れるお姫様とエトランジェ Phase-6.5 その2


Phase-6.5:『雨上がりの翌日』

6.5-5:白薔薇の君。

「んふっ、いよいよ7月だね〜、みゆちゃん♪」
「……まぁそうだけど、朝からテンション高いわねぇ。ふぁぁぁ……っ」
 やがて、柚奈との関係が一段落してから最初の月が替わり、ポカポカとした夏場の陽気に誘われる様に両手を伸ばしながら軽い足取りで通学路を進む上機嫌なお嬢様へ、欠伸をかみ殺しながらの控えめなノリで相槌をうってやるわたし。
 ……というか、自分にとっては「いよいよ」というより、「もう」7月かって感じだけど。
「でもでも〜。何だかこの時期って、ワクワクしてこない?」
「ん〜……。まぁ、去年までなら分かるんだけどねぇ」
 勿論、その前に最大の試練が立ちはだかってはいるものの、同時に長期の休みを間近に控えた高揚感は、それこそ夏休みは何をしようとか考え始めると、試験勉強が手に付かなくなる事だって珍しくもない位に格別なものなのは、今更言われるまでもない事だった。
 けれど……。
「え〜?去年も今年も、同じく夏休みはやってくるじゃない?」
「……ホントに暢気なんだから、この学年トップの優等生様は。生憎、今年は同学年で浮かれてるコなんて殆どいないわよ」
 なにぶん、今年のわたし達は「受験生」というステータスを背負っているわけで。
「だからって、実際の入試ってまだ何ヶ月も先なんだし、あまり早くから気を張りすぎてもバテちゃわないかなぁ?」
「いやまぁ、それも分かるんだけどね……」
 確かに、受験なんてマラソンの様なものだろうから、柚奈の言い分が正論なんだろう。
「だから、少し位はハメを外しちゃおうよ?みゆちゃんには私が付いてるんだし♪」
「う、うん……」
 ただそれでも、今は遊んでいてもどこか後ろ髪を引かれる気分だったり、勉強嫌いのわたしでさえ電車の中では英単語帳の一つも広げていないと
落ち着かないのも確かだった。
 ……おそらく、柚奈はわたしと違って日常生活の中できっちりと切り替えられるんだろうけど。
「それに、電車の中でまで根詰めなくったって、ちゃんと私がスケジュール計算してるんだよ?」
「まぁ、それは信頼してるんだけど……」
「…………」
 それから、とある事をふと思い出して言葉を止めるわたし。
(……あ、そうだ。電車の中と言えば……)
「ん……?」
「今思い出したけどさ、柚奈も今日は電車の中で何か読んでたわよね?」
 多分、参考書とかの類じゃないんだろうけど、どっちにしても普段なら何かを読んでるわたしの横顔をじっと眺め続けて時間を潰している柚奈だけに、
結構珍しいコトではあったりして。
「うん♪昨日の帰りに面白そうな本を買っちゃったから〜」
 すると、わたしの指摘に柚奈は嬉しそうに頷くと、ブックカバーがかけられた書籍を差し出してくる。
「ほほう、どれどれ……」
 そして、受け取った本の最初の見開きに書かれていた文字は……。
「IPS細胞……。あはは、やっぱり食いついてたか」
 医療に革命をもたらすだけじゃなくて、同性同士でも子供が作れるかもしれないっていうアレ。
「凄い時代だよね〜。もしかしたら将来、私とみゆちゃんの間に子供が授かったりして♪」
「……そんな、また気の早すぎる話を……」
 というか、まだまだおとぎ話の世界ってイメージもあるんだけど、実際の所はどうなんだろう?
「うふふふふ、私とみゆちゃんだと、一体どんな素敵な赤ちゃんが生まれてくるんだろうね〜?」
 しかし、ヘンタイお嬢様の方はそういう疑問なんてお構いなしで、頬に手を当てながら勝手に妄想を加速させていく。
「遺伝子はどちらかが強くなっちゃうのかな〜?……だけどもし、みゆちゃんと瓜二つのの可愛らしい女の子だったら、何だかイケナイ道に走っちゃいそうで困っちゃうかも〜♪」
「……いやもう、既に前提からしてイケナイ道だと思うんだけど……」
 そんな、好き勝手に妄想しながら露骨に頬を染めて悶えられても、さすがにまだそちらの領域まではちょっと引いてしまうと言いますか……。
(……でも、逆に柚奈とそっくりの子供だったりしたら……)
「…………」
 あ、確かにちょっとヤバいかも。
「んじゃ、ちょうど半分ずつだったら、どうなるのかな?私とみゆちゃんのいいトコ取り♪」
「え〜……。正直、嫌な予感しかしないんだけど……」
 いいトコ取りどころか、マイナス合体的になりそうな。
「むぅ、みゆちゃんが悲観的……」
「だってさ、せっかくの柚奈の長所を、わたしの短所が相殺してしまう気がするのよねぇ……」
 何せ、凡庸でガサツでちんちくりんなわたしに対して、柚奈は才女で大和撫子って言葉が似合う、ほぼ完全無欠のお嬢様なんだし。
「そんなコトないよ!みゆちゃんにも私には無い、良い所は沢山あるからっっ」
 そして、何だか気持ちが沈んでしまいそうになった所で、柚奈が真剣そのものの顔で否定すると、わたしの両手を強く握ってきた。
「柚奈……」
「……だから、安心して二人の子供を作ろうね、みゆちゃん?」
「え、えっと……」
 いや、そうやって面と向かって言われても、なんと答えてやればいいのやら……。
「……やれやれ、朝っぱらから子供がどうたらとか、随分と濃い話をしてるじゃないの、お二人さん?」
 すると、そこで不意に聞き覚えのある声が割り込んできたかと思うと、ショートカットの髪をなびかせて凛々しい顔立ちをした友人が姿を見せてくる。
「茜……」
 すらっとした長身でスポーツ万能な元水泳部のエースにして、通称白薔薇の君。
 女子校の生徒の二つ名で「薔薇」というのも何だか違和感だけど、これは女子生徒の憧れを一身に集める、学園の王子様的なポジションの生徒に付けられる称号なんだそうで。
 一応、白と赤でちょっと意味が違うみたいだけど、茜はある意味、うちのお母さんの後継者と言ってもいいのかもしれない。
「あ、茜ちゃん。おはよ〜っ♪」
「おはよ、柚奈にみゆ。これからは気温が上がっていく一方だってのに、通学路でそんなイチャイチャと暑苦しい熱源を振り撒いてると、いつか苦情がくるかもよ?」
「……知らないわよ、そんなこと……」
 別に、振り撒きたくて振り撒いてるわけでもないんですけどね。
「…………」
 ただ、そうやっていつもの爽やかな笑みを見せる茜の内心は、わたし達の姿がすごく目の毒になっているのを知っているだけに、ちょっとツッコミの
トーンも落ちてしまったりして。
「はいはい、そこで黙り込まないの、みゆ?……それより、途中からしか見てないけど一体どこから子供の話になったのよ?」
「ああ、それは柚奈がこんな本を読んでたんで……あれ?」
 しかし、ここでさっきまで自分の手に持っていた本が無くなっているのに気付くわたし。
「あ〜、みゆちゃん落としてる〜っ」
「ええい、柚奈がいきなり手を強く握るからでしょーがっっ」
 どうやら、子供がどうたらのやりとりをしている間に落としてしまったらしく、気付けば茜の足元付近の道路へ転がってしまっていた。
「はいはい、ごちそうさま……。ああ、最近テレビとかで良く聞く様になったわよね、これ?」
 そして、わたしの代わりに本を拾い上げた後で、パラパラと捲りながら苦笑いを見せる茜。
「そうなの♪一応私は、去年くらいから注目はしてたんだけどね〜」
「去年て……」
 つまり、わたしにひと目惚れした後ってコトですか。
「……なるほど。これで将来は心置きなく柚奈と結婚して幸せな家庭を築けそうじゃないの、みゆ?」
「んふふふふ〜♪ありがとー茜ちゃん♪」
「どっちみち、日本じゃ無理だけどね……」
 というか、わたし的には柚奈と気持ちが繋がってる日常だけで充分幸せとは思うんだけど。
「……でも、問題は間に合うか、なのよねぇ……」
 しかしその一方で、柚奈の方は腕組みをしながら、何やら難しい顔を見せていたりして。
 ……もしかして、今までの話も100%本気で言っていたのだろうか?
「んじゃいっそのコト、柚奈がそっち方面の大学に進んで研究者にでもなってみれば?」
「…………」
 それから、茜が気軽に持ちかけた提案を受けて、柚奈はそのまま宙を仰ぎながら黙り込んでしまった。
(あ、割と真面目に悩んでる……)
 普通なら、もう完全に手遅れの時期のはずだけど、何となく柚奈ならやろうと思った事は何でも実現してしまいそうでもあるから怖い。
「……おりょ、もしかして焚き付けちゃった、あたし?」
「いやまぁ、柚奈の事だから、遅かれ早かれ考えが向いてたんじゃない?」
 それこそ、下手したら桜庭グループを巻き込んでしまう話にまで発展したりして。
「まさか、これが後に『その時歴史が動いた』なんて評される瞬間に……?」
「さすがに、そこまではどうしかしらね?……まぁどっちにしても、遥か先を見据える余裕のある柚奈と違って、わたし達の方は進学よりもまずは期末試験の心配をしなきゃならない身分だし……」
 悪いけど、それまでは一人で好きなだけ悩んでいて下さいって感じだった。
「だけど、柚奈も割と近い将来の心配が迫ってるんじゃないの?」
 ……しかし、そんなわたしの自虐たっぷりの台詞に対して、何やら意味深な言葉を返してくる茜。
「へ……?」
「ほら、来週からプール開きだし……」
「……あ……」
 そして、わたしが短く声をあげたのと同じタイミングで、考え事に耽っていた柚奈もぴくりと肩を震わせる反応を見せた。
「えっと……。やっぱ、三年生でも水泳の授業ってあるの?」
「当たり前でしょ?ちゃんと体育の単位もかかってるわよ?」
「うぐ……っ」
 一応、去年は茜の特別訓練のお陰で何とか切り抜けたけど、9月にシーズンが終わった後は全く泳いでいないのだから、すっかりと身体が鈍りきった所で再び大ピンチって事になるのか……。
 ……さっきの反応を見る限り、あちらの運動オンチのお嬢様も同じだろう。
「んで、どうするの?一応あたしの方は、次の土曜日の午後からなら空けてあげてるけど?」
「あは、茜ちゃん大好き〜♪」
 それから、口ぶりは素っ気無くも有り難い申し出を向けてくれる茜に、天使の様な笑みを見せながら抱きついていく柚奈。
「はいはい……。んじゃ今年もやるのね」
「えっと、わ、わたしも大好き〜♪」
「……分かってるって。今更みゆだけ見捨てるワケないでしょ?」
 続けて、わたしも精一杯の笑みを作って柚奈のマネをすると、茜は苦笑いを見せながら頷いてくれた。
「いや、助かります……」
 ホント言えば、ちょっとだけ心苦しいんだけどね。
 ……何せ、わたしは茜には恨まれても仕方が無い立場なのだから。
「いいって。友達でしょ?」
「うん……」
 そこで思わず、「友達と言ってくれてありがとう」と口にしかけた所で、わたしは胸に手を当ててその言葉を飲み込み、代わりに小さく頷き返した。
 ……柚奈とは意味が違うにしても、わたしと茜の仲だって、そんな他人行儀じゃないはずだから。

6.5-6:一つの区切り。

「……ん〜っ、約1年ぶりの一足早いプール開きね」
 そしてやってきた土曜日の午後、食堂で昼食を軽く済ませたわたし達は水着に着替えた後で、久方ぶりとなるプールサイドへやってきていた。
 幸いにも、天気は晴天に恵まれた絶好の水泳日和で、プールの中ではおそらくわたし達の為に空けてもらった端っこのレーンを除いて、既に水泳部員達が水飛沫をあげながら往復していく姿が目に映る。
(相変わらず、水泳部だけにガチンコだなぁ……)
 端から見てるだけで圧倒されそうというか、初めてじゃないとはいえ、この雰囲気の中でお邪魔させてもらうのはやはり気が引ける心地は感じるものの、それでも今のわたし達は茜の好意に甘えさせてもらうしか道はなかった。
「うん♪本当にいつも無理を言ってゴメンね、茜ちゃん?」
「いやいや、あたしも今月限りで一応は引退する身だから、本当はあまり無理を言えない立場だったんだけど、引き継いだ新しい主将が今年も使って貰っていいと言ってくれてね。後であの子にもお礼を言っといてくれるかしら?」
「……なるほど、了解したわ」
 まぁ、それも茜のコネあっての事なのは間違いないんだろうけど。
「でも、その前に改めて茜ちゃんに感謝だよ。ありがとー♪」
 そして、わたしが素直に頷いた後で、柚奈の方は感謝の印とばかりに両手で茜の腕へしがみ付いて満面の笑みを見せた。
「……まぁ、わたしもそれに関しては、茜に感謝するしかないんだけど……」
 ホントに、ありがとう以外の何ものでもなかった。
 ただ……。
「なに?柚奈に抱きつかれてるから妬いちゃった?」
「そうじゃなくて、どうしてわたしだけこんな水着を着せられてるのかってコトよ……っっ!」
 そこで、茜がニヤリと意地の悪い笑みを見せてきたのを受けて、今までタイミングを窺っていたツッコミを全力で入れてやるわたし。
 それぞれ、水色と赤の学校指定の競泳水着を着用している茜と柚奈に対して、今わたしの身を包んでいるのは去年も騙されて着せられた、
所謂”旧タイプ”のスクール水着だった。
「え〜。でも、よく似合ってるよみゆちゃん?思わずムラムラしちゃうくらい♪」
「ええい、慢性発情娘は黙ってなさい……っ」
 というか、ただでさえ基本的な体型で大きな差があるというのに、茜達の艶やかでスタイリッシュな水着姿と比べられると、余計に対照的で悪目立ちしている気がするんですけど。
 ……ほら、今でも練習の合間に他の部員達がこっちを眺めてるし。
「どうしてと言われても、単にあたしが見たかっただけなんだけどね。とっても可愛いわよ?」
 すると、わたしのツッコミに茜は涼しい顔でそう答えると、ジロジロと舐め回す様な視線を向けてくる。
「な……っ?!それだけ……?」
「何か問題でも?」
「……いえ……」
 しかし、そこで茜に居直られたら、わたしは引き下がるしかなかったりして。
 ……まぁ、当日に手渡されて素直に着る方も着る方だけど、やっぱりタダじゃ済まなかったか。
「というか、去年に見せてもらったみゆの旧スク水姿に思わず惚れちゃったんだけど、さすがに授業じゃ着てくれないだろうから、こういう時しか機会が
無いかなって」
「あは、茜ちゃんGJ〜♪」
「ぐっじょぶ、じゃないわよ……もう……」
 そんなコトの為に、わざわざ新しい水着を用意してきてるんだから、呆れるというかなんていうか……。
 やっぱり、改めてこの二人は同じ穴のムジナだと言わざるをえなかった。
「それに、せっかくみゆも参加させるんだから、そっちの方があのコも喜ぶだろうしね」
「あのコ……?」
「ほら、覚えてない?去年にみゆの……」
「お久しぶりですー♪よく着て……もとい、来て下さいました姫宮先輩♪」
 そこで、茜が言い終わらないうちに、メガネをかけた藍色の競泳水着姿の女の子が突然に目の前へ現れたかと思うと、嬉しそうに声を弾ませながら
わたしの手を取る。
「あっ、あっ、あなたは確か……っ」
 去年の訓練時にいきなり乱入してきては、頼んでもいない旧タイプスクール水着の解説を熱く語っていた、茜いわくスク水フェチの水泳部員。
 確か、練習そっちのけでわたしを眺め続けていた気もするけど、このおさげ頭で丸メガネが特徴の、どっちかといえばスポーツ選手というよりオタク少女っぽいこの顔つき……ハッキリと思い出した。
「はい♪それにしても、相変わらずの完璧な着こなしっぷり……。本当に姫宮先輩って、旧タイプの妖精って感じですねー」
「こらこら、勝手に妙な仇名を付けないでよ……」
 正直、全然褒められてる気もしないし。
「でも、今時そこまで旧タイプが似合う人って少ないんですよー。まぁ、着たいと思う人自体が殆どいなくなってしまったというのが実情ですけど」
「まぁ、そらそーでしょうね……」
 わたしだって、別に着たくて着てるわけでもないし。
「精々、雑誌とかでグラビアモデルがって位ですけど、あれって全然分かってないと思うんです!スタイル自慢の人が旧タイプを着たって、まるで粗悪な
メイドカフェの偽メイドの様なコレジャナイ感が……」
「え、えっと……」
 また早速、頼んでもいないのにわたしの手を握ったまま熱く語ってるし……。
 どうやら、スク水熱は拗らせこそすれ、治まってはいないらしい。
「だから、真に旧タイプを纏うに相応しい姫宮先輩と再びお会いできて、光栄の至極です!」
「は、はぁ……。そら、どーも……」
 ……というかさ、このコも体型はわたしに近いんだから、自分で着ればいいんじゃないのって気もするけど、やっぱり口に出して言うのは失礼になりますかね。
 まぁ、タイムを競う競技者として選べないって理由もあるのかもしれないけど。
「あはっ、相変わらずみゆちゃんモテモテだねぇ♪」
「……知らないわよ、そんなコト……」
 それでも、ヤキモチ丸出しで割って入ってこないのは、去年とは立場が違う余裕の表れって所かな?
「ほら、言ったでしょ葵?みゆは馬鹿正直なくらいに律儀だから、借しを作れば必ず応じてくれるって」
「ええ、流石は茜先輩。カンペキな計画ですー♪」
「……悪かったわね、馬鹿正直で。というか、結局あなたは……」
「だから、このコがさっき話した、あたしの後釜」
 ともあれ、いい加減に「結局、このコは何なの?」と訊ねたくなった所で、茜の方から素っ気無い口調で聞きたかった答えが返ってくる。
「茜の後釜?ってコトは……?」
 まさか、このコが……。
「あ、これは失礼しました!申し送れましたが、私はこのたび茜先輩より水泳部の主将を引き継がせていただく事になりました、露草 葵(つゆくさ あおい)と申します♪」
 そして、わたしが慌てて視線を茜から目の前へ戻した所で、件のスク水フェチの水泳部員は元気良く名乗りをあげた後にこちらへ深々と一礼してきた。
「んなっ、主将……っ?!」
 つまり、当代キャプテン様という事になるんだけど……。
「葵はこう見えて、部内ではトップクラスの腕前でね。一番得意な平泳ぎなら、あたしより上かもって感じ」
「えええええ……」
 ……前から薄々思っていたけど、やっぱり才覚に恵まれた子ってのは、すべからくヘンタイさんの因子を持ち合わせているものなのかしらん。
「とにかく、そんなワケで今年もプールを使っていいと配慮してくれたのはこのコだから」
「改めまして、よろしくお願いしますね、姫宮先輩に、桜庭先輩!……あと、出来れば私の事も名前で呼んでいただければ嬉しいです♪」
「はぁ、なるほどね……。とりあえず、お礼は言っておくわ」
 ……つまり、わたしのスク水姿がまた見たかったからってのもあると。
 また、この期に及んで変態キャラの知り合いが増えるとは……。
「こちらこそ、ありがとね葵ちゃん♪」
「いえいえ、こんなチャンスは滅多に無い……もとい、茜先輩の為でもありますから♪」
「茜の?」
「……そうね、柚奈達への特別水泳教室もこれで最後だから」
 それから、葵ちゃんから本音が半分漏れながらも水を向けられた所で、肩を竦めながらどこか寂しそうな笑みを見せる茜。
「茜ちゃん……」
 そういえば、茜が心を閉ざしていた柚奈と仲良くなれたきっかけが、この水泳教室だっけ。
 入学した時からずっと柚奈に片思いしていた茜にとっては、これが大きなチャンスだったし、思い起こせばこの時が一番幸せな時間だったとも言ってた。
(……う〜ん……)
 今回が最後という事を考えたら、やっぱりわたしまで一緒に教えてもらうのは野暮なのかもしれないけど、しかしわたしも特訓が必要な身であって。
(やっぱり不甲斐ないなぁ、わたし……)
 まぁ、今に始まった話じゃないですが。
「…………」
「……あの、それで姫宮先輩。もしよろしければ、今回は私がご指導しましょうか?」
 すると、それから少しの間を置いた後で、未だにわたしの手を取ったままの葵ちゃんが遠慮がちに申し出てくる。
「へ……?」
「いえ、去年の茜先輩を見ていたら、やっぱり二人同時に個別指導は大変そうでしたので、よければ私がお手伝い出来ればと思いまして」
 そう言って、メガネの奥から是非させて欲しいと言わんばかりの視線を送ってくる葵ちゃん。
「……でも、いいの?葵ちゃんは主将なんでしょ?」
 去年ならともかく、今は水泳部のリーダーなんだから、わたしなんかに構ってる暇は無いはずである。
「そこはご心配なく。今日は各自で課題を決めて個別の強化練習する日なので、私が特に目を光らせていなくても大丈夫です♪うちはみんなしっかりしてますから」
「……そ、そうなんだ……」
 どうやら、その場の思いつきってわけでもなさそうだけど……。
「んで、どうするの、みゆ?」
(うーん……)
「……まぁ、葵ちゃんがいいなら、そうしてもらおうかな?」
 何となく下心が見え隠れしている感じだけに、抵抗がないわけでもないけど、ここは渡りに船と言うべきなのかな。
 確かに、こっちの方が効率もいいし。
「了解しましたー♪では、不肖私めが茜先輩の代わりに、手取り足取りでじっくり念入りにご指導させていただきますねー♪うふっ」
「い、いや、そこまではいいから……っ」
 久々に背筋に悪寒が走ったというか、このままこのコに委ねていいのかは正直不安だけど……。まぁしょうがないか。

                    *

「…………っ」
「柚奈、もっとゆっくりでいいからしっかり手足を伸ばして……っ」
 一番端のレーンでは、柚奈が手足を不器用に掻いたりバタつかせながら一生懸命に泳いでいて、それを茜がプールサイドから追いかけながら、掛け声を飛ばし続けていた。

 ばしゃばしゃ

「ほら、もうちょっとだから頑張れ……!」
(おおー、熱血してるなぁ……)
 指導する茜の目は真剣そのもので、また柚奈もその熱意に押されているかの様に、ペースは遅くとも休まずしっかりと前へと進み続けていて、わたしが
水入らずの気を遣ってあげた割に練習は真面目そのものだった。

 ばしゃばしゃ

「…………っ!」
「ゴール!……やったわね、柚奈。今年はもう自力で25メートル泳ぎ切ったわよ?」
「はぁ、はぁ……っ、茜ちゃんのおかげだよ〜。えへへ……」
 やがて、ようやく向こう岸の壁へタッチして顔を上げた所で、プールサイドから手を伸ばした茜に頭を撫でられ、照れくさそうに笑いかける柚奈。
「一年生の最初に出逢った頃は、バタ足すらろくに出来なかったのに……。これでもう大丈夫かな?」
 すると、そんな柚奈に対して少しばかり自虐的な笑みを見せながら、茜は他人事の様に呟いた。
(……茜……)
 心中、複雑なんだろうなぁ……。
「ううん、茜ちゃんの教え方が上手だからだよ〜。いっそ、将来は体育教師になったら?」
「……なるほど、それも悪くないかもね。志願する学部はまだ決めてなかったし」
「うんうん。茜ちゃんだったら、きっとすぐにみんなに慕われる先生になれるって♪」
「ありがとね、柚奈……でも……」
 そして、そこで茜は一瞬視線を落とすものの……。
「でも……?」
「ううん、なんでもない。……だけど、本当になれたとしたら柚奈のおかげね。誰かの為に頑張れる幸せを教えてくれたから」
「茜ちゃん……。私こそ本当にありがとう。あの時茜ちゃんが声を掛けてくれなかったら、もしかしたら今でも私は……」
「いや、永遠に覚めない眠りなんてありはしないわ。……ただ、その役目がたまたまあたしだっただけ」
「うん……」

「……なーんか、いい感じよね、あの二人……」
「ですねぇ。何だか凄く絵になってますし、流石は学園の王子様とお姫様って感じですか」
 そして、その二人のやりとりを一つ離れたレーンから眺めながらわたしがぼやくと、一緒にいる葵ちゃんも苦笑いを浮かべる。
 ……というか、絵になりすぎて他の部員達の練習の邪魔にすらなってるしね。
「…………」
 ともあれ、ボケもツッコミとも無縁な、ひたすらいい雰囲気の中で思い出話を語り合う二人に、わたしとしても全く妬いてないワケじゃないけど、それ以上に茜への罪悪感が更に増してしまっていたりして。
(茜、ホントにゴメン……)
 一応、柚奈を巡る争奪戦に勝ったんだから、確かに茜自身が以前わたしに言った通り、わたしが気に病む必要は無いのかもしれないけど、
それでも……。
(……う〜ん、なんかこう……)
 いっそのコト、茜に一回ぶん殴って貰ったりした方がすっきりとするのかもしれない。
 まぁ、フェミニストの茜の事だから、頼まれてもやってくれないだろうけど……。

 ぐにっ

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ?!」
 ……しかし、そんな事を考えていた矢先、わたしは突然にお尻を鷲掴みにされてしまう。
「もう、いつまでもサボってちゃダメですよ、姫宮先輩?私も引き受けた以上は責任があるんですから」
 それから、ぐにぐにと掴む手を強弱させながら、体育会系らしい厳しい言葉を向けてくる葵ちゃん。
「……ご、ごめんってばぁ……っ」
 だからって、いきなりお尻を掴まなくても……っ。
「とにかくですね、うちは基本的に初心者大歓迎ですが、指導に関しては一切手を抜かずにビシバシ行うのがモットーですから、先輩といえど弛んだ考えは捨ててくださいね?」
「わ、分かったよ……っ。……けど、一体いつまで触ってるつもりなの?」
 とりあえず、わたしが悪いのは分かったけど、突っ込まずにはいられないんですが。
「あ、これは失礼……。あまりにも先輩のお尻の触り心地がいいものですから、どうにも名残惜しくて……。旧タイプのポリエステルの生地と相まって、
正に至高とも呼べる手触りです!」
「こらこらこら……っ」
 だから、御託はいいからさっさと手放しなさいっての。
「出来れば、その胸から腰元へ続いてるプリンセスラインなんかもなぞらせてもらえれば有り難いんですが……ダメですよね?」
「ダメです……っ。というか、やりたいなら自分で着てやりなさいよ、もう……」
 一応、学校の購買でも売られてるんだし、マニアなら一着くらいは持ってるでしょ。
「まぁ、私自身も全く着ないこともないんですけど、こういうのはやっぱり、他の人に着せて弄るのが楽しいのであってですね……」
 すると、手を離さないならこちらからと、距離を開けつつ向けたわたしのツッコミを、葵ちゃんは「まるで分かってない……」という風に肩を竦めながら一蹴してしまう。
「……ただ、いつか私にもパートナーが出来たら、互いに旧スクを着てお風呂とかでローションにまみれながら……みたいなプレイをしてみたいとは思ってるんですけど」
「知らないわよ、もう……」
 正直な話、柚奈以上のヘンタイ娘ってそうそういないと思っていたけど、この葵ちゃんもレベルが高過ぎて、わたしにはとても付いていけない領域みたいだった。
 ……というか、欲望が生々しすぎ。
「もう、いいから無駄口は無しで練習するんでしょ?さっきはバタ足の復習をさせてもらったから、今度はわたしもさっきの柚奈みたいにひとりで泳いで
みればいいの?」
「ええ、あの水面に浮かび上がってふりふりと動く天使の輪も最高でした♪……けど、姫宮先輩はクロールの方はフォーム云々はともかくとして、
とりあえず泳げるみたいなので、次は平泳ぎの練習をしませんか?」
 いずれにしても、これ以上はキリが無さそうなので強引に話を戻すと、葵ちゃんは両手で掻く動作を見せながら誘いをかけてくる。
「平泳ぎ……。難しそうだなぁ」
 何やら、葵ちゃんの台詞の中に妙な用語っぽいのが混じってたけど、そっちはスルーするとして。
「コツを掴めば誰でも出来ますし、顔を水につけなくても泳げるストレート泳法なら将来役に立つ機会があるかもしれませんから、覚えておいて損はない
ですよー?」
「まぁ、そう言われたら……」
 茜の話では、葵ちゃんが一番得意なのが平泳ぎみたいだし、ここは彼女をたてて付き合ってみますか。
「では、まずは基本的なフォームを教えますので、試しに10メートルでも泳いでみて下さいね。私は後ろから見てますからー♪」
「……いや、普通はお手本が先じゃないの?」
 私に付いて来なさいって感じで。
「いえいえ、まずは先輩のフォームや癖を確認しませんと。だから決して、大股開きになった先輩のクロッチを拝みたいわけでは……っっ」
「あ・ん・た・ねぇ……」
 ……ぶっちゃけこのコ、去年の柚奈そっくりなんですけど。

                    *

「はい、これで25メートルです。……けど、やっぱり最初はなかなか難しいみたいですねー?」
「そら、最初はだれだって苦戦するわよ……」
 というか、クロールに並ぶ基本的な泳法の癖に、どうしてこんなに進まないんだか。
 一応、休み休みで対岸まで進んだけど、何倍も時間を費やしてしまった。
「ん〜。私の場合は教わってすぐ出来たんで、てっきり先輩もすぐに慣れるものかと……」
「……いやだから、それは普通の感覚じゃないから……」
 ああなるほど、やっぱり変態レベルの高さに相応しく天才肌なのか、このコ。
 ……もしくは、水泳の申し子でスク水フェチというのも、ある意味理に適ってる組み合わせなのかも。
「まぁでも、少しずつは進んでますから、姫宮先輩だってやれば出来る人だと思いますよ?」
「あはは……。ありがと」
 自慢じゃないけど、やれば出来る実績はつい最近に作ったしね。
(……いやまぁ、それはいいんだけど……)
 とりあえず、ひと区切りする所までは辿り着いたものの、そろそろ限界に近づいてる事があったりして。
「では、今度は途中で足をつかせずの25メートルにチャレンジしましょうか?それとも、やっぱりクロールの方を磨きますー?」
「……いや、その前に……。あの、ちょっとお手洗いへ行ってきていいかな?」
 ずっと水に浸かり続けて冷えたのか、恥ずかしながらも尿意の方が無視できないレベルになってきていたわたしは、小声で葵ちゃんに訴える。
「え……あ、はいはい、勿論構いませんよ。手遅れにならないうちにどーぞ」
「あはは……。それじゃちょっと失礼して……」
 よかった。去年みたいにお漏らしが見てみたいとか言い出されなくて。
「……ところで、もしよかったら私もご一緒に……ってワケにはいかないですよね?」
「ああもう、すぐに戻るから……っっ」
 しかし、続けて遠慮がちに図々しいコト極まりない申し出をしてくる葵ちゃんへ、結局わたしは全力でツッコミを入れる羽目になってしまった。

                    *

「……ったく、もう……」
 それから、一旦プールから上がった後で足早に移動しながら、誰にともなく溜め息を吐くわたし。
 他のノーマルな部員の人には悪いけど、茜と葵ちゃんの新旧変態主将コンビのおかげで、すっかりと自分の中の水泳部のイメージが妙な色に染まってしまいそうだった。
(……ああそれでも、去年も更衣室で茜と後輩部員とのイケナイ秘めゴトの場面を見ちゃったんだっけか)
 今回はまだ顔を見ていないけど、確か去年はこうしてトイレへ行く途中で、柚奈と二人で茜を独占していたわたしがその相手の子に睨まれたっけ。
「……うーん……」
 他のマトモな部員の人がいたら申し訳ないけど、やっぱり類は友を呼んだりするのかな?
 ……まぁ、それはともかくとして。
(とにかく、さっさと用を足して戻らないと……)
 葵ちゃんにせよ柚奈にせよ、帰りが遅いからと口実を作って追いかけてこられても困るしね。
 下手したら、聞き耳立てられたって不思議じゃなさそうだし……。
(……んー……)
 でも、何となくこの気を抜けない緊張感も懐かしい感じだったりして。
(やっぱり、弛んできてるのかなぁ、わたし……)
 いやまぁ、その元凶と両想いになってしまったんだから、もう無闇に警戒する必要も無いんだろうけど、久々に葵ちゃんみたいなコを相手にしてたら、
やっぱり油断してたら危ないかもって気もしてきたりして。
 何せ、ここのプールには去年の茜が使ってたみたいな開かずの間とかあるんだし……。
(まぁいいや……。とにかく今は……)

 がしっ

「……え……?」
 いずれにしても、用を済ませないことには始まらないと、施設の入り口近くにあるトイレの引き戸を開けようとした所で、不意に背後から手を掴まれて
しまうわたし。
(まさか……)
「葵ちゃん?もう、大人しく待って……」
 しかし、そこで心臓が大きく昂ぶりながらも、即座に解こうと強い動きで振り返った先にいたのは、葵ちゃんじゃなくて……。
「……あ、茜……?」
「ちょっと付き合ってくれるかな、みゆ?」
 そして、いつの間にかわたしを捕まえた茜はそう言って悪戯っぽく片目を閉じると、声を出さないでと言わんばかりに口元へ指を当てて見せた。

6.5-7:恋人と親友。

「……う〜っ、とうとうここへ連れ込まれる日が来るなんて……」
 やがて、茜に手を引かれながら移動した先は、小奇麗な内装にボックスでシャワールームも設置されてある、今まで入った事のない更衣室の中だった。
 ……といっても、入った経験が無いだけで、見た事が無いとは別問題ではあったりして。
「ん?もしかして、みゆも開かずの間のコトは知ってたの?」
「……まぁ、噂くらいは一応」
 本当は、この目で直接に茜と後輩ちゃんとの情事も見てるんだけど、そこはお茶を濁しておくとして。
「ふーん、そうなんだ……ふふ」
 すると、茜は驚くよりも話が早いとばかりに、早速わたしの身体を正面から引き寄せてくる。
「……あ……っ?!」
「この開かずの間状態の更衣室の鍵は代々水泳部が管理していてね、あたし達の必要に応じて使っていいコトになってるの」
 それから、自分の胸元へ密着するくらいまで接近させた後で、わたしの耳元へゆっくりと囁きかける茜。
「ひ、必要って……」
 同時にわたしの感性が危険を告げながら、心臓がドキドキと痛い位に脈打っていく。
 ……普段の茜とは気安い友人のはずなのに、この場においてのわたしは、まるで彼女の獲物だった。
「一応、基本は来客用なんだけどね?他校からの生徒が出稽古に来た時とかに解放したりして」
「…………」
 確かに、開かずの間という割には室内は埃っぽくないし、普段使ってる更衣室には無いシャワールームやカウチソファなど、設備も充実しているみたいだった。
(でも……)
「だけどやっぱり、最もよく使われてる用途はもっと別のコトなんだけど……。噂で聞いてるなら、みゆにも分かるわよね?」
「……え、えっと……。部員同士でひと目を避けて二人きりになりたい時、とか……?」
 つまり、シャワーも完備してる都合のいい逢引の場所……。
「ふふ、御名答。実はうちの校内には、こういうスポットが結構あったりするの。……ま、そういう校風ってコトなのかしらね?」
 そして、茜はわたしの言葉をあっさりと肯定してしまうと、いよいよ自らの指先をわたしのお腹の方へと伸ばしてきた。
「や……っ、どうして……急にこんな……っ」
「……どうしても何も、最初からこうするつもりだったんだけど?」
 それから、押し返そうとするわたしに構わず、スクール水着のお腹から胸へと伸びている縫い目の溝をゆっくりとなぞりながら、耳元でそう告げてくる茜。
 わたし自身が本気で抵抗しきれないのもあるけど、いざという時の茜も柚奈と同じく、相手に有無を言わせない空気を作ってしまうみたいで、逃げることさえ出来ずに手足が震えてしまう。
「ううっ……。やっぱり、柚奈を取られた仕返しはするつもりだったの……?」
「ん〜。仕返しにしては、ちょっと楽しすぎるというか……。実は、みゆの事も前から隙あらば狙ってたからね?」
「狙ってたって……んあ……っ?!」
 やがて、その茜の指先が敏感な胸の先の辺りへ辿り着いた所で、強い刺激にビクンと肩を震わせてしまうわたし。
「や、やめて、茜……っ、わたし達は……」
「……だってほら、ちょっと弄っただけでいい反応見せてくれるんだもの。柚奈じゃなくても襲いたくなるってものでしょ?」
 しかし、茜の方はわたしの制止も身勝手な言い分で却下してしまうと、今度は乳頭を包んでいる部分へ人差し指を留まらせて、こねくる様に刺激させてきた。
「か、勝手なコト言わ……んひっ、だめ……だって……あっ」
 わたしが着させられているスクール水着の生地は結構厚めだというのに、その上から弄り回してくる指先の刺激はしっかりと伝わってきていて、次第にジンジンする様な、くすぐったくも息苦しい感覚がお腹の方へと響いてくる。
 ……もしかしたら、これからこの誰もやってこない密室で茜にされてしまいそうな行為への予感が、一層わたしの神経を敏感にさせてしまっているのかもしれない。
「ほらほら、そうやってすぐ顔を真っ赤にして……。可愛いわ、みゆ……」
 そして更に、水着越しに乳首を弄る指を止めないまま、わたしの喉元へと口を近づけて舌を這わせてくる茜。
「あ……っ、い、いや……跡付けちゃ……」
「キスマークは付けたりしないから大丈夫よ?……別に心配しなくても、今更みゆと柚奈の関係を裂こうなんてつもりはないし」
「で、でも……」
 今、わたし達がこうしてるのがバレたら、やっぱり同じコトなんじゃ……。
「一応は、柚奈よりもあたしが先にお手つきしちゃうのは悪いと思ったから今まで我慢してたんだけど、もう大丈夫なんでしょ?」
「そ、それは……」
 そこで、わたしの顔に再び熱がこもってくる。
「ふふ、ホントに分かりやすいわね、みゆは。……もし柚奈と出逢わなくても、うちの学校なら遅かれ早かれ、誰かに美味しく頂かれてたんじゃないの?」
「た、たとえば茜みたいな王子様の皮を被ったオオカミさんに……?」
 今更だけど、うちの学校はお嬢様学園って言われてる割にはヘンタイさんが多すぎです……。
「あら、言うじゃない?……まぁ、確かにその通りなんだろうけど……ね」
 すると、茜は自虐気味に肯定してしまうと、今度はわたしの胸元へかがみ込む様にして、右手を下腹部の中央にある排水溝へと差し込んでくる。
「ひ……っ?!」
「おっと、去年に葵が突っ込んでたのを見て、あたしも入れてみたいと思ってたけど……そういえば、胸の部分にも一枚入ってたんだっけ?」
 それから、お腹から胸元へと手を貫通させた後で、茜は水着の内部を這い回せながら裏地越しにわたしの胸を揉み始めてきた。
「ちょっ、こら……んぁ……っ」
 ……それでも、わたし的には今までの二重の生地から薄いメッシュだけになった分、より直接揉まれている状態に近いんだけど。
 ついでに、気分的にも水着の上からより遥かに恥ずかしいし。
「まぁでも、これはこれでなかなか……。どっちが気持ちいい、みゆ?」
 そして今度は揉む手はそのままに、もう片方の胸元へ直接口を付けると、水着越しに胸の先を吸い付いてくる茜。
「んっっ、し、知らな……あ……っ」
「ほら、固くなってきてるじゃない?こっちはもう軽く摘めるくらいよ?」
「あひ……っ!」
 しかし、最初からわたしの身体を仰け反らせようと手加減無く攻めてくる柚奈と違って、茜の手つきは水着の上から焦らす様な加減で弄ってきていて、
それが何だかジワジワと心を蝕まれていく様な心地になってしまう。
 ……正直、茜の指加減は気持ちいいというより、むしろ焦らされて切なくなってしまうのがつらかったりして。
「んあ……っ、はぁ……っ、もう……やだぁ……っ」
 これ以上続けられたら、何だかおかしくなってしまいそう……。
「……ふふ。だったらそろそろ、直接してあげよっか?」
 それから、わたしがとうとう根を上げようとした所で、妖しい笑みを浮かべて誘惑してくる茜。
 表情こそ涼しげなものの、その目つきは獲物が罠にハマった歓喜に満ちていた……気がした。
「ち、直接って……」
 その茜の言葉を聞いた直後、わたしの胸が痛い位に大きく脈打つ。
「言うまでも無いでしょ?……そろそろ、肩紐を外しちゃおっか、み・ゆ?」
「う……っ」
 ……やっぱり、そうきたか。
「いいじゃない?胸くらい見せてくれても。……あたし達は親友でしょ?」
「そ、そう言われても……」
 むしろ、親友という関係だからこそ、余計に恥ずかしいんだけど。
「……だから、そうやって恥ずかしそうに俯いたりしたら、余計に引けなくなっちゃうでしょ?」
「でも……」
 しかも、この更衣室って去年の時は隣の更衣室と繋がっている覗き穴があったワケで。
 あれから塞がれていないままのかは分からないし、何より今は練習時間中だから、覗かれる心配も殆ど無いんだろうけど……。
「……もう、しょうがないなぁ。こっちにおいで、みゆ?」
 すると、そうやって煮え切らないわたしに業を煮やしたのか、茜は小さな溜息を吐いた後でスクール水着の中から手を離すと、そのまま再び腕を取って更衣室の奥へと誘っていった。
「あ……っっ、ち、ちょっ……」
(…………)
 ……今日の茜、いつもとは別人みたい。
 でも、それでもやっぱり毎日同じクラスでお馬鹿な会話に花を咲かせている友達の茜でもあって。

「……ほら、ここならいいでしょ?」
 やがて、わたしはシャワールームのボックス内の壁際へ連れ込まれ、今度こそ問答無用で水着の肩紐へ茜の指がかけられていく。
「ぜ、全然よくないってば……っっ、これじゃわたしには……」
 単に、隅へ追いやられて逃げ場が無くなっただけである。
「だから、逃げ場を無くしてあげたの。これならみゆでも観念せざるを得ないでしょ?」
「…………っ」
 しかし、言い終わる前に茜から完全に開き直りの台詞を向けられ、水着の上から胸部を押さえて抵抗しようといていたわたしの手が止まってしまう。
「ほら、全部あたしのせいにしていいんだから、ね?」
「……う〜っ……」
 なんていうか、基本的に泣き落としか力ずくの二択の柚奈と比べて、茜の手口ってまずは相手の心から追い込んで縛りつけようとしてくるみたいで、
良く言えばスマートなのかもしれないけど、悪く言えば凄くずるい感じだったりして。
「ぜ、絶対誰にも言わない……?」
「もちろん。友達として約束を破った事はないでしょ?あたしからのお願い」
「……う、うん……」
 だけど、ただでさえ茜に負い目を感じているわたしが抗いきれるワケも無く、結局わたしは押されるまま小さく頷いてしまうと、ぎこちない動きで腕を下ろしていく。
(これも、茜への償いの一つに、なるのかな……?)
 恥ずかしいけど、茜がどうしても見たいというのなら……。
「いい子ね。それじゃ遠慮なく……」
「…………っ」
 それから、わたしは小さく肩を震わせながら、ゆっくりと肩紐が外され、茜の目の前で水着が引き降ろされていくのをじっと受け入れていた。
「…………」
(ううっ、見られてる……)
 無言だけど、茜の真剣な眼差しから向けられる視線が熱くて、高鳴る心臓の動悸と共に身体が更に火照っていく心地になるわたし。
「へぇ、やっぱり期待通りの可愛いおっぱいね……。みゆ?」
「あうう……。あまりジロジロ見ないでよ……」
 柚奈の目の前で始めて脱がされた時もだけど、去年から見たがってたのを散々逃げ回っていただけに、いざという時の恥ずかしさもひとしおというか。
「いいじゃない?小さなぽっちも綺麗な桜色だし……」
「…………っ!」
 やがて、そっと伸ばしてきた茜の指先が乳頭へ同時に触れると、わたしの背筋に電気が走った。
(あ、やば……っ)
 今まで焦らされていた分が一気に弾けたからだろうけど、その刺激が下腹部の方まで響いて……少しだけ漏れそうになってしまう。
 雰囲気に飲まれて忘れかけてたけど、トイレへ行く最中だったんだ、わたし……。
(ううっ、大ピンチ過ぎ……っ)
「しかも、凄く敏感じゃないの。……ここも後でゆっくりと味わわせてもらうとして、その前に今度はこっちの方も見せてもらおっかな?」
 そして、わたしが尿意を思い出して太ももをよじらせた所で、今度は茜の右手が股間を包んでる部分の生地へと伸びて、割れ目の辺りを軽く擦ってくる。
「やぁ……っ、そこは……」
「……なに?この流れで今更ダメはないでしょ、みゆ?ふふ、柔らかくて手触りも最高ね」
「そ、そうじゃなくて……その……」
 まぁ、確かに本当は普通に見るだけでも勘弁して欲しいけど、今はそれ以上に……。
「どうしたの?……はっきり言ってくれなきゃ分からないわよ?」
 すると、こちらの事情を知ってか知らずか、茜はやや強い口調でわたしにそう促すと、入り口付近を擦っていた指をぐいっと押し込んできた。
「…………っ!だ、だから、その……ずっとおしっこ我慢してるんだってば……っ」
 しかも、これ以上刺激されたらお漏らししちゃう位のレベルで。
 ……というか、今の刺激も相当危なかったし。
「ん?……ああ、そういえばトイレに入る所をあたしが邪魔したんだっけ。あはは、ゴメンゴメン」
「う〜〜っっ……」
 そんな他人事の様に笑われても、こっちはかなり切実なんですけど。
 特に尿意を思い出してからは、急激にお腹が圧迫されてるわけで。
「だ、だから、一旦トイレに行かせて……ねっ?」
 正直、今からでも間に合うかどうか怪しいぐらいだし。
 ……と、空気が少し和らいだ所で、わたしは改めてお願いを向けるものの……。
「別に移動しなくても、ちょうどシャワー室にいるんだから、ここでしちゃえば?」
「んな……っ?!」
 しかし、そこで茜から告げられたのは、思いもよらない提案だった。
「お湯だって使えるから、あたしが後で洗い流してあげるわよ?」
「そ、そんなっっ、だめだめ……っ」
 い、言うに事欠いてなんてコトを……。
 つまり、一番恥ずかしいトコロだけじゃなくて、おしっこする姿まで目の前で晒して見せろと。
「でも、我慢は良くないわよ?この大事な時期に膀胱炎になってもいいの?」
「……う、うう……っ」
 鬼ぃ……っ。
「ほら、あたしが引っ張っててあげるから、そのまま遠慮なくどーぞ?」

 くいっ

「やあ……っ?!」
 そして言うが早いか、茜はわたしの足下へしゃがみ込むと、デリケートゾーンを包んでいたクロッチ部分を横へずらせてしまった。
「おおっ、これが噂に聞いたみゆのつるつる……」
「ば、ばか……っ」
 鼻息を吹きかけながらそんな凝視しないでっっ。
「なんせ、自分で生えてないって自己申告してたもんねぇ。その度に何度無理やり襲ってやろうか悩んだものか……」
「ば、ばか……ぁっ」
 そして、そんな自爆の積み重ねが、こうして応報になっているんだろうけど……。
「でも、これでようやく拝めたけど……ホントに天然のつるつるさんなのね?触り心地もこんなにすべすべしてるし……」
「こ、こらっっ、いつまでジロジロ見てるのよ……っ?」
 というか、指でほじったりして確認しなくてもいいから……っっ。
「……はいはい、まずは用を足してしまわないとね?」
 それから、恥ずかしさとこみ上げてくる尿意で足を震わせながら制止するわたしに、茜はニヤニヤとイヤらしい笑みを見せてそう告げると、指で入り口のクレパスをくぱぁと広げていく。
「いやぁ……っ」
「おお、中も小ぶりで可愛い……ホント、見る目が無いのが多すぎるわよねぇ?」
「……そんなコト、言われても困るってば……っ」
 だけど、なぜか今の学校へ転校してモテモテになっちゃったけど。
 ……主に、ヘンタイ女さん達に。
「でも、本当に綺麗よ?誰にお見せしても恥ずかしくないくらい」
「だ・か・らぁっ、そんなコトしないってば……っ」
 まったく、柚奈と同じコト言うんだから……。
 ある意味、わたしにしてみればこの二人は魂の姉妹だった。
「ふふ、冗談よ。……んじゃ、しっかり見ててあげるから盛大に噴き出しちゃいなさいな?」
「ちょ……っ、もう、せめてあっちを向いててよぉ……っ」
 ここでするのは、もう覚悟決めるから……っっ。
「だぁめ。ほら、おしっこの穴だってこんなにヒクヒクさせてるんだから、無駄な抵抗はしないの」
 しかし、茜は即座に却下してしまうと、逆に早く出してしまえと言わんばかりに、空いた指で尿道口をグリグリと刺激してくる。
「あ……う……っ」
(も、もう……ダメ……)
「ふぁぁぁぁぁぁ……っ!!」
 そして、諦めが心を支配してとうとう我慢できなくなったわたしは、目から火が飛び出そうな恥ずかしさと開放感で足をガクガクと震わせながら、溜め込んでいたモノを盛大に解き放ってしまった。
(うああ……っ、見られてる……茜に……おしっこしてるトコロまで……)
 柚奈にだって見せたこと無いのにぃ……っっ。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
「……はぁぁ……っ」
 これで一気にすっきりしたけど……。何だか色々なモノが崩れてしまった様な。
「ふふ、ホントにいっぱい出たわねぇ?広げたままだったから、手にかかっちゃった」
 一方で、茜の方は満足そうな顔で、わたしの尿で濡れた手をうっとりと眺めていたりして。
「ご、ごめん……」
 多分、わたしは悪くないとは思うけど、やっぱりごめん……。
「いやいや、いいモノ見せてもらったわよ、みゆ?貴重な体験も出来たし」
 そう言って、自分の腕を鼻に近づけてくんくんする茜。
「ちょ、やめてよ、ヘンタイ……っ!」
「あはは、冗談だから落ち着きなさいって。……まずは綺麗にしてあげるから」
 それから、茜は備え付けのシャワー口を手に取り、蛇口を捻って出したお湯でまずは自分の手を洗い流した後で、半脱ぎ状態だったわたしの水着を
引き下ろしにかかってくる。
「え……?」
「このままだと洗いにくいし、全部脱がせちゃうわね、みゆ?」
「あ、じ、自分で洗うから……っっ」
「まぁまぁ、せっかくだからやらせてよ。ね?」
 しかし、茜はわたしの台詞なんて最初から聞く気は無かったかの様に受け流すと、そのまま一気に足首までずり下ろしてしまった。
「はい。それじゃ引っかかると危ないから、ちょっとカカトを上げてくれる?」
「…………っ」
 ……う〜っっ、結局は丸裸にされてしまった。
「…………」
「…………」
 やがて、スクール水着がわたしの身体から完全に離れた後で、一糸纏わぬ姿になったわたしの身体をじっと見据えてくる茜。
「あによ……?」
「……いや、みゆを裸にしちゃうと、何だか猛烈にイケないコトしてる感じがしてきたんだけど……」
「わ、悪かったわね……っっ」
 とても見えないかもしれないけど、わたしだって茜と同い年なんですが、わたし。
「悪いなんて、とんでもない。……んじゃ、洗ってあげるからそのまま我慢しててね?」
 そこで、捨て台詞を吐かずにはいられないわたしに茜はニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべてそう告げると、手に持ったシャワーヘッドの先を股間へと押し当ててきた。
「……んあ……っ?!」
 同時にノズルから噴出したシャワーのお湯が、わたしの花弁の入り口をムズムズと刺激してくる。
「あら、ヘンな声出してどうしたの、みゆ?」
「ちょっ、茜……らめぇ……っっ」
 お湯が飛んでくる向きは直線的で大雑把だけど、範囲が広い分だけ敏感な所へ当たったりもして……。
「ん?あたしは洗ってあげてるだけだけど、みゆにとっては違うのかな?」
 そう言って、言葉とは裏腹に尿道だけじゃなくて、他のデリケートな部分も刺激してやろうと、シャワーヘッドをゆっくりと回してくる茜。
「ふぁ……っ!……はぁっ、い、意地悪、しないでよぉ……っ」
 またシャワーの強すぎず、弱すぎずの絶妙な加減が余計に痺れる様な刺激を与えてきて、わたしは立ったまま耐えるだけで精一杯になってしまう。
「……みゆが可愛すぎるからいけないの。友達を狂わせちゃうくらいにね」
 やがて、とうとう泣き言を喘ぐわたしに、茜は少しだけ残酷さが含んだ言葉を返した後で、今度は胸元へ顔を埋めてくると、舌を伸ばして乳首の周辺へゆっくりと舌を這わせてくる。
「あ、あかね……あひっ?!」
 そして、また焦らしていくつもりなんだろうか……と思った途端、今度は一気に舐め上げてきた。
「んあっっ!はぁぁぁ……っ、茜……っ」
「……ふふ、みゆのおっぱいおいしい……」
「はひぃ……っ、ダメ……声が……」
 なるべく我慢するつもりだったのに、抑えられなくなっちゃう……っ。
「いいのよ。みゆのエッチな声、もっと聞かせて……?」
「あう……っ、やぁぁ……っ」
 しかし、茜の方は更にそれを煽ろうと、固くなってしまった乳頭を唇で挟みながら、シャワーを持つ右手をクレパスの付け根にある、一番敏感な部分へ
当たる様に押し付けてくる。
「んぁぁっ、こんなの……らめぇ……っっ」
 頭が……真っ白になっちゃいそう……っ。
「…………」
「はぁ、はぁ……っ、ふぁぁ……っ」
 もう、だんだん何も考えられなくなってきて……。このまま茜に……。
「……本当に可愛いわ、みゆ……。ね、次はその可愛い唇も食べさせてもらっていい?」
 それから、唇や舌での乳首への執拗な愛撫が続く中、不意に唾液の糸を引かせながら顔を上げたかと思うと、今度はわたしの耳を甘噛みしながら
新しい要求を向けてくる茜。
「ん……っ、え、ええ……っ?」
「まだ、あたしとは一度もしてなかったでしょ?どうせ、初めてじゃないんだから減るものでもないし」
「…………」
(……茜……)
「ね……?いいでしょ、みゆ?」
「…………」
「…………」
「…………っ」
 しかし、わたしはそこから少しの間を置いた後で、言葉の代わりに顔を背けた。
「やれやれ、これが境界線なのね。……親友と恋人の」
「……ゴメン、茜。別に気持ち悪くて無理とか、そういうんじゃないんだけど……」
「ふふ、分かってるって。それでこそ、あたしが認めたみゆだもんね?優柔不断で流されやすい割に、律儀で気高くて……」
 そこで、傷付けてしまったんじゃないかと心配してすぐにフォローを入れるわたしに対して、逆に茜は満足そうに肯定の言葉を返してくる。
「こ、こんな時にホメないでよ……あんっ」
 余計に気持ちがくすぐったくなるじゃない。
「むしろ、ここで簡単に陥落してしまう様じゃ先行き不安だもの。それでいいの」
 そして茜はそう告げると、唇の代わりに頬へ口付けしてきた。
「むう……っ」
「……んじゃ、唇は諦めるとして、代わりにこっちのお口へキスさせてもらおっかな?」
 しかし、何だか良い話になりかけたのも束の間、それから茜がそう告げてきたかと思うと、ようやくシャワーを止めた後で、再びわたしの下腹部へと
しゃがみ込んでくる。
「え……?」
「ほら、あたしの肩に腿を乗せて?」
「…………っ」
 そこで、茜の意図をすぐに理解して一瞬躊躇うものの、今のわたしが突き放せるわけもなく……。
「う、うん……あまりジロジロ見ないでよ……?」
 またも恥ずかしいトコロが丸見えになるのを承知で、再び心臓をドキドキと高鳴らせながら右足を茜の肩口へ乗せていくわたし。
 ……やっぱり、タダじゃ転ばないのが茜らしかった。
「お、こうしたらみゆのお尻の穴まで……」
 すると、見ないでと言った側から茜はわたしのお尻の肉を左右に開くと、その奥にあるもう一つの恥ずかしい部分をジロジロと凝視してくる。
「こ、こらぁ……っ」
 しかも、見るならこっそり見ればいいのに、わざわざ言葉にして煽ってくるし……。
「へぇ、こっちも小さくて可愛いじゃない?……でも、こうやって付き合いの長い友達のお尻の穴なんてまじまじと眺めてると、ちょっと気恥ずかしい感じはあるわねぇ?」
「…………っっ」
 見られてるわたしの方は、その何十倍も恥ずかしいんですけど……っ。
 しかも、やっぱり柚奈と茜だと、見られる恥ずかしさは異質だったりするし。
「……んで、こっちも柚奈には可愛がられてるのかな?」
「ひ……っ!」
 それから、茜の指先が窪みの入り口を突っつくと同時に、びくんっと仰け反ってしまうわたし。
「ふふ、こっちも敏感なのねぇ……」
「も、もう……っ、バランス悪いんだから、ヘンな悪戯しないで……っ」
 背中が壁だからって、簡単にずり落ちてしまいそうだし。
「はいはい……。真面目にやりますよ、みゆ姫?」
 すると、茜はからかう様にそう告げると、まずはわたしの太ももを引き寄せて口付けしてくる。
「ん……あ……っ」
 くすぐったい……。
「……ね、知ってる?腿へのキスってのは支配の意思を意味するの」
「え……?」
「だから、今この時だけ……。これからほんの少しだけの間、みゆのコト支配させてもらうね?」
 そして茜はそう告げた後で、腿からわたしの花弁へ向けてゆっくりと舌を這わせ……。
「茜……んひ……ぃっ!」
 やがて割れ目の入り口へと辿り着いた後は、柚奈と同じく躊躇いの無い舌づかいでわたしの秘所をかき回してきた。
「あ、はぁぁ……っ、ら、らめぇ……っ」
「……んふっ、こっちは譲れないんだから、諦めなさい……んっ」
「で、でも……まだ汚いかも……っ」
 シャワーで洗い流したからって、おしっこしたばかりなのに……。
「いいっていいって。少しくらい残ってたって、みゆのなら平気……おいひ……」
「…………っっ」
 ホントに、茜って……。
(ずるいよ、もう……っ)
 こんなに散々恥ずかしい目に遭わされてるのに、きゅんとさせられてしまうなんて。
 ……元々は茜に襲われた形なのに、まるで合意の上で浮気をしている様な後ろめたさも感じさせられてしまうわたし。
「はぁ、はぁぁ……っ、くぅ……っ」
「ふふ、残り湯とは違うものがどんどん溢れてる……。これがみゆの味……んんっ」
「ば、ばかぁ……っ、ふぁぁ……っ」
 だけど、茜の舌づかいが凄く気持ちいいのが、妙に悔しいというか。
 尿道口の辺りとか、避けるどころかまるで自分の舌で綺麗にしようってばかりに執拗に舐め回してくるし、何だか茜にご奉仕されてると表現してもいい
くらいに献身的なのが、余計に痺れる様な快感を与えてくれていたりもして。
「も、もう……っ、そんなに舐めたかった……の……っ?!」
「ふふ……それは勿論、みゆみたいな可愛いコのなら、土下座したってってね?」
「…………っっ、もうっ、しらないから……っ」
 やっぱり、白薔薇の君はヘンタイさんだ。
 でも……。悪い気分でもない……かも。
「……それで、みゆの方はどう?……あたしにこうして舐められるのは、苦痛……?」
「んん……っ、あう……っ」
 ……やっぱりずるいというか、苦痛なんて言われたって否定するしかないでしょうに。
「…………」
「苦痛なんかじゃなくて、むしろ凄く気持ちいいわよ……。ムカつく位に上手だし……んあっ」
 そこで、少しの間を置いた後で、ぼそりと本音を告げてやるわたし。
「……ありがと。だったら……」
「で、でも……世界で二番目、だけど……っっ」
 しかし、それからおそらく柚奈とどっちが上?と聞いてこようとした茜の台詞を遮ると、わたしは先に答えを返してやった。
「……言うじゃない、みゆ?……でも、もうすぐイキそうなんでしょ?こんなにピクピク震わせて」
「だ、だからなの……っ、んぁぁぁ……っ!」
 イカされちゃった後で聞かれるのは癪だから……っ。
「はいはい、またそうやってあたしに火を点けるんだから、みゆは……」
 すると、茜はせめてもの抵抗をみせたわたしへそう告げると、今度は愛撫の矛先を一番敏感な部分へと集中させてくる。
「んひ……っ?!」
「もしかしたら、これが最初で最後になるかもしれないから……。たっぷりと堪能させてあげる」
 そしてそう続けると、舌先を押し付けてグリグリと刺激してくる茜。
「あっ、やぁ……っ、そんなトコばかり……んぁっっ!」
「ふふ、大きくなってきてる……。そんなに気持ちいいの?」
「……ああん、もう……っ、自分にもあるんだから分かるでしょ?!……くうっっ」
 何せ、一番神経と血管が集中してる部分なんだから……っ。
「でも、みゆって剥けきってないくせに、皮の上からでもこんなに敏感なんだから……んっ、ほら……こうして直接弄ってみたら……」
「あひ……っっ?!」
 更に、今度は茜が被さってる包皮を指で剥いて舌を差し込んできた所で、わたしの下腹部から脳髄へ頭がバチバチっとする様な刺激が走っていった。
「うぁぁっ、ひぃ……っ、らめ、そんなのぉ……っっ」
「…………」
 その、腰の力が抜けそうな位に強すぎる刺激に耐えられそうもなく、相手の頭を押さえて逃れようとするわたしなものの、茜の方は逆に唇を密着させて構わず激しくかき回してくる。
「やぁぁぁっ、はぁ、はぁ、ふぁぁ……っ!」
(だめ……もう……おかしくなっちゃう……っ)
「……ほら、もう我慢できないんでしょ?こうしてあげる……っ」
「んんぁぁぁ……っっ!!あ……ぁっ」
 それから、茜が剥き出しになった肉芽を強く吸いついた瞬間、わたしは全身を痙攣させながら上りつめてしまった。
「はぁ、はぁっ、はぁぁ……っっ」
「……ふふ、まずはごちそーさま。美味しかったわよ、みゆ?」
「はぁ、はぁ……っ、う〜〜っ……」
 やがて絶頂後、ようやく股間へ埋めていた顔を離した茜が満足そうな笑みを見せて見上げてきたのを受けて、視線を逸らせながら小さく唸るわたし。
 いくらなんでも、最後は激しすぎ……と文句の一つも言いたいものの、何より恥ずかしくて茜と目が合わせられなかったりして。
(というか、来週から学校で茜と普通に接することが出来るのかしらん……)
 柚奈の時もだけど、やっぱり一線を越えてしまった後ってのは……ね。
 ……しかも考えたら、わたしだけ一方的に脱がされて弄られて舐られて、なんかズルい気がするんだけど……。
「……さて、それじゃ次はくんずほぐれつで楽しみましょうか、みゆ?」
 ……とか思っていた矢先、肩に乗せていたわたしの太腿を下ろして立ち上がった後にそう告げると、手早く自分の水着を脱ぎ始めてくる茜。
「へ……っ?」
 すると、今まで密着していた競泳水着から解放された、形が良くて柚奈よりも大きな二つの膨らみがぷるんと弾けて……はいいんだけど……。
「なに、1回だけで終わると思ったの?やっぱり、裸同士じゃないとみゆの体温は堪能できないしね」
「え、ち、ちょっ……」
 本気で、このまま2回戦突入……ですか?
「まぁまぁ、今度は最後まで優しくしてあげるから」
「ふ、ふえええええ?!」
 そうして言うが早いか、わたしは茜に後ろから抱きかかえられる様にして、相手の胸と自分の背中をぴったりと密着させられてしまった。
 ……しかも、水着越しだって今までと違って、今度は相手の体温がダイレクトに伝わって、より生々しくなっている感じでもあったりして……。
「どう?あたしの胸の感触は?」
「う〜っ……柔らかくてあったかいけど、これって嫌味……?」
 俗に言う、「当ててんのよ」って奴なんだろうけど。
「もう、卑下しないの。みゆのだって、ある意味最高なんだから」
「ある意味って……やぁん……っ」
 それから、自分の胸を張り付けたまま後ろからわたしの胸を揉み始める茜。
「細かい事は気にしない。……でも、柚奈に毎日の様に揉まれてる割には大きくならないわよねぇ?」
「それは迷信だも……んあっ」
「……あら、毎日揉まれてるってのは否定しないんだ?」
「いや、それは……」
 まぁ、毎日とまでは言い過ぎかもしれないけど、その、まぁ……。
「ふふ、まぁ今更隠す必要も無いか。……んじゃ、ちょっとだけみゆにアドバイスをあげちゃう」
 そこで口ごもるわたしに茜はそう告げると、今度はわたしの身体全体を優しくまさぐりながら、髪から耳、首筋、肩口から背中へ、頭の先から下りる様に口付けしてくる。
「ん……っ、ちょっ、茜……。さっきキスマークはつけないって……」
「そこまで強く吸い付いたりしないから大丈夫。……それより、今あたしがやってるコトは覚えとくといいわよ?」
「え……?あん……っ」
「身体の色んな部位へのキスって、実はそれぞれで意味があるのは知ってた?」
「そ、そうなの……?」
 言われてみれば、さっき太腿に口付けした時に支配って言ってたっけ……?
「ええ。俗に言う『キスの格言』って言われてるんだけど、髪から爪先までの22箇所で違った意思が込められてるの。髪は思慕で、額は友情、耳は誘惑、瞼は憧憬、首筋は執着で、背中は確認、そして手首は欲望で掌が懇願……手の甲は敬愛といった具合にね?」
 そう言って、茜はわたしの手を取ると、手首から手の甲へ順に口付けしてきた。
「ん……っ、もう、そんなに一度に言われても分からないよ……」
「更に、下半身の方へ行くほど、込められた意思は強くなるの。お腹は回帰で、腰は束縛、脛は服従で、足の甲は隷属を示し……爪先は崇拝だったりね。柚奈からも、されてる心当たりはあるでしょ?」
「う……うん……」
 だけど、わたし的には単に気分を高めたり、焦らしたりする為くらいのものかと思っていたけど。
「……だから、これからもし柚奈と喧嘩しちゃった時とかあったら、敢えてみゆの方から自分のモノだと意思表示してあげたらいいんじゃない?……あのコはみゆを束縛したいのと同時に、自分もみゆに支配されたがってると思うから」
「あんっ……もう、お節介なんだから……っ」
 今更分かってますよ、そんなコトくらい。
 ……ただ、実行は出来てないだけで。
「ふふ……。でも、こういう時にやっぱり肝心の唇にちゅー出来ないのは、ちょっと物足りないかな?」
 そして、レクチャーをひと通り終えた後で、茜は少し寂しそうに呟いた。
「……茜……」
「ま、それならそれで……。こういうのはどう?」
 しかし、それからすぐに切り替えてしまうと、今度は全身を這い回っていた左手の指を、わたしの口の中へ進入させてきた。
「んぅ……っ?!」
「……ほら、そのままあたしの指を舐めて?」
「…………っ」
 想像もしていなかった茜の行動に驚くものの、それでも先に突っ込まれてしまったのなら仕方が無いと、大人しく従うわたし。
 ……まぁ、さっきまでのキスの話の流れで好奇心が増してるのもあるんだけど。
「そうそう……。ふふ、くすぐったくてゾクゾクしちゃう」
「ん……はぁ……っ」
(……う〜っ、わたしも何かヘンな気分……)
 こんなのは柚奈ともまだしたコトが無いのもあるけど、片方の手で身体を弄られながら、もう片方の指をご奉仕させられてるのは、何ともいえない
フクザツな感じだったりして。
「そうそう、いい感じよ……みゆ」
「……はぅ……っ、ふはぁ……っ」
 しかも、首筋を舐めまわしてきてる茜の舌がまたアクセントになって、自分が茜に囚われてしまってる感じが、わたしの気持ちに罪悪感と不思議な
高揚感を与えていく。
(……ううっ、認めたくは無かったけど、もしかしてわたし……)
「どう、こういうの?……みゆもゾクゾクしてこない?」
「……んぅ〜……っっ」
 しかし、そこで茜の方から聞かれたくなかった言葉を囁かれて、反射的に首を横に振ってしまうわたし。
「ふーん?前からみゆって、Mっ気ありそうな気はしてたんだけど……」
「……ふぁっふえなふぉといふぁないふぇ……っ」
 思わず自分で自覚しかけたけど、こうして他人から指摘されたら反発してしまう。
 自分でも苦笑いの素直になれなさっぷりだけど、でもまだ大丈夫……かな?
「そうやって意地を張るみゆも可愛いけど、たまには堕ちてみるのもいいものよ?」
 すると、そんなわたしへ茜は楽しそうにそう告げると、太腿を撫でていた右手がわたしの花弁の入り口へと伸びていく。
「……ふはぁ……っっ?!」
「ふふ、ぐしょぐしょじゃない?これってさっきの残り……だけじゃないわよね?」
「…………っ」
 いつか来るとは思ってたけど、先程上りつめたばかりのわたしの秘所はまだ敏感になりきっていて、茜の指の繊細な指も今は気持ちいいというよりは、ちょっと苦しい位だったりして……。
「さて、そろそろ長居しすぎちゃったし、手早く済ませてあげる」
 しかし、そんなにわたしに構わず茜はそう告げると、指先からぐちゅぐちゅとイヤらしい音を立てながら激しくかき回してきた。
「んふぅっ?!はぁ、ふはぁ……っっ」
「ほら、聞こえる?みゆの恥ずかしい所からこんなに響いてる……」
「んんふ……っ!」
 それも茜のせいでしょーが……っっ。
 ……なんて言葉にしても、喜ぶだけかもしれないけど。
「ホント、可愛いわ……。みゆが柚奈のモノになっちゃったのすら嫉妬してしまいそうよ?」
「……ふぁ……っ、あかねぇ……」
 そんなコト言われても……と思う反面で、やっぱりまたも罪悪感が。
「……でもま、あたしには今までみたく、こうやってつまみ食いするのがお似合いかしらね?」
 だけど、またも茜は自分で切り替えてしまうと、入り口付近を弄っていた指をぐいっと押し込んでくる。
「んふぅ……っ?!」
「大丈夫、破ったりはしないから。……みゆの中、狭くてあったかい……」
 そして、今までより深く差し込んだ指で、天井の辺りの敏感な部分をグリグリと刺激してくる茜。
「はぁ、はふぁ……っ、んはぁぁ……っっ」
 ダメ、そんなコトされたら……。
「くふぅ……っ、ふぁっ、ふぅぅぅ……っ」
 やがて、茜の愛撫に呼応するかの様に、喘ぐわたしの口から分泌した唾液が指を伝わり、ポタポタと滴り落ちていく。
「ふふ、みゆのお汁でどっちの指もベトベト……。やっぱり、身体は正直みたいね?」
「……んくっ、はぁぁ……っっ」
 悔しい……けど……。
(……あ……また……)
 だけど茜の言う通り、わたしの身体はもう次の絶頂を求めて止められない状態で……。
「ほら、そろそろまたイキそうなんでしょ?……いいわよ、今度はあたしの指で……」
「ふはぁ、はぁ……はぁ……っ」
「ふふ……今度は、ちゃんとみゆの絶頂の瞬間を見ててあげるから……」
「くぁ……っ、あ、うぁぁ……は……っ」
 そんなの、恥ずかしくて困る……けど……。 
(もう……だめ……ぇっ)
「んんあっ、ふぁぁぁぁぁぁぁ……っっ?!」
 それから程なくして、わたしは茜にがっちりと囚われれた態勢のまま、再び身体を震わせながら上りつめてしまった。

「はぁ、はぁ……はぁぁっ」
「……ふふ、二度目のごちそーさま。これで手放してしまうのは、正直名残惜しいけど……」
「ふはぁ……っ、もう、これ以上は勘弁してよぉ……」
 やがて余韻も落ち着いた後で、ようやく茜から開放されると、脱力しながら泣き言を入れるわたし。
 いくらなんでも、これ以上は……。
「あはは、分かってるってば。……でも、柚奈と違って、つくづくあたしって運が無いみたいね」
 すると、茜の方も苦笑い混じりで頷くものの、それから続けて肩を竦めながら、自虐含みの台詞を返してくる。
「え……?」
「……ううん、それも悲観すぎか。どの道、うちの学園で”薔薇”の称号を受けた生徒は孤独を背負う宿命だしね」
「いや、それこそ悲観的すぎるんじゃ……」
 そして、更に自棄っぱちな言葉を続ける茜へ、足元に転がっていたスクール水着を拾って足を潜らせながらツッコミを入れるわたし。
 ……っていうか、もし本当にそうだとしたら、同じく赤薔薇の君だったお母さんも?
(…………)
「……とにかく、無理やり連れ込んでおいて何だけど、ありがとね、みゆ?これでもう、大体思い残すことは無いかな」
「もう、そんなコト言わないの……。わたしと茜は”親友”でしょ?それ以上でも、それ以下でもないし、今までも、そしてこれからもね」
 ただ、しばらくはちょっと正視されたら恥ずかしくなってしまいそうだけど、それがわたしの望みでもあるから。
「あら、まだあたしを親友と呼んでくれるんだ、みゆ?」
「……それは、こっちの台詞だから」
 結局、茜自身はどういうつもりでこんなコトしたのかは分からないけど、これで柚奈とのコトでずっと気に病んでた罪悪感も、少しは軽減したかな?
「やれやれ、やっぱりみゆは真面目で優しすぎるのよね……」
 すると、茜はぽりぽりと後ろ頭を掻きながら、嬉しさと呆れが混じった様な笑みを見せる。
 ……というか、あんたもさっさと水着を着なさいっての。
「悪いけど、それこそ茜に言われたくはないわよ……」
 結局、わたしは茜の為に身を引いてやれなかったんだから。
 ……もし、立場が逆だったとしたら、わたしは茜の様に優しくなれただろうかって、今でも思うし。
「そう?でも、みゆはもうちょっと傲慢になってもいいと思うわよ。……あたしの為にもね?」
「……茜……」
「今回の件……。柚奈にはやっぱり黙っておくの?」
「そら、そーでしょ……」
 わたしのお嬢様は嫉妬深いったのに、口が裂けても言えますかっての。
(……いや、でも、茜相手だったら……)
 そこで、ふと一年前の特訓の時、わたしに生えてるか確認しようとした葵ちゃんに柚奈が言い放った言葉を思い出す。
『それを確認していいのは私と茜ちゃんだけですっっ!』
(うーん……)
 ……あと、どうでもいいけど、結局二人に確認されちゃったわね。
「…………」
「……ね、柚奈にとってのあたしって、どんな存在なのかな?」
 それから、ようやく自分の水着を着始めた所で、独り言の様に呟いてくる茜。
「本音は柚奈自身に聞いてみなきゃ分からないけど……。まぁでも、”友達”としてなら一番なんじゃない?」
「ま、そんなものかしらねぇ……」
 それに対して、わたしは軽くシャワーを浴びながら素っ気無く答えてやると、茜は気が抜けた様な返事を返してくる。
「でも、どうして今更そんなコトを?」
「……ううん。何だかんだで、柚奈も鈍感な所があるよね、と思って」
「まぁ、自分の執着の薄い所は結構無頓着だし……」
「…………」
(……あれ……?)
 もしかして、茜がわたしにこんなコトをしたのって……?

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