事情でもあるのかしらね?」
「うーん……」
 そういうハナシは、もちろん今のわたしじゃ知る由も無いんだけど、ただ引っかかるのはセラフィム・クエストとの関連である。
(結局、あの大会はいったい何が目的なんだろう……?)
 お母さんの話を整理すれば、その聖魔のチカラとやらが絡んでいる可能性は高そうだけど、今のところ優勝者には願いが叶えられるとしか聞かされていなくてエルも一向に話してくれないし、一方で烏ちゃんはイミシンなことも言ってたしで、何らかの秘密は隠されているんだろうけど行きつく果ては靄に包まれたまま。
 ……もちろん、自分にとっては猜疑心よりも優奈お姉ちゃんの方が優先だから、途中で降りるという選択肢は無いとしても。
「とにかく、そういうハナシだから。必要も無いのに気にかけることはないけど、まぁ頭の片隅にでも入れておいてちょうだい」
「う、うん……というか、やっぱりそれってわたしにも関係あるお話……なんだよね?」
「勿論よ。愛奈ちゃんにも優奈と同じ血は流れているんだから」
「だよねぇ……」
 まぁ確かに、わたしにもあの聖魔銃は使いこなせているみたいだけど……。

                    *

「……おかえり。まさか昨日帰ってこないとは思わなかったけど、随分と遅かったわね?」
 やがて、食事も終わって出かける前に自分の部屋へと着替えに戻ると、二日ぶりとなる相方から冷淡な言葉で迎えられてしまった。
「あはは、まぁちょっとね……」
 ただそれでも、こちらの方は苦笑いしか返せないというか、今まで何をしていたのか正直に話せない相手だけに、ちょっと気まずかったりして。
「……ま、別にナニも言わなくていーわよ?そろそろセラフィム・クエストも佳境だし」
 しかし、そんなわたしの心をどこまで見透かしているのかは知らないけれど、エルは肩を竦めながら素っ気無くそう告げてきた。
「と、いうと?」
「トータルで十万人を越えた参加者も、昨晩でとうとう百人以下に絞られたわ。それで、勝手ながら今後はマッチング時間を大幅に狭めさせてもらうことにしたの」
「んじゃ、いよいよ……」
「ま、遅くともあと数日のうちには優勝者が決まるでしょうね?それがアンタかは知らないけど」
「……そっか。まぁ、来週はもう学校だから丁度いいかな?」
 あと、珍しく一言余計に付け加えてくる辺り、やっぱりちょっと怒っているのかもしれない。
「それと、贈り物が届いてるわよ?ほら、あそこ……」
「ん……?」
 ともあれ、それからエルに机の方を指し示されて見てみると、一通の手紙と一枚の半透明の羽根が置かれていて、封筒にはわたしへの宛名が記されていた。
「え?これって、おねぇちゃんから……?」
 裏返すと差出人に天衣優奈の名前が書かれているし、そもそも筆跡がお姉ちゃんのものだから間違いはないけど、でもいつの間に……?
「昨晩に使いの者が来て、置いといてってさ」
「……あー、それじゃやっぱりバレバレ?」
 もう、今さら誤魔化す気もないけど。
「さーね?いいからとっとと確認してみなさいな」
「へーい……」
 とにもかくにも、エルに促されるがまま開封してみると、中には天使のイラストが入った可愛らしい便箋に、『次はエデンの先で待っています』の短い言葉だけがしたためられていた。
「……なにこれ?」
「然るべき場所で待ってるから最後まで勝ち上がって来なさいってコトでしょ?ったく、肩入れ禁止だってのにあの駄天使は……」
「待ってるんだ、お姉ちゃんが……」
 大丈夫……わたしは必ず、そこまでたどり着くから。

■1/2 PM9時30分 天使養成施設(エンジェリウム)練成場

「……やぁぁぁぁぁ……ッッ!」
「……いきますです……っっ!」
 やがて、決意を新たに挑んだ新年最初のバトルの中盤戦、おねぇちゃんも以前に通っていたらしい天界の天使学校の上空で背中に六枚の翼を生やした二人が武器を構えたまま、雲を纏って疾風の如く交叉しようとしていた。
 こちらの手持ちは一つに合わせたY&Iに対して、わたしよりもやや年下っぽくて同じツインテをなびかせる女の子が両手で構えているのは、口径の大きなショットガン系。
 ブキの射程は短いものの、大鷲の様に無駄がなくて美しい飛行能力を持ち、隙あらば射程圏まで一気に接近して一撃で仕留めるヒットアンドアウェイ戦法を得意とする狩人に、速度で劣る自分が逃げ回るよりも真っ向から受けて立った方が勝算が高そうと判断したわたしは敢えて受けて立つと、示し合わせる様に互いの間合いへと飛び込んでいき……。
(勝負……っ!)

 ガウンッッ

「……うぐ……っ?!」
 やがて、一発の銃声の直後にすれ違うと、すぐに翼を翻した宙返りで向き直るわたしに対して、構えたまま眉間を撃ち抜かれた相手は、自動で羽ばたき続ける翼に釣られる様にして空中で動きを止めていた。
 ……つまり、こちらの勝ちである。
「よっし……ゴメンね……?」
 見た感じ、まだ中学生くらいの可愛い女の子だし、この場へ辿り着くまでにどれだけの激戦を制してきたかも分かるけれど、情けは禁物。
 別に、自分だけが特別だなんて思っちゃいないけど、決して譲れないモノを背負っているから。
<へー、大したモンね?あれだけの神速移動から一発でキメて見せるなんて>
 ともあれ、さっそく仕留めた相手の翼の付け根へ右手を触れて吸収し始めたところで、エルからのお褒めの言葉が響いてくる。
「そりゃ、姿勢の制御も含めて飛ぶ方は殆ど勝手にやってもらってるんだから、そっちで負けてたら話にならないでしょ?」
 飛ぶ方に集中力を注ぎ込むかわりに、攻撃は範囲の広い散弾銃で大雑把という相手に対して、無反動無重力な銃を使って動き回る的に当てるのをゲームで散々やってきているわたしはエイムの方に賭けるスタイルだけに、あそこで外すようなら所詮はそこまでって感じで。
 ……ただ、相手と同時のタイミングなら、こっちは相打ちに持ち込むのが精々になってしまうので、間合いを見極めて先に撃てるかが勝負だったんだけど、引き金を絞る指がいいタイミングで反応してくれたみたいだった。
「……ふーっ……」
 ともあれ、これで開始十分そこそこで三人めと、なかなか悪くないペースである。
<そ?どうやら、上級天使の翼も問題なく使いこなせてるみたいで安心したわ>
「まぁ、また烏ちゃんに鍛えられちゃったし……」
 ある意味、烏ちゃん道場とでもいうのか、苛烈な戦いほど凌げれば大きな経験値である。
<ホント、短い期間で見違えるほどバケたわねー、アンタ?>
「ありがと……。毒舌のエルからそう言ってもらえるなら、自信にはなるかな?」
 それと、昼間にお母さんから聞いた話がヒントで、この聖魔銃に秘められていた特性に気付けたお陰もあって、中級に上がった初戦と比べれば今回はここまで結構楽に戦えてるし、何となくこのままイケそうな気もしているんだけど。
<ただ、自信は結構だけど、油断だけはすんじゃないわよ?>
「言われるまでもないって……。もう、頂点に近い人たちしかいないんでしょ?」
 生憎、最初の戦いから今まで出し惜しみもなければ、舐めプした覚えもないですし。

「……あーところでさ、セラフィム・クエストって元々は天使登用試験ってホントなの?」
 それから、次の相手を探してこの場を離れ始めたところで、ふと昨日の烏ちゃんの言葉を思い出して水を向けてみるわたし。
<そーよ?見下ろした先に学舎っぽい施設が見えるでしょ?あそこで厳しい訓練を受けた候補生達が年に一度、正規天使への登用を賭けてガチンコで勝ち抜き勝負すんの>
「生身じゃなくて?」
<生身でやったら、せっかくの逸材同士でツブし合いになっちゃうでしょ?だからって互いに傷つかない範囲じゃ全力も出しにくいから、こーいう魂を擬人化させた仮想空間でヤるのが都合いいのよ>
「ふーん……。それでやっぱり、優勝しないと天使にはなれないの?」
<そこまでキビしかねーわよ……。一応、予選さえ突破すれば合格扱いで任命は受けられるけど、ただ最高位の“熾天使”を示すセラフィム・クエストの名の通り、勝ち残った順位で最底辺の下級第三位から頂点である上級第一位までの与えられる翼の階級が決まるから、最後の最後まで一切気が抜けないのは間違いないわね>
「いきなり一生が決まってしまいかねないじゃないのよ、それって……でも、それじゃわたしが天使候補生なら、もう結構いいトコロにつけてる?」
<そーねぇ……。まだ、あの駄天使と同格とまではいかなくても、いきなり上級天使くらいは狙える位置かしらん?>
「おねぇちゃんと同格とまではいかなくても、か……」
 まぁ、姉と比較されるなら、それ以上は何も言えないとしても……。
「……ね、優奈お姉ちゃんが天使になった後のコトはよく知らないんだけど、そんなに凄かったの?」
<ええ、元々大きな期待を込められてのスカウトだったけど、アイツの才能は想像以上だったわ。滅んだ肉体の代わりに新しい器を与えられた後で、他の候補生と同じくエンジェリウムに入学させてセラフィム・クエストにも参加させてみたけど、アンタと同じく勝ち抜くたびにチカラを付けていって、最後は他を全く寄せ付けない圧倒的な強さを示して優勝してしまったもの>
「へー……さすがはおねぇちゃん……というべきなのかな?」
 ……というか、それがお母さんの言ってた“聖魔”のチカラによるものってコトなんだろうか?
<結局、熾天使(セラフィム)の領域どころか、天使軍の頂点に立つ七大天使にも引けをとらないチカラを見せたあのコは特別な翼を与えられ、今や唯一神の片腕として別格な存在となってるわよ?>
「……すご……」
 言われた説明を全て理解出来たわけじゃないとしても、ただ神様の片腕というのだから、それはそれで素直に感嘆する反面、何だか随分と遠い存在になってしまったような……。
<ま、そしてそれが今回の始まりになったとも言えるんだけど……>
「っていうかさ、そのセラフィム・クエストをこの街でやってる理由って何なの?いい加減に教えてくれたって……」
<はい、お喋りはここまで。すぐ先にとびきりヤバい相手がいるから、気を引き締めなさい?>
 しかし、そこから一番聞きたかった核心へ入ろうとした途中で、エルから警告が入って強制的に打ち切られてしまった。
「もう、すぐはぐらかす……って、え……?!」
 そこで、またも肝心な部分に触れられずに抗議しようとしたものの、程なくして大きな銃声が鳴り響いた直後に視界へ入ってきた光景を見て、思わず絶句してしまうわたし。
 ここまで勝ち抜いてきた証でもある六枚の翼を纏った、実年齢の割に若々しい中年女性が、手に持った長い砲身の水平二連装銃で、同じ上級天使の男性を撃ち抜いて翼を奪っているんだけど、その女の人というのが……。
「お、お母さん?!」
 ついさっき一緒に晩御飯を食べた時と比べて余所行き向けのおめかしはしているとしても、自分の親を見間違えるはずもない。
「……あら、愛奈ちゃんじゃない?」
 そして、わたしが思わず大きな声で呼びかけると、倒した敵の背中へ手を当てていた相手もこちらに気づいて、まるで街中でひょっこり顔を合わせた時のような声で短く返してきた。
「……うっわ、お母さんもやってたんだ?」
 オンラインゲームって、主婦のプレーヤー層も案外に多いものなんだけど、まさかこんな場所で母親と遭遇するなんて……。
「ええ、そうよ?私もお誘いを受けたからちょっと乗ってみたんだけど、なにか問題でも?」
「い、いや、そんなコトはないけど……」
 でもまさか、こんなトコロで親子が対峙する羽目になるとは……。
「ま、昨日優奈と会っていたってコトは、愛奈ちゃんもまだ勝ち残っている証拠だし、そろそろ鉢合わせするかもとは思っていたんだけど」
「なるほど……。だから、あのタイミングでご先祖のハナシをしてきたのね……」
 それでも、わたしの方は全くの想定外というか、確かにこの街の全住人にエンジェル・タグが配られたという話だから、うちの親だって対象の一人には違いないんだろうけれど、まさか参加していた上に、ここまで勝ち進んできているなんて。
「ともかく、ここで見(まみ)えた以上は、もはや多くを言葉にする必要は無いでしょう?あとはコレで語るだけ」
 いずれにしても、何だか冷や水を浴びせられた気分のわたしに対して、翼の吸収を済ませたお母さんは、今度はこちらへ白と黒色の銃身が合わさった二連装ライフル銃を見せつけてきた。
「……あの二色って、もしかして……」
<そ、アンタのと同じ聖魔銃よ。特性の違いは、まぁ見りゃー分かるわね?>
「う、うん……でも……」
 間違いなく、色んなイミで今までで一番やりにくい相手なのは間違いなかった。
「いい?これは親子喧嘩でも骨肉の争いでもない、ただのゲームだから」
「だから、遠慮は一切無用って?」
「ええ。……さ、いくわよ!」
 そして、母上はわたしを気遣った前置きの後で戦闘開始を宣言するや、こちらへ向けていたライフルを撃ち放つと、白と黒の混じった大砲みたいな大きな一撃が襲ってくる。
「……く……っ!」
<ま、ここまで来たら、誰が相手だろーが越えて行くしかないって。それともここで諦める?>
「んなワケ、ないでしょ……っ!」
 とにもかくにも、エルの言う通り、立ち塞がるなら倒すしかない。
 わたしは横方向へ連続ロールしつつ避けた後で、敢えて下がらずに前方へ飛び出すと、相手の足元へ向けて急下降しながら、びっくり砲へ持ち替えていき……。
「お返し……っ!」
 狙い通り、射撃で一番難しいと言われる、高速で落ちていく相手(わたし)を撃ち落せなかった母さんを逆に素早くロックオンすると、既にお馴染みの羽付きホーミング弾二発で反撃してやる。
<アンタ、それ好きよねぇ?>
「……だって、やり易いし……っ!」
 どう見たって正面から撃ち合って勝ち目はなさそうだから、こっちはこっちの特性を生かして戦うしかない。

 ドン……ドントドンッッ

 ……ってコトで、すぐに案の定というか、当たり前のようにライフルで撃ち落とされはしたものの、こちらの狙いはここから。
 わたしはホーミング弾を放った後ですぐにY&Iへ持ち替え一つに合わせると、迂回して上方向から襲ってきた二発目を撃ち落して相手の視線が一瞬逸れた隙を狙い、一気に連射していった。
「…………っ」
 すると、一発目が命中して倒したとまではいかないものの、一瞬だけ仰け反りつつすぐに身を翻して逃げに転じるお母さんの背中へ向けて、今度こそ当てるつもりの誘導弾を放つ。
 背後から二発で狙われたら、いくらなんでも避けきれるもんじゃないだろうし、よしんば逃げ回りつつ撃ち落せたとしても、今度こそこっちの切り札の餌食である。
<しっかし、相変わらずバトルになったら、誰が相手でもえっぐい攻撃するわよねぇ?>
「エグいゆーなっっ」
 こっちは負けられない勝負に必死なだけだっつーの。
「……ん……?!」
 しかし、それから挟み撃ちで襲いかかった二発の誘導弾は、母さんの背中近くまで迫った辺りで突如爆発してしまい……。
<防いで!>
「っ?!な、なに……っ?!」
 直後に響いたエルからの鋭い指示に反応して、慌てて精霊砲から地属性の障壁弾を発射すると、すぐ目の前に放たれた半透明の壁に、何かがべしゃりと張り付いた。
「へ……?」
 それを見て、最初はペイント弾でも破裂したのかと思いきや、よく確認してみると翼を生やした天使の形をしているのに気付くわたし。
<バカ!避けなさい!>
「……うお……っ!」
 更に、続けて天使の真後ろから迫ってきた砲撃に身を翻すと、母上からのライフル型聖魔銃の反撃が、障壁を貫通してわたしの翼を掠めていった。
(な、なに、今の……?)
 一つに合わせた聖魔銃より放たれる“聖魔弾”は、どうもあらゆる防御を無効にしてしまう特性持ちみたいなので、同種の母さんのライフルがこっちのシールドを貫いたのは不思議じゃないとしても、問題は背後からの誘導弾を撃ち落して更に反撃までしてきた、あの謎の攻撃。
「……ふふ、なかなかやるじゃない?早速、“コレ”を使わされるとはね」
 ともあれ、それから急いで態勢を立て直して向き直ると、母上は悠然と笑みを浮かべつつ、三体のミニチュア天使の形をした何かを周囲へ侍らせて見せてくる。
「なに、あれ……?」
<遠隔操作武器のエンジェル・ビットだけど、あんなキワモノ使いがこんなトコロまで……>
「キワモノ……?けど……」
 わたしの想像が当たってたら、アレはキワモノなんかじゃなくて……。
「だけど、勝負はこれから……!さぁ、避けきれるかしら?」
「く……!」
 それからすぐに、母さんはその三体のミニチュア天使達をけしかけるや、弾丸の様な速度で三方向から襲い掛かってきたのに対して、わたしは軌道を予測しつつバックステップでまとめて避けようとしたものの……。
「げ……っ?!」
 そのうち、まっすぐに体当たりしてきたのは正面の一つのみで、残り二体は左右へ回り込みつつ、手に持ったライフルを構えてきたのを見て、囲まれない様に慌てて逃げるわたし。
(……くそ……っ)
 そこから、距離を開けつつY&Iを抜いて撃ち落そうと試みるも速すぎてとても捉えられないし、なにより動きが変則でマトモに狙いをつけるヒマすら無かったりして……。
「あつっ!……やったわね……っ!」
 一応、ちっちゃい分だけ、一発や二発食らった程度なら平気みたいだけど、囲まれて集中攻撃を受ければ危険だし、そもそも破壊可能なのかすら分からないんじゃ、思い切った反攻にも出られず。
「なにあれ、ズルい……っ!」
 となれば、思わず叫びたくもなるというか、あれじゃ実質四対一だしいくらなんでも分が悪すぎる。
<……ズルいったって、アレを扱うのは死ぬほどムズいのよ?ビット自体は自律で動ける様に出来てないから、飛ばしてる数だけ脳みそいるってカンジで>
「けど、現にっ!……あ、いや……もしかして……?」
 しかし、そこからエルのツッコミを受けてハッと思いついたわたしは、強引にビット達の攻撃をかいくぐりつつ、今までは少しでも離れようとしていた相手の方へ向けて軌道修正してゆくコトに。
「うぉっと……っ!」
 すると、当然ながらお母さんの方も後退しつつライフルで迎撃してきたので、バラバラに持ったY&Iで牽制の射撃を交えながら、必死で近付こうと試みるわたし。
(あ、やっぱり……!)
 そんな中、回避動作の隙にちらっと振り返って確認してみると、周囲を取り巻くビット達はフラフラとこちらへついて来るだけで、反撃は何もしてきていないのに気付く。
<うん。それで正解よ?タブン>
 あのミニチュア達を相手にしていた時、同時に警戒していた母上本体からの攻撃が全然来なかったのが不思議だったけど、あのエンジェル・ビットを操っている間はそっちの制御に忙しくて、本人の行動は大きく制限されるみたいだった。
 ……つまり、母さんといえど、ビットとライフルは同時に扱えない。
(と、なれば……)
 やっぱり、わたしが勝機を掴むには、懐に飛び込むしかなさそうだった。
 長物だから小回りはきかないし、弾幕を張りつつ纏わりつかれれば、ビットを操るどころじゃなくなる……はず。
「…………っ」
 ……ほら、案の序、お母さんの方も引きながら距離を開けようとするものの、機動力はこちらの方が上だから、こういった形に持ち込めれば形勢逆転。
(勝てる?!……いや……)
 ……ただ、わたしの直感で何かが引っかかっているのも確かだったりする。
 ここまで勝ち抜いてきた割には、ちょっと脆すぎる様な……。
(ううんっ、迷いは禁物……!)
「…………っ!」
「……これで、終わり……っ!」
 それから、いよいよわたしは頭上から高速で飛び込むようにして母さんのすぐ眼前へと舞い降りると、至近距離から右手の銃口を眉間へ突きつけてチェックメイトを告げた。
「……なるほど、なかなかいい動きだったわよ?やはり血は争えないわね」
「えっと、さすがにゲームでも親を撃つのは気分のいいものじゃないから、素直に降参して背中を差し出してくれたら有り難いんだけど……」
 そして、この期に及んでも余裕の表情を崩さない母親へ、わたしは不気味なプレッシャーを感じつつも降伏を促すものの……。
「愚問ね。戯言を向ける暇があるのなら、さっさと撃ちなさい?……撃てるものならだけど」
「強がり……うぐ……っ?!」
 しかし、それでもまるでピンチとすら感じていない様子の上から目線にムカっときたものの、その直後にわたしの全身へ電撃を喰らった様な痺れた感覚が駆け巡ってくる。
「な……なに……え……?」
 慌てて周囲を見回してみると、いつの間にかわたしはミニチュア天使達に取り囲まれていて、それらを頂点としたトライアングル状の結界っぽいものが張り巡らされていた。
「トラップ……!」
 しまった……。
「ええ、つまりはそういうコトね?」
「く……!」
 そこで、言われた通りすぐ撃たなかった自分の甘さを後悔しつつ、わたしはまだ辛うじて指が動く間にトリガーを引いたものの、俊敏な動きであっさりと避けられてしまう。
<愛奈……っ!>
「勝負アリかしらね?……それで、やっぱりお母さんもたった一人残った愛娘を撃つのはゲームの中でも気が引けるから、そのまま大人しくしておいてくれるかしら?」
「……ううっ……な、情け無用だから……っっ」
 その後、全身に毒が回る様に力が抜けて身動きが取れなくなってゆく中で、背後に回ってきた母上に同じセリフを繰り返されて屈辱を感じつつも、精一杯強がってみせるわたし。
「ここまでよく頑張ったわね、愛奈?……けど、そろそろ潮時にすべきだわ」
 そして、お母さんはそう告げた後で、わたしの背中へと手を伸ばしてくると、力が吸い取られるような感触が背筋から伝わってくる。
「そんな……!なにか手は……っっ」
<ええい、根性よ根性っ!>
(根性て……)
 要は、万策尽きてるってコトですね、分かります。
<……ほら、ここで負ければ愛しのおねぇちゃんとはもう二度と会えなくなるけど、アンタの執念なんて所詮はその程度のモノだったの?だとしたらガッカリだわね>
(ったく、好き勝手言ってくれちゃって……)
 でも……確かにこのまま終わってしまうわけには……。
 だって……。
『次はエデンの先で待っています』
「……ぐ……っ!」
 そこで執念という言葉に呼応して、戦いの前におねぇちゃんが残してくれたメッセージを頭に思い浮かべた途端、わたしの全身に力がみなぎってくる。
(……そうだ、今度こそおねぇちゃんとの約束を守らないと……!)
 少なくとも、「潔く」なんて言葉はドブにでも投げ捨ててる身なんだから……。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
「…………っ?!」
(お願い、この一発だけでも……っ)
 それから、わたしは最後の悪あがきの覚悟で気合一閃の叫びで力を込めると、前方で祈るようなポーズを見せているミニチュア天使の一体へ銃口を向け、振り絞る様に引き金に触れた指へ全力を込めた。

 ドウンッッ

「……うぉ……っ?!」
 果たして、文字通りの火事場の馬鹿力でビットを撃ち抜いた途端、一瞬で身体が軽くなった感覚と共に、わたしの身体は跳ね出されるようにして前方へ舞い上がってゆく。
「……ッ?!そんな……!」
(やった……?!)
 同時に、背中からゴリゴリと吸い取られていたチカラもすぐに逆流するように戻り始めてきたし、どうやらギリギリ間に合ったみたいである。
<うわ、ホントに根性でなんとかしやがった?!>
「愛のチカラよ、愛のっっ!」
 おねぇちゃん、見てくれてたー?ってなもんである。
<愛、ねぇ……>
「……まーでも、ぶっちゃけ助かったのも親子愛かもしれないけど……」
 もし、お母さんの方も抵抗力を失ったわたしを撃つのに躊躇いを感じていなければ、あの後ですぐにトドメを刺されていたんだろうし。
「…………」
 ちなみにその母上の方は、すぐに追いかけてはこないで呆然とした様子でこちらを見ているけど。
<……けどま、流石はアイツの親というか、やり口を見てれば誰かさんと比べてスマートに勝ち上がって来てるみたいね?>
「うっさいなぁ……不器用で悪かったわねーえ……」
 でもまぁ、確かにエルの言う通り、おそらく母さんはああやって相手の動きを封じつつ、防御不能の聖魔ライフルで片っ端から効率よくトドメを刺してきたんだろう。
 ……この、わたし以外は。
「……やれやれ、遠慮は無用と前置きしながら、結局は互いに甘さが出ちゃったかしら?」
 すると、それからお母さんは態勢を立て直しつつ向き直ったわたしへ、ライフルを肩に担いだ手で頭をかきながら、独り言のようにぼやいた後で……。
「ならば、ここから本当の勝負をしましょうか?今度こそ、親子も遠慮も恨みっこもナシでね」
 この戦いで初めて、明確な殺気を込めた戦士の視線をわたしへ向けてそう告げてきた。
「う、うん……分かった……!」
 もちろん、わたしにとっても超えていかなきゃならない試練なら、受けて立つしかない。
「……それじゃファイナルラウンド、行くわよ!」
「オーケー……っ!」
 そして、応えたこちらが背中の精霊砲を両手に構えたのを皮切りにして決着の一戦が始まり、互いに相手を倒し切る為に攻勢をかける、激しい銃撃戦を繰り広げてゆくわたし達。
「ほら、もっと攻めてきなさい愛奈?あなたのチカラはそんなモノじゃないでしょ?!」
「言われずとも……ッ!」
 こちらがびっくり砲の多彩な攻撃を交えてフェイントをかけつつ、Y&Iの距離まで近づこうとすると、お母さんの方はライフルとエンジェル・ビットの二つの攻撃モードを巧みに使い分けて、寄せ付けまいと迎撃してくる一進一退の攻防。
<あんま時間は残ってないから、とっとと片付けなさいよ?>
「カンタンに言うなっつーの!」
 一応、相手の手の内も分かってきた分、最初と比べれば戦い易くはなってきているものの、だからといって烏ちゃんに匹敵する手強い相手に違いはないワケで。
「……ふふ、ようやく吹っ切れたみたいね?それでこそ自慢の娘だわ」
「母さんこそ……っ!」
 正直、最初に遭遇した時には全く想像できなかった強さというか、生半可な覚悟で参加しているんじゃないのも伝わってくるし。
「……けど、母さんはもし優勝したら、どんな願いを叶えてもらうつもりなのよ?!」
「さて、最初は宝くじでも当てて、家族で海外旅行に行こうかしらと考えてたけど……今は成仏させてもらえない可哀想な娘の魂を解放させる為かしらね?」
 ただ、それ故に理由が気になったわたしが攻撃の手を緩めない中で問いかけると、お母さんも応戦する動きを止めないままで淡々と回答を返してくる。
「……え……?」
(お姉ちゃんの魂を、解放……?)
 しかも、かわいそうって……。
「だって今の優奈は、私の優奈なんかじゃないから」
「お母さん……」
「……だから、返してもらうの。たとえ相手が神だろうとね!」
 そして、言葉の後で再び視線にギラリと鋭い殺気が宿ると、三体のビットがそれぞれ激しい弾幕を浴びせつつ同時に襲いかかってきた。
「……う……っ!」
<へぇ、言うじゃない?さすが、反逆者(リベリオン)の血筋はダテじゃないってトコかしらん>
「褒めてる場合……っ?!」
 お母さんの方は更にスイッチが入っちゃったみたいで、ミニチュア天使達の動きが発狂モードの様に苛烈になり、こちとら避けるのに精一杯でじわじわ追い込まれてるというのに……っ。
<まーこうなったら、アレに賭けるしかないんじゃない?>
「アレって……こいつか……く……っ」
 今わたしが握っていて、おそらく相手のライフルにも込められているだろうキリフダ。
 当てられれば一発逆転でも、外せば文字通りに万事休すだけど……悩んでるヒマは無いか。
「……それで、愛奈ちゃんの願いの方はどうなの?」
「わ、わたしはっ、お姉ちゃんとまた暮らせればいいかなって思ってるから……!」
 そこで、逆に水を向けられた問いかけに答えつつ、合わせたY&Iの引き金をぐっと絞って溜めに入ってゆくわたし。
「そう……」
 すると、それを見たお母さんの方もライフルを構えて、銃口の先から同じく聖と魔のチカラの塊を膨らませ始めてくる。
 ……どうやら、娘からの真っ向勝負に応えてくれるつもりらしい。
<聖魔同士のチカラのぶつかり合い、ね……>
「参考までに聞くけど、どうなるの……?」
<しらん。前例無いし>
「ちょっ……?!」
 でも、ここまで来たら後に引けないのは、言うまでもないとして……。
「……成る程、それが愛奈ちゃんの本心なんだ?」
「どんなカタチでもいい。あの魂は確かにわたしのっ、優奈お姉ちゃんだから……!」
「…………」
「……だから、わたしはその為に立ち塞がるすべてを超えてゆく……っ!」
 やがて、ターゲットを正面に捉えたわたしが、渾身の力を注ぐ気持ちを込めて溜めた引き金を離すと、大きな二色の奔流が相手へ向けて襲いかかり、また同じくお母さんのライフルからも、同質のチカラがそれを迎え撃とうと放たれた。
「…………っ」
「…………っっ」
 程なくして、同じ性質のチカラは正面からぶつかり合って大きな閃光を発しながら、今度は強烈に押し戻される流れがわたしを襲ってくる。
「ぐ……ぅ……っ!」
 それは、ほんの少しでも気を抜いたら、逆に飲み込まれてしまいそうな程の強大な圧力。
(けど……!)
<どーやらチカラ比べみたいね、ふんばんなさい!>
「…………っ」
「うぁ……っ、わっ、わたしは……こんなトコロでなんてゼッタイに……」
 そこでわたしは、Y&I(おねぇちゃんとわたし)を構えた態勢のまま大きく息を吸って……。
「負けないんだからぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッッ!!」
 叫びと共に吐き出すと、それが後押しとなって奔流は一気に押し返されていき……。
「…………ッッ?!」
「…………!!」
「…………っ」
「…………」
「……」
「……お母さん……っ?!」
 やがて、すっかりと閃光も流れも収まった後、対峙していたお母さんは見るも無残なボロボロの姿になって倒れていた。
「…………っ」
<……アンタの勝ちよ、愛奈?……宣誓通り、乗り越えていきなさい>
 そこで思わず、翼の回収も忘れて呆然と立ち尽くしてしまったわたしへ、エルから促す声が静かに響いてくる。
「…………」
<今さら、ツラいとか可哀想はナシ。……どうせ、次に目覚めたら全て忘れてるはずだから>
「うん……」
 正直いって、勝利の後味は今までになく最悪だけど……でも、これがわたしの選んだ道。
(ゴメンね、おかあさん……)
 ……約束どおり、次のステージへ飛ぶための翼、もらっていくね?

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